情報の収集
夕闇の王都。
ベルは街にある一番高い塔の上に立ち、強い風に吹かれていた。
ベルはクロから命令された、『準宝器』を作る工匠をこの国から見つけるという任務にあたっているのだった。
先日、街の情報屋の人間からプランタが催眠魔法で情報を吐かせたところ、エヘラ・グレースという男がこの国で有名な工匠であると分かった。その工匠がセント城に出入りしていることは、複数回の監視で確認済みだ。今回はその工匠との接触を試みる。
そろそろ時間だ。セント城にその工匠が近づく前に捕らえる。
ベルは、街から城門へと続く道を監視しながら垣根の木の枝に座り、足をぶらぶらさせていた。
「うーん、そろそろここを通ってもいい頃だけど、今日はこの道使わないのかなぁ」
ベルは、ぴょんと木の枝から飛び降り、不可視の魔法を唱えた。
『パーフェクション・インビジビリティ』
ベルは自分自身に不可視の魔法を付与した。
第三階級程度の不可視を使っておけば、まず人間には見つからないだろう。クロくんからも、任務で魔法を使用する時は、原則として第三階級の魔法を使い、例外として、使う対象に応じて階級を調整しろと言われている。
第三階級は人間界において「最強」の領域である。
ベルは気合を入れるように少し頷くと、城壁に登り、辺りを見回した。そして、思わず独り言がひとつ出たのだった。
「ひっろいなぁ。ホントに……」
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城壁では城に使える神官と兵士が数人、夜の王都見回りの準備をしていた。
入学式の魔族による襲撃の一件から、王都タイムズは、魔族に対する警戒レベルを大きく引き上げたのだった。国を覆うように貼ってある結界は、今までこの国に魔族の侵入を許したことなど一度もなかった。
しかし魔族の幹部は、何らかの方法でこの国に侵入していたのである。一体は入学生の一人が一撃で仕留めた。
だが報告があったもう一体は逃走し、依然と姿を晦ませている。まだこの国に潜んでいるのだとすると……。即刻に見つけ出して排除すべきだ。
見回りをする際は王都から支給された一つの水晶を使う。この水晶は、使用している者の周辺に存在する超強力的な魔力だけを検知できる代物だ。魔族は基本的に魔力の塊のようなもので、もし周辺にいれば水晶が強く反応する。また、これは神官が使用することによって最大限に効果を発揮する。
兵士が口に手を当て、神官らに呼びかけた。
「そろそろ出発します! ご準備はよろしいでしょうかー!」
兵士と神官は南の城門から城の外に出た。辺りは妙に暗く静かであった。
城を出てから十数分歩き続けた。
神官らは兵士の後ろを歩きながら声を潜め話し合っている。
「本当にこの国に魔族が侵入しているのですかなぁ。この国を覆う結界を突破するなどありえない……。恐ろしいことだ……」
「しかし実際、障壁結界が破壊された様子は無いのだ。これはどういうことか……」
「んん……。ん? み、皆の者待たれよ! これは……!」
神官らは目を落とすと、神官長が持っていた水晶が強く光りだしているのを確認した。
兵士が慌てた様子で聞く。
「どうしましたか! これはまさか、近くに魔族が!」
神官長が応えた。
「うむ、これは……! 魔族の魔力とは少し違うような……」
「なんにせよ、近くに人間ならざるものがいる可能性がある! 至急、待機させている宝器使いを呼ぶのだ!」
辺りの空気は一変し、冷たい風が吹き始めていた。




