90話
5層、渇きの海。本来はザリチュを鎮め、フェネクスが力を発揮し、そしてもう1体の5層首魁『猿王ヴァーリン』の勢力を削ぐ為の大砂漠の階層。
だが6層7層が混沌に回帰した影響で、避難してきた下層の首魁達が『中部域』と『東部域』を占拠した状態になっているらしかった。
「1つの階層に3層分の首魁とその眷属っていうのはさすがにムチャだよな」
「そこを突っ切ってアリッサの所まで行った幼体の頃の私を褒めてほしいわ」
俺達はまた巨大化したネガジャバウォック、怪鳥化したフェネクスの背に乗って5層の『西部域』の本来の砂漠エリア上空を飛行していた。
夢? で見た結晶の巨石が露出する砂漠だ。あちこち毒気に覆われ、崩落も見られるが、4層からの水があちこちに落ちて『毒のオアシス』は散見された。
だがそれよりも俺が注目してるのは東側に見える『焼け付く大地』だ。砂漠どころじゃない。燃えてる。火炎環境の6層首魁達が支配した結果だ。
「坊、ロックローズを褒めるか否かは置いておくとして、4層からの水の供給が増え中心部の環境維持は困難になっているはずである。時間を置きたいところであるが、状況によっては返って話が拗れることもありうる」
「それ、どーしろって?」
「褒めてもよくない? 私!」
「まずはヴァーリンの説得てある。ヤツは利に聡い。生まれ直しで妙なことになっていなければ問題ないはず」
「だが、あの猿の眷属どもは厄介だ! 軍人気取りでな。無駄に警戒するゆえ、斥候も出し辛い。復活も容易でなく、下手に殺せんのも始末が悪い」
億劫そうなフェネクスだったが、普通『復活が容易』とかないから······
「アストロロジー、5層に降りても予見の精度に代わりないか?」
「1度地上に降りる等して陣を張って占えば少しは上がると思いますが、今は4層で占った範囲しかわかりません。近々では飛行種のモンスター等からの襲撃の気配はありません。ネガジャバウォック様とフェネクス様が連れ立って飛んでらっしゃるので」
「オレ、強いぞ?!」
「好きで連れ立っているワケではないがな」
「俺様もいるぞ!!」
「う〜ん」
厄介だな。刺激するからこっちの眷属も引き連れ難いのに加え、ヴァーリン軍は『陣地』という意識がかなり強く、地上の野営地跡を例え放棄された物であっても下手に触れない感じだ。
といっても、ネガジャバウォックとフェネクスの飛行力ならこのまま行くとすぐ着いちまう。
「······私、褒めてもよくない?」
耳打ちしてくるロックローズ。ムキになってるな。
「偉いから蜂蜜ココア玉子パンを報奨に出す」
収納腕輪からいつもの菓子パンを3個取り出してやっとく。
「やった! あんた達にも分けてあげるわ」
コメリナとアストロロジーにパンを分けるロックローズ。
「ありがとうございます」
「求めてないのに施された気分だ」
ダークエルフトリオはなんだかんだで菓子パンを食べて機嫌はよくなったようだ。
ええっと、どこまで思考したっけな?
······アストロロジーの占いは、大きく3つあった。
1、眷属の大群を扱えば相手と争いになる
2、地表に拠点を築けば争いになる
3、物資、とくに糧食を多く提供しなければ争いになる
だった。
いやどんだけ争いになり易いんだよ?!
