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親父の遺産がダンジョンだった件  作者: 大石次郎


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88/122

88話

······ピロシ達が酒盛りをしているのと同時刻。アバドンロードは珍しく背に翼を出して小屋の前から飛び立った。


右腕に酒樽を抱え、左手には大きな素焼きのジョッキを持っていた。


アトリエの屋根の星見台には暖かい上着を着たアストロロジーと眠りこけるゴールドスコップ。その毛皮の腹の上で眠りこけるピクシーの姿のロックローズとコメリナがいた。


アストロロジーが小さく手を振ると、アバドンロードはジョッキを掲げてみせた。


そのまま夜の森の上を飛行し、いくつかの聖なる結界を素通りし、程なく光の粒子が瞬くモンスタシークレットガーデンに降り立つ。


モンクペンギン系モンスター達は既にところ構わず眠りこけていたが、リーフウォーカー達はいくらか起きていて植物の精霊ドリアード等と輪になって踊り歌っていたりしている。


「余剰な個体は精霊王達の所に移さねばならないのである」


翼を畳んで消してしまいながら呟き塔へと歩いていると、


「アバドンロード様〜、また飛んできた! ちゃんと地上の秘密ルートを通ってよ〜っ。せっかく作ったのに!!」


輪の1つにいたエルボエルが見咎めるように飛来したが、アバドンロードは相手にしなかった。


塔の入り口まで来るとフルフェイスの兜を被ったニーエルがミスリルの槍を手に門番をしていた。


「合言葉を言えっ!」


「知らん。急に作るものではないのである」


「合言葉を言えっ、あ! ちょっと〜。アバドンロード様っ。ダメですよ? セキュリティ!!」


無視するアバドンロードの背中を軽く刺してやったが、穂先が曲がってガッカリさせられるばかりのニーエルであった。


中へ入り、黙々と塔の階段を昇るアバドンロードだったが、中途で一つの部屋を窓を覗いた。


結界のある部屋でソファにアリッサが寝かされ、その側でケムシーノ達が眠っていた。


「ふむ」


アバドンロードは階段登りを再開させた。


「······ッスね」


最上階の部屋の前でミスリルの剣は床に転がしミスリルの盾は布団のようにしてキックエルが居眠りをしていた。


アバドンロードは光を操り盾をベッドに変え、念力でキックエルを寝かすと剣を毛布に変えて被せてやり、その上で筆と墨壺を出し、それらも操り、


『不心得者』


と顔に落書きをしてみせた。


「ふん」


それ以上は構わず、最上階の部屋の封を解くと中に入るアバドンロード。


中は物理的にあり得ない程長い通路が続いていた。


「······」


時と空間を越えて歩き続けると、その中程では結界のある台座にシルバーワーグが寝そべっていた。


眠ってはおらず、アバドンロードが現れると立ち上がって尻尾を振った。


「わん」


「御苦労である」


収納魔法陣から『超プレミアム骨付き肉』を取り出すと念力でシルバーワーグに与え、その場を通り過ぎてゆくアバドンロード。


シルバーワーグは夢中で肉にむしゃぶり付いていた。


「さて、機嫌は悪そうであるな」


進む道は徐々に『砂まみれ』となり、やがて壁も天井の『風化』の兆候が見られだした、その通路の最奥にザリチュの祭壇はあった。


祭壇の周りには天界から取り寄せた。『尽きぬ甘露水の泉』が造られており、渇きの呪いに対抗していた。


「ザリチュよ、お前に往生際を説いても致し方あるまい。酒を持ってきた。すぐに干上がらせるなよ? 礼儀であるぞ?」


樽を泉の縁近くに置き、念力で蓋を取り素焼きジョッキになみなみに汲み取るアバドンロード。


「俺が作った密造酒である。木苺、山葡萄、そのあたりが原料だ。魔法や魔法素材は使っておらん。踏まずに搾り器を使った。あとは飲め、乾かさずにな」


(······)


樽の残りの酒は逆巻き、蛇のようになってザリチュの錆びた王冠に全て吸い込まれていった。


空になった樽と蓋は、むしろ几帳面に砂に変えられた。


アバドンロードはその場にあぐらをかくとジョッキの酒を飲みだした。


「不滅に近い者には持て余す時間がある物だ。だが、『地上的な本当の時間』はほんのわずか。お前がそれを既に得ているのであるならば、手放さぬことだ。不貞腐れている間はないのである」


(······手放せだの、手放すなだのと、勝手なことを)


「薄いガラス細工のようなモノよ。ふふ」


(なにも面白くはないわ、犀!)


