隣町の専門家
野江蓮は休日の勉強会で、同じ業界の小さな会社に勤める技術者、相良と話した。相良の会社も人手が足りず、夜間の体制づくりに苦労しているという。互いの顧客情報には踏み込まず、研修の方法や当番の分担について経験を交換した。競合する会社だからといって、何も学べないわけではない。
相良は「若い人に全部教えようとすると、こっちが倒れる」と笑った。野江は広瀬と良助の演習を思い出し、教える範囲を決めた話をした。相良の会社では二人一組で当番を交代し、片方が休む時間を確保しているらしい。人数や契約が違えばそのまま真似できないが、考え方は参考になる。
週明け、野江は飯塚へ勉強会で得た話を伝えた。銀利は他社の内部運用を無断で資料にすることを避け、公開できる一般論の範囲で検討させた。日下部は現在の当番表との違いを整理し、どの方法なら自社の勤務形態に合うか確かめた。
良助が「競争してるのに教えてくれるんですか」と聞くと、野江は「仕事を奪い合う場面もある。でも一緒に困ってることもある」と答えた。青年は少し嬉しそうにうなずいた。敵と味方だけでは分けられない関係が、会社の外にはいくつもある。 二人は難しい事故の詳細には触れず、仕事の受け渡しについて話した。顧客を守る情報は共有しなくても、疲れやすい働き方を避ける知恵は話し合える。
夕方、相良から勉強会の公開資料が届いた。野江は礼を送り、代わりに一般公開している演習資料の所在を伝えた。どちらの会社も、明日から急に楽になるわけではない。それでも同じ仕事を続ける人が別の町にもいると思うと、夜の当番表が少し違って見えた。