「利に聡いか······糧食はたんまり容易したし、今回スキュラもいるからその辺はいけると思うんだけどなぁ」
色々不確実な点はあったが、今回は交渉でどうにかしたいところだった。
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実際、西部砂漠のヴァーリンの拠点まで来てみると、圧巻だった。拠点ってレベルじゃない。古風で東方趣味の立派な城塞の都があった。
さすがに建造物の劣化は見られたが、拠点内への毒気の侵入は見た限りでは防がれていた。
そして立派な城壁、城門周りでは古風なやはり東方趣味の武装をした猿型獣人『ワーマシラ』達が、飛来した俺達にワーワー騒いでいた。
「あらら」
今回、矢文になんにもなくいきなり来ちゃったからな。いや、てっきりカイムとヴクヴ・カキシュ辺りを使者に出すのかと思ってたらぐんぐん近付いて降下しちまったもんな······
「定命の猿ども! 思い出せ! 我が名はフェネクス! 汝らの王に取り次げ! 新たな鍵の主と共にに来た! わずかでも応対違えれば、即時この都、焼き尽くすものと知れっ!!」
「フェネクスっ、言い方っ!」
ワーマシラ兵達は跳び上がって『宮殿』に使いを出した。
ワーマシラ族はワースコーピオンよりかは話せるにしても、地上ではしょっちゅう他の人型種族と揉めてる強面の種族だが、巨竜と不死鳥に降りて来られちゃな。
程なくローブを着たワーマシラが冷汗をかいて飛行絨毯で現れた。
「フェネクス様、ヴァーリン様はお会いになられます。どうぞ、宮殿には『小さな姿』でお越し下さい」
「よかろう」
「ネガジャバウォック。小さくなってから中に入るぞ? 建物が壊れるからな」
「オレ、わかった!」
言った側から小さな姿に変化するネガジャバウォックっっ。
「「「だぁああーーーっ??!!!」」」
乗ってたフェネクス勢以外の全員が落下!
「やると思ったのである」
「ふひ☆」
「「ケムんっ」」
あー、もう。俺も言い方気を付けよ。
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内部も劣化はあったがヴァーリン宮殿は中々豪奢だった。
だいぶ美化されてる感じだったが『過去の戦いの壁画』も廊下にバーン! と飾られていた。
······猿王ヴァーリン。ワーマシラを率いた王。強大な軍勢で、その組織力で魔王軍の中でも優位を誇っていたが、勇者に味方した『竜王軍』との戦いに破れ、勇者に挑まないまま討ち取られている。
ヴァーリンの戦いは竜王軍と共闘した戦地周辺国軍が詳細に伝えている為、わりと一貫して話が伝わっていて伝説というより大昔の戦記として有名だった。
「壁画、だいぶ盛ってる。ヒィィィッッッ」
「ヒホっと美形になってますぞ? ヴァーリン殿」
「睫毛、長くないですかぁ? ムフフフ」
「過剰に人類文明を取り入れるから眷属が媚びたんだろうね。滑稽だね」
「なんで自分が負けた絵を飾ってんだよ? 俺様わかんねっ!」
「こういうのは悲劇的な自分を盛り上げてんじゃないかい? ま、あたしもよくわからんけどね」
会う前から『最終的に自分が殺される絵』をイジられまくる猿王ヴァーリン!
「こ、こちらです」
案内しながら冷汗止まらない『ビショップ個体』。接見の間らしい部屋の扉の前まで来ていた。
「よっし、俺が行くからな? 変な煽りはよせよ? 今回せっかくノーファイトでここまで来れてんだかんな?」
主にクリスタルリトーに言うと、
「了解したぞピロシ。『だが親切な俺様はドアを開けてやる』」
「ちょっ」
ドゴォッ!!
右手を巨大化させて扉をブチ破るクリスタルリトー! ビショップ個体も警備のワーマシラ兵達も腰を抜かした。
「ダハハハッ! また頭悪そうなの連れて来たな〜、当代グランドマスターさんよ」
水煙草を吸っていたらしい首魁、ヴァーリンは気色ばんだ兵達を片手で制し、俺達と対峙した。
リュブリャナ並の体格の猿の獣人だ。東方趣味の古風な王族服を着込んでいた。
「誰がっ、もごごっっ??」
ヨミロートスの樹の触手で口も身体も拘束されるクリスタルリトー。ナイス。
「俺はピロシ・シープランド。当代の鍵の主だ。ザリチュは封じたが、5層が落ち着けば解放する予定だ」
「へぇ?」
なんか『実は仲良かったっぽい?』し、一応言ってみたが、余計に値踏みするような目で見られちまった。
やり辛っ。下の層の首魁、大体やり辛!