「いい酒であったろ? いつかヘイスケと飲もうと、とっておきであったが、うっかりしたものだ」


(甘苦いばかり。下手くそね)


「木樵と違い、仕込んでいるのも忘れている程であったからな。アリッサ辺りに見付かる前で命拾いしたものである。あれは底無しよ」


(あの女はどうなってるの?)


「さて、『より聖なる者』になろうとしているのか? ただの寝坊助か? まぁどちらでもいいだろう」


(バカでいい気になって嫌いな女)


「ハハッ」


身も蓋もない思念に笑ってしまうアバドンロード。


「魔王軍時代はどうであった?」


(バカでいい気になって嫌い女だから会わないように砂漠にいたら、全然関係ないヤツらに袋叩きにされたわ)


「ハハハハッッ」


(全く面白くないわ)


アバドンロードはザリチュの悪態を肴に時間を掛けて素焼きのジョッキの酒を飲み干していった。


_____



休息を済ませた俺はアバドンさん達と合流し、メジハの牢獄迷宮に戻った。


1層でビッグヘッドとオークジェネラルとざっと作業確認をして、3層の4層への水の落下地点を確認した後で4層に向かう。


外周作業は済んでいるから次は旧ザリチュの支配域の砂漠化解除だ。


既に迷宮に残った首魁と眷属達でザリチュ残党の捕獲封印や撃破、有害度の低い野良モンスターのフェネクスの支配域砂漠への移動は済ませてある。


「水場があちこちできてんな」


ジャバウォックと『黒炎の巨大怪鳥』に変化したフェネクスの背に、降りてきている俺やアバドンさん達と首魁と幹部眷属が乗って旧ザリチュの支配域を見下ろしていた。


本来天井から水が落ちてる場所があり魔力を吸収する棘植物も砂の下の地表から無限に生えてくるから、砂漠の環境は維持自体が難しい環境だ。


「放っておくと泥沼まみれで始末に負えなくなる。まずは『砂の集束』だ」


「よっし。ツルベ火クィーン、クリスタルリトー、ネガジャバウォック! 合わせてやってくれ!!」


準備は整った。フェネクスが主に風の力を練り、ツルベ火クィーンが炎の力を練り、クリスタルリトーが地の力を練り、ネガジャバウォックが全体に魔力を補強させた。


「ピロシ!」


「おう」


ロックローズが各種属性ジェムと魔力結晶で負担を軽減させ、俺が纏めて毒気払いの浄化をやっちまう。


「魔女の範囲で! 4層の地を返してやろうっ!!」


ゴォォォッッ!!!!


浄化されながら砂の大渦巻きが多数起こり、ザリチュの支配域の全ての砂漠が数百の『焼け付く双三角錐の巨石』に結集した。石は凄い高温になるっ!


「ザトウマージ!」


「心得た。ベルゼジュニア! お主を基点とするのである」


三滅槍、黒玉仙、ザトウマージ、人間体スキュラがジェムも活用し連結して巨大な氷の魔法陣を展開する。


「前より大技だブン······アイスストーム!!」


猛吹雪が吹き荒れ、全ての焼け付く双三角錐が冷やされた。


「随分『冷ました』な」


「冷え冷えの石はお前んとこに転がしとくぜ?」


「位置修整、補助します」


アストロロジーが調整に入りつつクリスタルリトーが全ての巨石を操ってかなり乱暴にフェネクスの支配域の砂漠へと投下していった。


「雑だろ······」


「ピョ······」


フェネクス幹部達は複雑そうだが、巨石も退き、本来の4層地表が露わとなった。改めて3層の水が各所に落ちてゆく。


「ピロシ君、あそこだよ」


ヨミロートスが指し示した辺りは『風化しかけたひしゃげた木材』が延々と広がっていた。水も数カ所落ちている。毒気や床面の崩壊箇所も見えた。


「割り当てられた場所ではあるけど、やはり過ごし易い。皆は落ち着くと思うよ」


「それならあんたも落ち着くだろ? さっさとあそこも直そう」


「······だね」


俺達は続けて樹海組の拠点を復活させる為、降下を始めた。4層の環境改善はまだまだ仕事が多そうだ。

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