94話
ボルケーノの眷属、機怪人達は半ば意識を共有してるらしい。
陽動は効果覿面で、あちこちの砦から飛行能力のある個体群は蝗害みたいに群れを成して支配域の西端を目指しだし、あまり効率的ではないようだが転送陣を多用してる反応もあった。
「ちょっとピロシ、多過ぎない? ヤクシャの隊、というよりヴァーリンの拠点まで攻めて来そうだわ」
うっ、ロックローズの心配も無理ない。相手の兵力の規模がさ。直に見ると、引くのはわかる。
「守りは固めてもらってるが······ヴァーリン、大丈夫だよな?」
「長年小競り合いしてきた、逃げ足に関しちゃ問題ない。拠点の守りも固いさ。アストロロジーの嬢ちゃんのお陰で侵入ルートはだいぶ絞られたしな。マシラ以外の飛行種や対空できる眷属もそれなりにいる。珍しくフェネクスが眷属を融通してくれたのもある」
(相手は眷属をいとも簡単に『生産する』。材料と動力に蓄えがあれば我ら以上に不死性のある軍勢だ。今回の奇襲で仕留めねば泥仕合になる。それだけのこと)
「なるほど、友達の家が心配だから面倒見てくれるってさ! ダハハハッ!!」
(っ?! 猿! 図に乗るな!!)
「ヴァーリン、フェネクス、気配バレるから大人しくしてくれ」
まぁヤクシャ達と居残り組の無事を祈って俺達は結構複雑なルートでボルケーノ拠点、機怪城を目指した。
······程なく異様な機怪城のシルエットが揺らめく陽炎の先に見え出した頃、ヤクシャ個体から通信が入った。
『そろそろサンドゴーレムが壊滅します。後方に相手の幹部も1体食い付いてくれたようです、気配や砲撃の性質からおそらくコッカリルゴーストのヤツですね』
「ヤクシャ達後退するらしい。食い付いた幹部は『コッカリルゴースト』!」
「素早く、連射する幹部だ。アイツはしつこいな。拠点まで追ってきちまうか······そのつもりでヤクシャとビショップに知らせておく。そっちも待機組に知らせとくといい」
ヴァーリンは片手の指先をこめかみに当て、思念を送りだした。眷属に使えるスキル。
俺も言霊の石・改弐でエル・ジェリーマンに知らせておいた。エル・ジェリーマンは眷属を多数『内包』してる。
コメリナとアストロロジーもいるし、スキュラも支援できる。アリッサのお守り込みでも上手く対応してくれるはず!
「坊、そろそろ気付かれてもおかしくない。今回、アストロロジーはほとんど近付けておらず、攻略に関して詳細な予見がない。先読みできない時は最悪と最適を考慮するのである」
アバドンさん、教官モード。ええと、この場合は、
「了解。全員、一斉掃射と狙撃、両方あり得る。ヴァーリン達は俺達を盾にする陣形を。ロックローズはネガジャバウォックの被弾面に結界を張る準備を。フェネクス達はいけるよな?」
(問題ない)
俺達は位置や態勢を改めた。
こっからさらに近付き、時計の中身を多重に重ねたようなデタラメな形状の機怪城がはっきりと見えた辺りで、
ドッ!
機怪城の上階の屋根の一角から、相手の結界をすり抜けて放たれて一撃が正確に不可視のはずのネガジャバウォックの胸部に撃ち込まれたっっ。
それをロックローズの結界でどうにか受け切る! 隠蔽魔法が消え、狙撃以外の機怪城から一斉掃射が始まるっ。
「んぎ、凄く重いわ?!」
(貫通弾の狙撃。幹部の『ゲルリッヒゴースト』だな。ヴァーリン、まだ姿を現すなよ?)
フェネクス達は姿を晒して攻撃を引き付けだしてくれた。
城からの対空掃射はともかく幹部個体ゲルリッヒゴーストらしい狙撃はあくまでネガジャバウォック狙い! おそらくフェネクスに金属? の実体弾は効果が薄いからだろう。
ロックローズはすぐに要領を得て初動はたぶん自動化させて少ない面の結界で効率よく受けだした。
「フェネクス! ネガジャバウォック! まずは魔力障壁に穴を開けてくれっ。どうしようもない! ヴァーリン達は堪えて潜行!!」
「ゾォアアァッッ!!」
(元よりそのつもりよ!)
