謎の魔族
「至高王の願い、魔の未来のために。人間共の希望は元より無かったということを私が思い知らせてやる。ゴルゴン、準備はできたか」
ネメアーとゴルゴンは、セント城の上空を浮遊しながら城の様子を伺っている。
「うん……。だけど、今回の人間は至高王が最も警戒する、『過去を知る者』なんだろう……? ネメアーはあくまでも時間稼ぎで、トドメは合流したワタシと二人で確実に刺すっていう作戦でしょ……」
「ああ。だがもしもお前が合流する前に、私がついついそいつを倒してしまっても、なにも問題ないよな?」
慎重派なネメアーがこんなことを言うので、ゴルゴンは少し驚いていた。きっと彼は至高王に認めていただきたい一心なのだろう。
焦らなくてもワタシたちは十分認めていただいていると思うけどな……。
「ムリはするなよネメアー……」
「お前もな」
ゴルゴンは紫の淀んだ目を城の方に向け、力なく唱えた。
『……テレポーテーション』
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ゴルゴンは転移の魔法を唱えた瞬間、手に持っていた懐中時計の見た目をした準宝器 〈コントロウル〉をカチッと発動させた。
この準宝器は、最上級の時間停止魔法『パーフェクション・ストップ』を即発動かつノーペナルティで実行することができる。その他にも、これを使って実行できる魔法はあるらしいが。
ゴルゴンはセント城の天窓の上に転移を完了した。天窓から見える大広間は、先程発動させたコントロウルの効果によって時間が止まっていた。
「応えて……。宝器〈ステン・ア・レーサ〉」
すると、紫の光とともに先端に複数のヘビを象ったロッドが出現した。力なく四つん這いの姿勢で宙に浮いていたゴルゴンは、そのロッドを手に取ると、身を翻し直立に姿勢を変えた。
『ギャアアアアアッ!』
ゴルゴンは目を紫に光らせ金切り声を響かせると、大広間は紫のクリスタルにゆっくり侵食されだした。
「よし……。まずはターゲット以外の人間を排除する……。不可視状態で中に侵入して、一人づつ殺そうかな……? いや、それだと時間がかかる……。時間稼ぎをしているネメアーに負担がかかっちゃう……。それはダメだよね……。だからここからスキルを使用して一掃しよう……。エヘへ……」
ゴルゴンは不敵な笑みを浮かべ、ロッドを両手で持ち、上に振りかぶった。
「何してんだ? お嬢ちゃん」
突然横の方から声がした。ワタシに喋りかけている……? ありえない、気配を感じなかった。何者……?
声がした方へ振り向くと、三人の奇妙な格好をした者共が屋根の上に立っていた。
「な、何アナタ達……!」
ゴルゴンは笑みをやめ、ステップで後ろに下がりながら、その三人から咄嗟に距離を取ろうとする。
『テレポーテーショ…』
『ゴッズマジック・魔法解約』
は……? 聞いた事のない魔法。ワタシが知らない魔法……。転移の魔法がキャンセルされた……。
ゴルゴンは瞬時に理解した。コイツらとはまともに戦ってはいけない。すると、金髪の緑ゴスロリが口を開く。
「結界が付与されたあのクリスタル…。やっぱりステン・ア・レーサね。久しぶりに見たわ」
プランタは歩いてゴルゴンにゆっくりと近づく。
「く、来るな……!『オーダーマジック・クリスタルグラディウス』!」
するとゴルゴンの目の前に、通常のものとは違う、特殊な魔法陣が現れた。ゴルゴンが右手で、重めのロッドを大きく何度も振ると、魔法陣から尖った剣状のクリスタルが無数に飛び出し、三人へ向かって発射された。
「……!」
しかし三人は、クリスタルを避ける素振りも無く、防御魔法で守ろうともしなかった。
クリスタルはただただ、三人の身体にぶつかって砕け散るだけであった。痛がっておらず、ダメージを受けている様子もない。
「ば、化け物だあ……!」
「オイ、その見た目のヤツには一番言われたくねえぜ」
ゴルゴンは思考した。
至高王が言っていたのだ。
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「想定外のものを見たときは、精一杯思考を巡らせろ。そして自分にとって、我々にとって、私にとって、一番良い結果となるように動け」
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「ワタシは……! 生きて逃げる!」
ゴルゴンは、ロッドを持ってない方の左手を大きく横に広げた。
するとゴルゴンの身体に、銀色に輝く鎧が浮かび上がるように現れた。その鎧は、上品な金色のスワール模様があしらわれており、ひと目でただの鎧ではないと分かるほどである。
「待ってキミ、宝器を複数扱えるの……? それは宝器 〈大・アーハンの鎧〉だよね?」
ベルが呆気にとられている間に、ゴルゴンは目にも留まらぬ速さで五十メートルずつ後方へ瞬間移動し、止まっては後方へ瞬間移動することを繰り返していた。
瞬間移動する毎に鎧の模様が光り輝いていた。この目にも留まらぬ速さで移動することを可能にするのが、あの鎧の能力なのであろう。
「どうする? 追うの?」
「……いや。追うことはできるけどよしておこうよ。相手が色々な宝器を持っていて、尚且つそれをあの魔族一体で何個も使用できるなんて」
ベルは、らしくない淡々とした口調で答えていた。
こうやりとりをしているうちに、ゴルゴンは居なくなっていた。
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