93話
断固として矢文を射つぞ? こっちのことは向こうにも当然知れてる。なし崩しだったザリチュ戦の段取りには少し後悔もあった。
アストロロジーに占ってもらうと、
『交戦に影響が全くないが、事後の交渉には良い影響』
と出た。『交戦に影響が全くない』てのも相当だが、勝利前提の予見と思われる内容しか出てないこと自体は好感触っ。というワケでカイムに頼んだ。
「よろしく」
「カァ、まぁやらんではないですがね」
嫌そう······
「疾く行け」
「っ? 御意!」
結局フェネクスに睨まれると慌てて行ってくれた。
中部のボルケーノの支配域の西端の砦化されてる野営地の1つに、隠れ身のマントを着たカイムが耐熱素材の矢文を城壁外に射つと、相手方の『機械の眷属』に回収されたそうだ。
まずはよしっ。
矢文には『返答期限は2日』と記載していた。
1日目、ボルケーノの支配域の警戒体制が厳しくなり、半端な隠蔽魔法効果では偵察困難になった。
2日目、ボルケーノの拠点、支配域西端エリア、及び対立してるアペフチの支配域に面した東端エリアの防衛体制が厳しくなった。
返答はない。
因みにアペフチにもヴクヴ・カキシュを使いに出していて、会えはしたが『東部の7層首魁達の様子を見ているから動けない。自力でどうにかするといい』とのこと。
1つの層に3層分集まるのはやっぱキツいな。ま、敵にはならなそうなだけマシってことにしとこう。
「んじゃ、ボルケーノに『積極的な交渉』をしに行こうか?」
俺は水属性と氷属性を最大強化したシーカーローブに耐熱帽子もばっちり装備。どっちも『ザトウマージ工房』製だ。
「いい言い回しですね、ピロシ君」
決して相性のいい相手ではないので『冬の森の力』だという氷属性装束を纏っているヨミロートス。今回は単独参戦で俺の護衛担当。
「人間らしい欺瞞じゃねぇか、おおん?」
相性は割といいのでいつも通りのクリスタルリトー。簡単にアクセサリーで高熱対策させた黒玉仙とエビルカーバンクルも連れてる。前衛担当。
「完璧に『制圧』してやるわ!」
自前の『吹雪の魔女セット』装備のロックローズ。俺の補佐担当。補佐ってなんだろな??
「ピロシが遠回しに行ってるんだから」
ツッコミつつ、コメリナはアストロロジー、スキュラ、寝坊助アリッサとエル・ジェリーマンと共にビショップ個体が護りを固めるヴァーリン拠点に残る。
「なんにしても、ケリがつくのはいいことさ」
ヴァーリンとヴァーリン軍本隊は俺達に随伴する。
「あんなガラクタとまともに交渉はできん」
フェネクスと幹部4体も俺達に随伴。
「リュブリャナ殿が造ってくれた装備が強力過ぎてちょっと寒いですぞ?」
「あんたは骨だけなんだから寒いもなにもないだろ? あたしなんて冬眠しそうだよっ」
「殿、ヒィィィッッッ」
強い氷装備で固めたヘルスパルトイとゴールドスコップは改めて殿担当。属性相性はいいけどこっちの攻撃もあまり効果なさそうなツルベ火クィーンは殿組の補助を担当することになった。
「ゾォア、ボルケーノ達、『美味しくないから』俺、苦手」
食べたことはあるらしいネガジャバウォックは今回も俺達を運んでくれる。三滅槍を連れ、首にはザトウマージ製の強力な水と氷のアクセサリーを装備してる。
「ふむ。狙い通りに上手く回ればよいのであるがな」
「「ケムケムっ」」
アバドンさんは強い氷属性の額当て装備のケムシーノ2体を連れ、俺のやや後ろの定位置。
整えるべきは整えた。
「出発だ!!」
