価格の向こうにあるもの
新しい見積もりを準備する真壁千尋は、先月失った案件の記録を横に置いていた。安ければ選んでもらえるとは限らないが、高くても正しいとは限らない。対象となる監視の範囲、必要な調査の時間、顧客側に残る仕事。それらを分けて説明すれば、価格に理由を持たせられる。
田倉は原価表を修正した。研修の時間をこれまでより丁寧に計算し、機器更新の費用も加えた。見かけの利益率は下がったが、数字としては現実に近づいた。銀利は「本来必要だった費用が見えるようになっただけだ」と言った。厳しい数字に慣れることも、会社を立て直す仕事の一部だった。
良助は見積書の説明欄に、顧客が最初に決めることを箇条書きで並べた。「どこまで頼みたいか先に分かれば、選びやすいかなと思って」。真壁はそれを採用したが、表現を少し直した。顧客の代わりに技術的な結論を決めてはいけない。問いかける形にすれば、相手が自分で判断できる。
午後の打ち合わせで、顧客は予算を超えた場合の選択肢を尋ねた。銀利は削れる項目と削ってはならない確認を明確にし、いくつかの段階案を提示した。返答は来週になる。真壁は契約を急がせず、相手が検討に必要な資料を揃えた。 真壁は過去に値引きを重ねた契約の改訂履歴を見て、なぜ最初に安くしたのかを調べた。相手の事情を汲んだつもりでも、続けられない価格では長い支援が難しい。
終業時、田倉は来月の売上見込みを慎重に記した。まだ数字は確定していない。でも赤字を埋めるための値付けから、守れる仕事に見合う値付けへ少しずつ移っている。その変化は、請求書の一行よりも多くの人の判断を必要としていた。




