91話
取り敢えず、相手のビショップ個体に求められるまま収納していた大量の物資を出して山積みした。糧食もたっぷり。
「「「うぉおおーーーっっ!!!!」」」
どよめくワーマシラ達。よく見ると、痩せた個体が多い。
「ゾォアアァーーーッッ!!」
ときめくネガジャバウォック。て、
「いやダメだから。めっ、ジャバウォック」
「ゾォアァ······」
「後で茸でも林檎でも出しますから」
フォローはヨミロートスに任す。
「ヴァーリン様! これだけあれば王国民を『倍増』できますっ」
いや、倍増はどうかな?? ここまで見た範囲てもこの環境でリュブリャナんとこの住人の3倍はいたようだぜ?
「まぁ落ち着け。交易の調整も済んでねぇし、『戦』となるとな。眷属召喚すりゃ少年兵くらいで復活させられるがどの道すぐにゃ使いもんにならないさ」
「御意! 差し出がましいことを······」
ビショップ個体は消え入りそうになったが、ヴァーリンは面倒そうにしてそれ以上は言わせなかった。
「交易調整ならすぐやれる。ヴァーリン。和議を結び、合わせてここからの攻略と探索に協力してほしい」
「そうだなぁ」
ヴァーリンは水煙草のパイプを置き、大男の姿のフェネクスを見た。
「偏屈な鳥が認めて、ザリチュも鎮めたってんなら今更俺がゴネるのもクドいとこだろうな」
「のらくら言わず、さっさと決めろ。我がサシでノしてやってもいい」
またワーマシラ達が気色ばむようなことを言うフェネクス。やめれって。
「······ダハっ。荒れたザリチュを押し付けた『貸し』もある、和議を受け入れ、参戦しようじゃねーか。5層で好き勝手してる何人かは小突いてやらないとな!」
うっ。そうきたか。
「アリッサは今アレだから!」
「そうよっ! 寝てるぬいぐるみ小突くのは大人気ないわ!」
「「ケムケムっっ」」
アバドンさんの籠のアリッサのガードに回るロックローズとケムシーノ達。
「いやアリッサ姐さんにゃ貸しがあるくらいさ」
「お前はあちこち貸りっぱなしだな」
「ダハハハ」
「「「······」」」
俺とロックローズを目配せした。えーと、大丈夫そうだな?
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物資は不足なはずだがその後、宴が催されることになった。
王宮の宴会場に彼らの上級民が集まるワケだが宮殿広場は主に公務に携わる中級民が集まり、宮殿外の中央広場には非戦闘員らしい一般市民が集まって主に俺達の持ち込んだ物資を使ってる、というか使い切ってる??
一応爆食のネガジャバウォックの分は引き続きヨミロートスが茸と果実類のラッシュで9割型嵩増ししてくれていたが。
「ヴァーリン、気前良過ぎないか?」
主賓席で着飾ったワーマシラの給仕達に配膳されながら俺はヒヤヒヤしちまった。
「ダハハ。今回のグランドマスターは心配性だな。おい、アレを」
ヴァーリンは酒を飲みながら給仕以外の個体に促し、鉢植えの『デカい豆の成る若木』を持ってこさせた。
「『アマタデ豆』であるな」
ほぼ無言で、給仕も寄せ付けずにアリッサ籠の側でケムシーノ達と酒を飲んでるから機嫌悪いのかと思っていたアバドンさんが言った。
「御名答。俺が大昔に『天界から盗んだ』逸品だ。まともな水と砂、あとは魔力があればいくらでも生えてくる」
ヴァーリンは鞘を1つ取って中から胡桃の殻くらい大きな青豆を3個取り出すと、給仕は受けても機嫌悪い顔のフェネクスに投げ渡した。
「······」
益々眉を顰めるが、受け取ったそれを軽く炙り1つを俺に、もう1つをヴァーリンに念力で渡し、残り1つは無言で口に入れた。ヴァーリンも口にする。
俺も齧ってみる。
「っ! にが〜〜っっ??!!!」
「ダハハハ!! 滋養はあるんだがな、クソマズいんだよ。これがあるから人数を絞ればなんとかやっていける。だが気が保たないヤツが多い。手間を掛けて調理するにも限度があるからな。最近は上層から水と樹海の根を介したジェム類が上手く手に入るようにはなったが」
「なるほど······」
酷い味と臭いで胃にも重たいが、確かに滋養の生き渡る感じはあったのと一般的な回復ポーションと同じくらいの魔力は含有していた。
ただ鍛えてない特別なスキルもない一般人類だと十中八九吐くか下すヤツだな。礼儀だろうと食べ切っとくが。
「僕らの4層移住は急いで正解だった」
「上で水が通り易いように工事しまくった甲斐があったね」
「まず3層からの水動線を整えなくてはならなかったですが······」
ヨミロートス、ゴールドスコップ、スキュラ、グッジョブ! 上で治水周りを仕切ってたのはザトウマージだけどさ。
工事その物はサハギン達とモンクペンギン達が活躍し、水流を起こすヤロカ石と水の化身のカースウンディーネも活躍。水辺の作業の回復はアクアリーフウォーカー達。ネオサダコは『井戸状の竪穴』掘るのは得意だっけな?