ネガジャバウォックとフェネクスの背に乗り、ヴァーリン軍は飛行する雲を駆り、居残り組や拠点住人に見送られてヴァーリン宮殿を飛び立っていった。
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ピロシ達は生半可な隠蔽魔法効果ではもはや潜入不可能であった為、ネガジャバウォックに乗る隊はヤコゼンが自身が矮小体化する対価で強力な隠蔽魔法を掛け、フェネクスに乗る隊はヴクヴ・カキシュが矮小体化する対価で隠蔽魔法を掛けた。
ヴァーリン隊は『クレリック個体』数十人が纏めて幼体化する対価で隠蔽魔法を掛けていた。
矮小化ないし幼体化した者達はいずれも移動中にエリクサー等をガブ飲みして到着までに回復する、という荒っぽい手筈であった。
「うっぷっ、元のサイズに戻ってもすぐ役立てる気がしないコン······」
「ピョゥ······」
これまでの攻略であればこれで十分な所と言えたが今回は相手の総戦力が桁違い。
アペフチや7層首魁が背後に控えていなければ物量だけで押し切られかねない程の差があった。
よって、
「そろそろだな」
ネガジャバウォックの背で、左手に通信力を強化した『言霊の石・改弐』を持ちながら、右手に持ったやや大き過ぎる懐中時計で時間を確認するピロシ。
一方で、全員隠れ身のマントを装備し西部の砂漠の端から遠目に見える程最も近いボルケーノ側の砦化した炎熱地帯の野営地を窺っていた、数百の兵のワーマシラ兵を率いる物理戦型幹部個体『ワーマシラ・ヤクシャ』は下級兵に持たせた大仰で古風な置き時計で時間を確認すると、言霊の石・改弐に文字を打ち込んだ。
『決行します」
ヤクシャ個体の別動隊は動き出した。
まずは前衛が人形の頭部のような装飾の短刀を砂地に投げ付ける。この魔法道具は即座に発動し、周囲の砂を巻き込んでビッグヘッド開発の『サンドゴーレム・改』を200体生成。
砂のゴーレム達は事前の条件付けに従い、下半身に砂のつむじ風に変え巨体に似合わぬ高速で炎熱地帯に突進を始めた。
砦には多数の、この世界の文明基準から逸脱気味の機械式の砲台がありそれをボルケーノの眷属『機怪兵』達が運用し、激しい弾幕を張り出した。
自我なきサンドゴーレムは恐れを知らず、素早い上に多少の被弾はすぐ再生する為そう簡単には止まらない。
「知性ノナイ下等傀儡!」
「不愉快ダナッ!」
機怪兵達は不快感も露わにより激しく迎撃したが数が多過ぎ、10体余りが突撃自爆で砦の魔力障壁を破り、そのまま城壁戦に雪崩れ込まれ、混乱が広がった。そこへ、
「気張れっ!!」
「「「ウキィーーーッッ!!!」」」
全員雄叫びを上げて飛行する雲を駆り上空からヤクシャ隊が突入した。
「ギィッ?!」
「猿ドモッッ」
下級兵でも弾丸を避け、手持ち武器で打ち払い、熱耐性を持つヤクシャ隊はサンドゴーレムと共闘し瞬く間に砦を蹂躙していった。
「ふぅ〜っ」
一通り片付いたと見ると再び言霊の石・改弐を取り出すヤクシャ個体。
『制圧完了。ここからゴーレムが壊滅するか、幹部が出てくるまで適当に進軍し、撤退します』
ピロシは通信を確認した。
「ヴァーリン、ヤクシャは優秀だな。上手くいった。俺達も急ごう」
「アペフチへの牽制込みなら短期的には兵の配置に動揺が出るはずだぜ? 特に無駄に出張ってくる幹部個体はよ」
「期待したいな!」
杭の通信を切り、ピロシは気を引き締め直した。
一行は相手の索敵の厳しさやアストロロジーの予見を元に最適のルートで、焼け付く地表を越えボルケーノの拠点『機怪城』を目指した。




