最強の無契約―1
「おっちゃん、おはよう。テキトーな剣1つくれ」
「なんだ、また若いやつに稽古か」
「ああ。俺ももういい歳なんだけどな。昔みたいには振れない。若いやつの相手はそろそろ骨が折れる」
「はっ! おめえはまだわけえじゃねえか! 小僧が」
手に取った剣は刀身は傷ついているが、しっかり手入れがされている。
「こいつでいいや! ほら、釣りは要らねえからな!」
銀の硬貨を手渡す。
「ふんっ。小僧がよお」
****
「ラングルス・ドルフィン、仕事です。あなたにしか出来ないことです」
長身の僧侶が口の端で細い煙草をふかしながら応える。
「嬢さん。生憎、ここずっと帝国のドンからの頼み事で忙しい。他当たってくれ」
「知っています。宝器や法具の収集……。いや、強奪ですよね」
僧侶は頭を掻きながら目線を斜めにやる。
「お、おう。そうだ。分かってるなら……そういうことだ。また今度な」
後ろに歩いていく僧侶を横目で見ながら少女はひとことこう言い放った。
三原宝器――。
僧侶は足を止めた。
「三原宝器のうち二つが、この帝国に来ています」
目線だけを少女の後ろ姿に向ける。
「確証は?」
「レベルです」
少女はヒラヒラの装飾がついたフリルのスカートを翻しながら僧侶の方に振り向く。
「260と290」
僧侶は目を閉じながら苦笑いする。
「はっ……。信じていいのかねえ」
「誰が言ってると思ってるのですか」
少女は微笑みながら続けて言った。
「信じられないなら実際に確かめてみては? あなたは私からこれを聞いて確かめずにはいられない、そんな人間のはずです」
静かな教会の高い天井を見つめる。優しくもどこか冷ややかな陽の光が差し込んだ。
「分かったよ。で、いくらだ?」
****
ベルとプランタは空中に浮遊しながら、えぐれた地面の真ん中にいる僧侶を見つめている。
「剣を振り下ろした風圧だけでこれ? この人間、今までで結構上位でやばいかも」
しかし驚くべきはそこじゃない。
「よお、問題児宝器ども。降りてこいよ」
「ラングルス・ドルフィン。帝国最悪の宝器狩り」
僧侶は眩しそうにこちらを見あげている。
「お、俺有名人か? でもその二つ名、もっとイイのあっただろ。サイアクだ」
スパーン……!
プランタの横で血飛沫が上がる。気づくとベルの左腕は空中を舞っていた。あまりにも一瞬のことだった。
「この人間、見えなかった……? いつの間に空中に……」
「くっ……!」
速すぎる。まるで空を蹴るようにベルの真上に瞬間移動する。
「このやろっ……」
ガギイインッ……!
ベルは体を翻し、次の僧侶の剣撃を右手のダガーで受け止める。しかし、ラングルスの剣を振り下ろす力は圧倒的であった。空中7メートルほどから地面に叩き落とされた。
ベルの体はえぐれた地面と土煙の中に消える。
「あっぶねぇ。おかしいな……。あの人間は確実に『無契約』だ。宝器の魂の気配を感じない。だけど今の剣、当たってたら確実に……」
ベルは朦朧とした意識の中で苦悶した。
「致命傷、だった……!」
――まさか、宝器と無契約でこのフィジカルだと言うのか。
ラングルスはプランタににやけた顔を向けながら落下していく。
「俺はなあ、特異体質ってやつでねえ。そこら辺の一般人と一緒だ。魔法もスキルも使えねえ。もちろん宝器もだ。そういう体で生まれちまったんだ。だけどよお」
ラングルスはプランタの方に体勢を向ける。
「お前ら宝器を《《魂ごと》》破壊できる!」
「……チッ。化け物め! マルティプライミスティックマジック」
プランタが詠唱を始めるのと同時に、強大な覇気を放つベルが土煙から姿を表した。
『ドラゴニックヴァイタリティ』
ベルは畝る白い闘気を纏った。地面を蹴って空へ、落ちてくるラングルスを目掛けて跳ね上がる。
「速いな。速いけど単純すぎだ」
ダガーの剣先がラングルスの胸元に当たる直前に、ベルの右手首は優しく掴まれていた。
「なにっ……」
「おらよ。もう1回、地面と仲良くしな」
ラングルスは空中で勢いよく回転し、ベルを地面に放り飛ばす。
ラングルスはフッと笑った。
三原宝器。それは宝器の中でも紛れもなく1番最初に工神によって作られた、3つの宝器。他の宝器はすべて、この三原宝器を元にして作られている。最初の宝器だけあって戦い方もシンプルで古い。
宝器〈ベル〉は圧倒的な速さで先制攻撃からの、攻撃のターンを相手に譲るスキも見せない、短時間で勝負を決めるタイプ。
一方〈プランタ〉はただただ圧倒的魔法火力頼りの脳筋戦法。
『マルティプライミスティックマジック・グラディウスショット』
プランタは静かに上へ浮遊し、それと同時に周りには真っ直ぐな刀身の両刀の剣が無数に出現した。
プランタは両手を広げ、ラングルスに向けて振り下ろした。すると無数の剣は剣先の向きを変え、ラングルスに向けて放たれる。
「武器召喚系の魔法。転移の魔法と並ぶ上級の魔法だ。しかもそれを乗算魔法で強化か。コイツはホンモノだな」
ラングルスは傷ついた自身の剣を固く握った。風を切る音を響かせながら無数の刃が襲いかかってくる。しかし、ラングルスはそれを目にも止まらぬ剣裁きで全て弾き飛ばすのだった。
高速で到達してくる剣に対して、一手一手確実に自身の太刀筋を合わせ、全て弾く。プランタも矢鱈滅多らに剣を撃っているつもりはない。緻密な魔法制御によって、「ラングルスに直撃するであろう一発」を無数に繰り出しているのだ。
キィィィン……。
最後の一発を弾く。プランタは黒目を小さくし、震わせた。
――問題ねえ。すべて、史実通り。
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