「今回も見逃すが、いずれ外へ出る際はアマタデ豆は全て回収する物である」
相手を見ずにアバドンさんが告げるとヴァーリンは肩を竦めた。
「そりゃどーも。なんにしても、これで英気は養える。動ける状態にはなるさ」
酒を呑みながら、ちょっと浮かれ過ぎにも見える眷属のワーマシラ達の様子を眺めているヴァーリン。
自我のある一部族の範囲を越えた規模の眷属を率いるとなると小国の運営と変わらないんだな。
と言ってもそこは巨人族と争った連中だ。『不味いが無限糧食豆』『宴会1回で国民の気力全快!』『少年兵くらいならポコポコすぐ増やせる』みたいな規格外の条件を持ってる。
「交易交渉に以前通りヴクヴ・カキシュを出す」
「ピョ?」
「他は当代鍵の主に聞け」
お、ヴクヴ・カキシュなんだ。ダーファンとテラツツキがアレで、カイムも辛辣だから無難か?
「よっし、あとは転送陣と水関係、食糧云々だから、エル・ジェリーマン! スキュラ! ゴールドスコップ! よろしくっ」
「どうも転送陣スライム土方です。ムフフ」
「状況が状況。農園には実を付けるタイプの植物モンスターを活用しようかね? 1番早い」
「水周り、お任せ下さい」
「あとはここの浄化と補修か。農産重視ならなおさら急ごう。探索攻略は『向こうから来ない限りは』西部が落ち着いてからでいい」
「助かるぜ······どれ、キリのいいとこで一つ舞うか」
ヴァーリンは扇を取って立ち上がった。舞手達のいる舞台に向かうらしい。となれば、
「俺も舞おう! 実は元芸人なんだ。踊りも結構習った」
器用ではあるから芸事の基礎はあれこれ習ってた。
「ほぅ。いいな、主がヤボじゃ盛り上がらないからな?」
俺ではなく一層鉄面皮になったフェネクスの方を見てニヤリとするヴァーリン。
そうして、俺達は······
「ダハハハッ、よっ!」
「ほっと!」
少し喜劇的な振り付けて即興で踊りだした。
楽士達も盛り上げてくれ、舞手達も脇や後ろに回って合わせてくれる。会場は大喝采だ!
別に笑いがウケてるんじゃないが、悪い気はしない。
「負けてられないわっ、完璧に!」
「え、私は別に」
ロックローズがコメリナを強引に連れて参戦し、これを呼び水に次々と他の首魁や幹部眷属達が参戦しだした。
フェネクスだけはテコでも動かなかったが、アバドンさんは最終的にアストロロジーとケムシーノ達に引っ張りこまれ、奇妙な踊りを舞って会場を沸かせた。
「へへっ」
久し振りに血が滾る感じだぜ。それに見逃してない。フェネクス、ムッツリ酒を呑んでるが目の端が柔らかい。
景気良し。
騒ぎは一般市民の会場にまで伝播し、俺達の宴会はせっかく持ち込んだ大量の糧食がすっからかんになるまで続いた。




