最強の無契約―2
――キィィィン……。
弾かれた最後の剣が宙を舞う。
「武器召喚系の高度な魔法を使った後だ。いくら三原宝器でも強力な一撃の魔法をポンポンと撃てるはずがない。さあ、次はどう来るかな」
プランタの次の動きを考える事に意識をふと向けた瞬間。
「ん……。なに……?」
ラングルスはプランタを見失っていた。
「転移の魔法? いや“波”を感じなかった。」
基本的に宝器でも人間でも魔族でも、魔法を使う時は、体内に魔力の波がほんの一瞬だけ巡る。
ラングルスは特異体質により、身体能力だけでなく、五感も常人の域を超えている。よって、魔法を使おうとする対象の魔力の波も感じ取ることができる、はずである。
「となると転移のスキルか……。最初の奇襲を避けた時もコレを使ったのか。それしかねえな。バケモンがよ」
転移のスキルや転移の魔法は非常に高度な術であるとされている。最高位の魔道士でも習得できてない者が多い。空間をどうこうする魔法やスキルは、揃いも揃って高度であり、これを習得できるかは才能やセンスの世界になってくる。
ラングルスは目を閉じた。プランタの中にある宝器の魂を感じ取ることだけに神経を注ぐ。
「……上!」
上を見上げると、先程弾き飛ばした剣を掴んだプランタがそこにいた。
ラングルスは自身が立っている真下の大地へ剣を勢いよく振った。すると、とてつもない気流が発生し、その気流の刃が大地を割るように大きく傷つける。
そして撹乱するかのように辺りをランダムに高速移動しだした。
「……ッチ。驕るなよ凡愚」
立ち上る土煙で視界が悪くなる。プランタは柄にもなく舌打ちをした。
「失礼だな。俺はいつでも真剣だぜ」
ラングルスは足元の瓦礫を掴む。そして静かにプランタの後方へ回り込んだ。
ブォォォン……!
土煙を払い除け、弾丸のごとき瓦礫が雷光のように飛び、上空にいるプランタの背中へ直撃する。赤い血が静かに飛び散った。
プランタは衝撃で反り返るも、無表情な顔は変わらない。
「お前らの肉体は人間をただ模して作った魔力の塊のはずだ。リアルに血まで噴き出すんだな」
プランタはよろけながら笑みを浮かべる。そして口を開いた。
「血液というのは酸素や栄養の供給、殺菌、体温の維持などを行う、人間にとっては不可欠な存在。しかし、私たち宝器は無機物。このようなものはいらない」
プランタは飛び散る自身の血液を手で集める仕草をした。
「ではこれはなんなのか。そう、こっちの肉体と同じ、“魔力で形成した液体”だ」
ラングルスはいきなり饒舌に喋り出すプランタを見上げながら、土煙の中でつっ立っていた。
プランタは手に付着した血液をラングルスに目掛けて払い飛ばした。
『マルティプライミスティックマジック・シャドウ・オブ・ラクタヴィージャ』
プランタが払い飛ばした血液の一滴一滴が光だして、みるみるうちにプランタの分身に変わっていく。血と共に舞うプランタの周辺から数百の分身体が現れた。それらは全てラングルスに上から襲いかかる。
「わお……。撹乱するには十分な魔力を孕んだ分身体か。おかげで本体がどこかわからねえ。孕んでる魔力の質が本体とまるっきり同じだからな」
大勢の分身と土煙で太陽の光が隠れ、薄暗くなる。
「さらに持ってる武器まで複製。確かにこりゃ……。あんたら宝器、いや。プランタにしかできねえ芸当かもな。この展開を読んで、さっきの魔法の最後の一発は、実体召喚じゃなくて自分の魔力で剣を形成してたってわけだな」
分身体は剣を逆手に持ち、勢いよくラングルスに降り注いだ。そしてそれらはラングルスの上に積み重なる。
――シュシュシュン……スパァァァン!
しかし、いとも簡単にプランタの大勢の分身を吹き飛ばすのだった。余裕な表情で直立するラングルスが姿を表した。
ラングルスはそれなりの切り傷を負ったものの、致命的な損傷はなかった。吹き飛ばされた分身には全て切り込みが入り、細かい塵となって消えた。まだ残りの分身が取り囲むように立っている。
「厄介だな。あのボウズの意識が戻る前に掃除しとかねぇと」
そう呟き、姿勢を低くして右手に持つ剣を握り直した。ふぅ、と小さく息を吐くとラングルスはそこから音もなく姿を消し、立っていた場所にはつむじ風が起こった。
――ヒュゥゥゥン!
辺りを囲む分身を、常人の目では追えない速さで次々と斬り裂いていく。音を置き去りにする。静かに躍動する風のように。
全て捌き斬ると大きく息を吐き、さらにボロボロになった剣の刀身を右肩に置いた。後ろでプランタが作った全ての分身が塵になっていく。しかし、警戒は解かない。
再び姿勢を低くし、一瞬で考えを巡らせる。
「反撃なし。分身は囮か。俺を魔法で狙える安全な場所に隠れたのか?」
辺りの土煙が収まる。ラングルスはズタズタになった森の周囲を見回した。ここは少し開けているが、それより向こう側は木々で覆われている。
「姿を眩ませたな。いいぜ、どこからでも撃ってこい。お前の魔力の質は覚えた。国境レベルで離れてなきゃ、魔法を使う瞬間の魔力の波は掴める」
剣を強く握りしめる。全神経を反射神経に集中させた瞬間だった。
――いや、違う……。
ラングルスは背後に感じた、一瞬の違和感を見逃さなかった。
右手にあった剣を左手の方へ投げ、握った瞬間に後ろへ振り返りながら剣を振り切った。
ブォン! カキィィン……!
そこには、剣を弾かれ、体勢を崩しながら後退するプランタがいた。
「気づかれた……! それに、魔力で編んだ剣も……!」
プランタが振るった剣は、弾かれた衝撃で粉々に砕かれたのだった。プランタが自身の魔力で作ったこの剣は、言わば自分の分身である。魔力によって生成された武器の強度や性能は、込めた魔力の質に由来する。よって、強度はあの三原宝器『プランタ』とほぼ同等であると言える、はずだった。
剣を振り抜くラングルスは非常に冷静な顔だった。それに対し、プランタはよろけて倒れていくさ中、驚嘆していた。
「それだけじゃない……。魂の気配を消した上で転移スキルで仕掛けたのに、この人間ッ……!」
(驚いたな。魂の気配を完全に消せたのか。さっきまでの転移は、魂の気配までは消せないと思わせるブラフだったってわけだな)
プランタは急いで地面を蹴り、後方へ距離を取ろうとする。
「トランスセ――」
「もう無理だろ」
右手を前に広げ、魔法の詠唱を始めた時にはラングルスは既に背後へ回り込んでいた。
シュン! ブシャア……!
プランタの額は引き裂かれていた。
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