十一人の会議
銀利樹一は月初の会議で、昨年度からの仕事量の変化を説明した。検知件数、顧客への連絡、夜間の対応時間。数字はいずれも一つの方向へ動いているわけではない。仕事が増えた場所もあれば、減らせた場所もある。会議の席には十一人しかいないが、それぞれ違う数字を見ていた。
田倉は収支がまだ安定しないことを隠さなかった。契約更新の条件が反映されても、仕入れや設備の費用は動く。真壁は新規案件の成約が未定だと説明し、飯塚は人員を増やす前に当番の負担を確認したいと話した。銀利は全員の意見を聞いたうえで、次月に試す改善を三つに絞った。
良助は最後列で議事録を取っていた。自分の発言が少ないことを気にする様子はない。会議後、広瀬が「今日は何か思わなかった?」と尋ねると、「皆さんが何を困ってるか、前より分かるようになりました」と答えた。広瀬はそれを大きな進歩だと思ったが、良助は資料を片づける手を止めなかった。
午後には、監査への是正報告をまとめる作業が続いた。顧客からの依頼も、設備の点検も止まらない。銀利は一日の終わりに机を見渡し、以前より未処理の書類が少なくなったことに気づいた。それは売上の増加より、今の会社には確かな変化だった。 銀利は会議で未決定の項目をなくそうとはしなかった。急ぐ必要があるものと、翌月まで様子を見るものを分け、判断できない理由もそのまま残した。
外では近くの工事現場が足場を組み直していた。建物が大きくなる前に、基礎へ手を入れる時間がある。銀利は新しい業務計画を引き出しへしまい、今日帰れる社員を呼び戻さないと決めた。十一人の会社には、まだ十一人分の明日が必要だった。




