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親父の遺産がダンジョンだった件  作者: 大石次郎


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87話

炉の火は中途で落とせないから、仕事が終わったら他の同窓生も呼んで近くの酒屋で角打ちしようということになった。


酒屋は『秋雨酒店』。造り酒屋じゃなく、高級酒や珍しい酒を特に扱ってない。酒の値段も普通。


ただこの辺りは農地や工房がチラホラあるだけで他に酒場もなにもないから、成立してる感じの店だ。


「必然性だけで成立してる商売ってのは無駄がなくていいよな」


西瓜のシャーベットを摘みに蒸留酒の炭酸割りを飲みながら言うと、冷やし煎り豆茶に氷と糖蜜を入れたのを飲んでる治療師の服の上に軽く上着を羽織ったミラルゴは煎った落花生を口に入れた。


「シャーベットをツマミに炭酸割り飲んでる人初めて見たよ」


「氷を入れる手間をショートカット」


大して腹は減ってないが冷たい物を食べたくて頼んだんだが、粗く濾した西瓜果汁と柑橘汁、ミントと黒糖とミルクで作られていて余り甘くなく好みだった。


「······まぁ好きにしたらいいけど、グリーンフットさんはそろそろかな?」


角打ちスペースの席はもう7割方埋まってる。意外な繁盛。


秋雨酒店は知ってはいたが、外れにあるから来たことはなく、繁盛してるのも全く知らなかった。


「炉の始末と、装飾の仕上げと、残ったクッキーを割引で贔屓の茶店に卸しに行くとか言ってたが······」


ゴツい懐中時計を確認。炉の始末は4時半と早いようだが、そっから随分仕事がある感じ。


今、6時過ぎ。


『6時半ぐらいかな?』


とは言っていた。


「助祭見習い? ああ、研修もあってね。まず教会付きで仕事をしたい人って多いんだよ? 神学校はちょっと生徒を取り過ぎてるし、あとやっぱり冒険者の僧侶職は大変だろうから」


世間話をしていると、


「こんばんは〜。稗ビールの冷たいの下さいな!」


作業着の上着を脱いで首に手拭いを掛けたモーナンが戸口に現れた。


程なくジョッキの酒と、ツマミらしい川海苔のブラックペッパーカウチを山盛り笊に乗せてモーナンがこっちに来る。


「おう、モーナン!」


「こんばんは、お疲れ様」


「なんか、変な組み合わせだね? 仲良かったっけ?」


熱いだろうし、仕事大変だったらしく昼間見た時より細くなった気がするモーナンだ。


「鼻持ちならないヤツだと思っていたが、わりと話せたんだな、これが」


「酷いね、時間都合付け易いだけなんだと思うよ」


「ますますよくわからないけど? あ、これ、川海苔カウチ、美味しいよ?」


分けてくれるらしい、食べてみると、


「美味っ」


川海苔の風味が炸裂っっ。


「ここのツマミは余計なことせずパパっと作ってる感じがいいね」


「でしょ? じゃ、ちょっと、私飲むね? この時の為に仕事してるような物なのよ」


言って、癖がある稗ビールを一気にグビグビと木のジョッキで飲み切るモーナン。


「プハァーッ! 干物から生魚に戻る感じだわっ」


「作業中もちゃんと水分取れよ······」


「いや取ってるけどさ、あとガラス作り凄いお腹空くのよ?」


「カウチと稗ビールだけで足りる? 落花生食べていいよ」


「ありがとう、お代わり買ってくるわ」


「じゃあ、シャーベット奢ってやんよ。今日言い出しっペだし。ミラルゴは茸のバターガーリック炒めな」


「そりゃどーも」


2人で追加注文しにいく。炒め物も作り置きだからすぐだ。そして作り置き系惣菜はめちゃ安い。駄菓子レベル。だが、どれもちゃんとしていて、器も清潔。


巨漢のオーガ族の店主、太ってることもあって男か女かさっぱりわからんが、グッジョブ!


