歪の片鱗
「広すぎないか、この学院……」
俺の入学したテーサウルズ・タイムズ王国学院は、国の中心であるセント城の敷地内に存在しており、その敷地がとてつもなく広い。
庭も隅々まで綺麗に手入れされており、歩いていてとても気持ちが良い。つか、こんな広い庭どうやって手入れしてんだよ……。一瞬で庭を手入れする魔法でもあんのかな。
このテーサウルズは、学院といっても座学の授業は多くなく、学外での魔物討伐が主な活動である。
この国には魔法学校や武術学校などがある。それらの学校は、師の講義を受け、生徒は段々と力を付けていく。そしてゆくゆくは涙ぐましい努力が実り、魔物から国を守る存在へと成長していくのだ。とても素晴らしい。
……しかし。こちらの学院はというと、入学したら一ヶ月も経たずに魔物の前に立たされ、殲滅を命じられるのだ。とはいってもまあ、余裕っちゃあ余裕である。
宝器使いは大型の魔物、例えばワイバーンぐらいなら三体同時に相手をしても、宝器の適正者、つまり同級生に軍配はあがるだろう。
……たぶん。少なくとも自分は余裕だ。
シャレた石畳を道なりに歩いていくと、何だか見覚えのある場所に辿り着き、俺は思わず足を止めた。
待て、ここは……。一年前に俺がぶっ壊した宝器庫だ……。
気まずいな。見なかったことにしてっと……。俺は後ろを振り返り、寮に戻ろうとした。しかし、夕焼けに照らされて光る宝器庫を見つめ、哀愁漂う雰囲気の理事長をそこに見つけて、帰る足を止めた。俺は彼女に少し挨拶をして帰ることにした。
「こんにちは。理事長先生。どうされましたか。悲しい顔をなされている」
彼女は俺の声に気が付くと、顔をにこやかな表情に変えた。
「あなたは……。クロくんね。大広間での活躍、本当に素晴らしかったです。まさか入学初日で魔の軍勢の幹部をやっつけてしまうなんて」
「褒めていただき光栄です。ですが、国の外には魔族が数え切れぬほど存在している。それを全て根絶やしにするまで、お褒めの言葉はいただけません」
「志がとても高いのね……。あのね、クロくん聞いて。」
彼女はゆっくりと喋りだした。
「魔族の力は非常に強大だわ。私は小さいころ、魔族の襲撃によって、大切な、守らなければいけなかった命を失っているの。私は絶対に魔族から、大好きなこの国を守るの」
彼女は下を向き喋っていた。しかし、目はしっかりと見開き、未来を見ているのだった。
「心配いりません。俺が魔族を全部殺ります。俺は理事長先生に嘘は言いません」
「ありがとう。でもどうか……。どうか生きて……」
涙ぐんでいる。おそらく、どうしようもないほどに強大な魔の力を目の当たりにしたことがあるのだろうな。
「この宝器庫……。この宝器庫はね、国の王様の血筋にしか解くことのできない、結界のようなもので覆われていたの。だけど見て。屋根に大きな穴が空いているでしょう? あれはね、一年前、魔の軍勢が王都に攻めてきた際に大型の魔物が食い破ったのよ」
「あっ、え?」
「ん?」
「あっ、いや! そーだったんですねえ」
ふーん。なるほど。そういうことになっているのか。なるほど。
「魔族は、この世界のルールさえ破壊してしまう恐ろしい存在なの。この宝器庫を破壊されたせいで、たくさんの宝器が国のあちこちに流出したわ。その人間体になった宝器が暴走して人間の村を襲う事件が一件、最近起こってるの」
「待ってください、それ……。ガチですか?」
「ええ……」
何故だ。人間にそこまで明確な危害を加える宝器がいるとは信じ難い。
遠い昔に宝器を創造した「工神」は、【魔族から人間を守れ】という下命を拝することでしか、魔力を練って力を振るうことができないように宝器を設定したとされている。
まさか、その設定が徐々に効果を失いつつある? 人間に憎しみや怒りを覚える宝器が現れ始めている?――
「幸い、今回村の人たちは小さい怪我だけで済んだけど、宝器は捕えられなかった。これからも、宝器が人間の住む場所を襲い続けると思うと……」
「あの! 俺に力になれることがあったらなんでも言ってください! ホントになんでも……」
――それは計算外だったな。
「本当に? 嬉しいわ! あなたほどの子が手伝ってくれるなら、宝器の暴走も最小限にとどめられるかも!」
ぴょんぴょんと嬉しがる理事長を横目に俺は、静かに自責の念に浸る。
あの、マジでごめんなさい。壊したの俺なんです。
よろしければ評価・ブクマお願いします!




