安すぎる見積書
真壁千尋は顧客から送られた比較表を見て、思わず眉を寄せた。競合の見積もりはトラッバよりずっと安い。監視する機器の数は同程度だが、夜間の対応条件が詳しく書かれていない。安い理由が技術の効率なのか、提供範囲の違いなのか分からなかった。価格だけで劣っていると決めるには早い。
銀利は競合を悪く言うことを禁じた。相手の内部事情は知らない。自社が約束できる内容と費用を説明し、顧客に選んでもらえばよい。真壁は見積もりの注記を読み直し、比較できる部分だけを表にした。価格の違いを覆い隠すつもりはなかった。
良助は「この欄、夜中の電話の回数は含まれてますか」と尋ねた。真壁は契約条件を示して説明した。青年は次に「相手の会社にも同じこと聞いたほうが、比べやすいですね」と言った。営業としては自社を選んでほしい。しかし顧客が条件を理解せずに選べば、後で誰かが困る。真壁はその質問を比較表へ加えた。
顧客の担当者は丁寧な説明に感謝したが、予算の制約は変わらないと話した。社内では価格を優先すべきだという意見が強いらしい。真壁は値引きを持ち出さず、必要な範囲を絞った別案だけ示した。無理な条件を飲めば、また以前と同じ赤字を増やすことになる。 担当者は比較表を直してくれたことに礼を言い、社内で選びやすくなったと伝えた。選んでもらえるかどうかはまだ別だが、説明への信頼は失われていない。
事務所へ戻ると、田倉は明日の支払予定を確認していた。真壁は受注の厳しさを話し、彼女は静かにうなずいた。会社の売上は欲しい。だが何を売っているのか曖昧なまま増やすなら、次の月も同じ心配をするだけだった。