俺はシャーベットを追加して、茸炒めを一人前取るだけだが、モーナンはお代わりはビールではなく氷入りの柑橘のシードルにミントの葉2枚を頼み、ツマミの追加に『牛モツとルバーブの煮込み3人前』をド〜ンっ! と取っていた。


「結構いくな」


「1日作業が終わるとギュッと痩せてるから戻さないと保たないんだよ」


「大変なんだ······」


「ドカ食いしても健康なのは肉体労働者の特権だよ?」


「はぁ」


感心するしかない。演芸から『迷宮補修とモンスターの世話等』に転職した社会貢献度謎な俺の人生は綿菓子みたいなもんだな。


納税ぐらいはちゃんとしよ······


席に戻ってからもモーナンの食べっぷりにミラルゴとふたりして呆気に取られちまった。


「グリーンフットさんは随分雰囲気変わったんだね、教会の祭事なんかではほぼ個人的に話さないからあまり変わっていないのかと思っていたけど」


「んぐんぐ······それ、『2つ』誤解があると思う」


食べてる内に段々血色よく肌も艶々になってゆく単純な身体構造のモーナンに俺もミラルゴもちょっと笑っちまいそうだ。


「1つ、私は男子と話す機会あまりなかったよね? 2人のイメージは『ロクに喋ったことないモブ女子』でしかないんだよ。2つ目は、私、元々こんな感じだよ? 馬具工の娘だし。私が変わったんじゃなくて2人が私に関わりなかっただけ。まぁ見た目に特徴ない自覚はあるし、1回メイドに就職しちゃったから『いかにも』て思われたんだろうけどさ」


「「······」」


全く反論できない俺達さ。


「えっと、いつからガラス作りを?」


「15歳から7年もメイドやってたけど、仕事はともかく、どうも『お金持ちの世界』が合わなくてね。見合いの口も散々あったけど大体一回り上の小金持ちか、なんかコネはあるけどどうも胡散臭いとこあるヤツとか」


うーん。中等学校卒で、早くからメイドしていたらそこまで悪い縁談は来ない気もするが巡り合わせや『気に入らない』て前提があるからムズかったのかもしれないな?


「20歳過ぎたら『牢名主扱い』で見合いの口もなくなったから、休みの日に街外れのガラス教室に通ってみたんだ。その流れで」


見た目の普通さに反し、わりと一匹狼スタイルで生きてんなモーナン。


「ジョブスクールから職人ギルドの大店に入って、なんやかんやで3年前に戻ってきて、開業。お金にならないだろうからってクッキーは最初から焼いてた。今や普段の月の売り上げの4割がクッキーだよ。ほぼクッキー職人」


「よく売り物になるようなクッキー焼けたな」


「教会でも評判だったよ?」


「7年もメイドやってほぼ毎日『茶菓子』作ってたから、そりゃね」


煮込みの皿を綺麗に平らげ、カウチとシャーベットと落花生とシードルをローテで楽しみに掛かる機嫌よさげなモーナン。


俺もミラルゴを目配せした。『こやつを飲み友としてスカウトすべし!』だ。


「私への『取り調べ』はもういいよね? シープランド君と助祭様も聞かせてよ! 芸人辞めてこっちでおっかない木樵のいる森で採取業とか、エリートコースから還俗してみたり出戻ったりとか。私よりドラマチックだよね?」


「「え〜?」」


ダンジョン抜きなら似たり寄ったりだと思うけどな? 俺達。みんな、それなりにはくたびれてさ。


なんてどう話し出そうか? 考えてると。


「こんばんは〜。おっ、いい店だなぁ。へぇ?」


「ちょっとモリオ! あたし、こういうとこ来ないんだけど?」


モリオとめちゃ抵抗してるココミも珍しく来た。


「モリオ! こっちこっち! まず先に頼んでな? 先払いだぞっ」


「おっしっ。うわ〜、ツマミやっすーー。天国かよ?」


モリオはさっさと選びだしたが、ココミはモーナンに片手でおずおずと合図をした。


モーナンは気軽に笑顔で応じたが、


「違うグループ。全然、あの子友達じゃなかったよ?」


笑顔を崩さず俺達にだけ聴こえる声で言ってくるモーナン。


女子同士の間合いの測り合い、こっわっっ。

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