2体の首魁は城の結界の一点に集中させてメガマナブレスと熱線を放った。
バチィッッ!! 電気式? の結界は大きく爆ぜ、大穴が空いた。一斉に雪崩れ込み、まだ早い気がしたが味方を盾にしていたのが我慢ならなかったのか早々にヴァーリン達が姿を現し、城の砲台や機怪人兵達に一斉に踊り掛かった。
「雲が使えた方がやりが易い! ゲルリッヒゴーストも任せろっ、なる早で片して合流してやる!!」
豪語するヴァーリン。実際、『伸びる長棍』を振るうヴァーリンは紙を裂くように飛行種の機怪人を打ち払っていたが、ワーマシラ兵群はさすがに被害が大きく出そうだ。
「城内は狭い! 突入路が開けたらネガジャバウォック達はヴァーリン達を支援!!」
「いいぞ? オレ、狭くない方がいい! ゾォアッ!!」
本当は飛び回れるフェネクス達の方がよさそうな気もしたが、性格的にこの流れでヴァーリンの助太刀に残すのは嫌がるだろう。
「だったらまだるっこしいのやめだ!」
黒玉仙とエビルカーバンクルの援護で飛び出したクリスタルリトーが右腕を巨大化させた。この間の比じゃない。『本来の姿』の腕のサイズっ。
振り抜くクリスタルリトー。多数の機怪人兵と砲台を粉砕しながら機怪城の壁面に大穴を空けた!
「突入する! ネガジャバウォックっ、ヴァーリン! 任せた!!」
俺達はそこらに落っこちて暴れだしてたクリスタルリトーをヨミロートスの樹の触手で回収してもらいつつネガジャバウォックから飛び降り内部に進入!
屋根のゲルリッヒゴーストを牽制していたフェネクスも黒炎を逆巻かせて大男の姿となって4幹部と共に続いた。
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ネガジャバウォックと三滅槍も派手に暴れだす乱戦の中、ピロシ達を仕留め損なった屋根の上のゲルリッヒゴーストと飛行する雲を駆るヴァーリンは対峙していた。
ゲルリッヒゴースト。『先細りの巨砲の頭部』を持つ大型の機怪人であった。
「おや〜? ヘタクソな鉄砲撃ちがいると思ったらゲルリッヒゴーストさんじゃないのー? 俺の代で『2回殺された』割には元気そうだな?」
「だんじょんますたーノ後援ヲ得タ途端強気ダナ。利ニ聡イ猿メッ!」
「ダハハ、俺も立場があるからよ、勝確じゃねーと物騒なことはできねーワケ、お?」
会話を無視して近距離で精密速射をされると器用に身を逸らして避けるヴァーリン。
続けて全身の露出した小さな砲を連射されるが全て踊るようにいなす。
「そういうワケで」
雲を加速させ、突進の勢いと突きの勢いさらに伸びる魔法の長棍の勢いを乗せた猛烈な突き『天竺閃』スキルでゲルリッヒゴーストの胸部の核を撃ち抜き、棍を縮めるヴァーリン。
「これで3度目だ。いい加減······っ?!」
雲から飛び退くヴァーリン。その次の瞬間に倒したはずのゲルリッヒゴーストの主砲と全身の小砲から猛烈な砲撃が放たれ、ヴァーリンの飛行する雲は消し飛ばされた。
胸部に風穴の空いたゲルリッヒゴーストの周囲に多数のこの世界では異質なジェムが2種旋回していた。
「『ましんじぇむ』ト『うぉーじぇむ』。迷宮ノ支配権ヲ奪還デキルソノ時マデ、温存シテイタ。下等生物ドモ!! 我ラガ行軍ッ、刮目セヨッ!」
機械と争いの霊石を全て吸収し、傷口を塞ぎ、巨大化するゲルリッヒゴースト。
「ダハ、『受刑生活』でそんなムキになんなって」
冷汗をかきつつ、ヴァーリンは機械仕掛けの屋根の上で伸びる長棍を構え直した。




