85話
ザリチュ撃破のお陰で渇きの呪いが解け、天井の砂塵化崩壊は止まった。
「後先考えない手合いは最終的には現状を誰かが尻拭いするはずという甘えがある、というのが僕の見解だね」
ヨミロートスが小言モードになったりもしたが、天井の補修も可能になり取り敢えずは場を離れられた。
それから『ただの砂漠環境』に戻っているコメリナ達の待つ神殿近い拠点に戻りきっちり全員回復っ。
言霊の石とエル・ジェリーマンの『身体の方』がスライム素材で造った『水晶通信モドキ』でネガジャバウォック拠点の待機組とも連絡を付け、物資も少し転送陣で送ってもらって頭だけになってたクリスタルリトーも復活!
「よっし。キューブと絵札兵の補充までやるのは返って剣呑だろう。既に伝わってるだろうが、フェネクスの所に行こう」
「手際は褒めてやるぜ?」
「最後、自分で行ったのは評価するじゃん?」
「予見外になると、ちょっと場当たり過ぎだピョ?」
「結果だけ見るとそうなってるのは、認める」
一応線引きした上で動いてるんだけどさ。フェネクス幹部トリオの評価は『そこそこ』ってことにしとこう。
と、スッとコメリナが耳打ちしてきた。
「ピロシ。お前はダンジョンマスターだからな? このままフェネクスの家臣のようになったら、ピロシ軍は崩壊してしまう。主従の線引きはしっかりしろ」
おまゆうなワケだが、わからんでもない。ザリチュが攻撃的だからなし崩しになってしまった感がある。
相手が段々『地方の荒神様』みたいになってきた。今後の交渉はもう上層の感覚で挑まない方がいいな······
「まずは交渉を済ますのである坊。4層の環境不全はいかんともし難い」
そう、本業はスカウトマンでも殺し屋でもなく『掃除夫兼修理工』なんだよ······
「了解了解」
俺達は転送陣で一気にフェネクス神殿近い野営地まで飛び、再交渉を急ぐことにした。
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再訪したフェネクス神殿はこの間の戦闘なんてなにもなかったかのように整っていた。
少なくとも首魁は迷宮劣化の影響を全く受けてない、ってのは相当優位だな。
でもって、
「来た!」
「魔女殺しっ」
「鍵の!!」
「ダーファンとテラツツキのバカ姉妹を連れてるっっ」
神殿内の柱の陰なんかで聴こえるように噂しまくる幼体のレイブンや眷属モンスターがやたら多い。討ち取られた個体を手早く蘇生させたんだろう。
この環境で、単独勢力でもあっさりやってのけるは眷属にまで及ぶ不死性特有のもんだろな。
「今、バカ姉妹って言ったヤツ出てこいっ?!」
「脳ミソ啜ってやんじゃん?!」
ダーファン&テラツツキが凄むと幼体達は「「わーっ」」と退散していった。
「長年内政を放置してフラフラしているからピョ」
「ダリぃ」
「知らんし〜」
普段の統治態度がわかっちまうな、等と思いながら首魁の間まできた。
黒い炎の形態ではなく、大男の祭祀の姿のフェネクスが立ったまま待ち構えている。
おふざけをやめて膝をつく、ダーファン、テラツツキ、ヴクヴ・カキシュ。
俺はザリチュの錆びた王冠を収納の腕輪から引き出して掲げてみせた。
「見事ザリチュを討ち取ったな! ピロシよっ、お前をこのメジハ牢獄のダンジョンマスターと認めてやろうっ」
ずっと歌劇の口上みたいだな、フェネクス。ま、いいけど。
「味方になってくれるんだな? フェネクス」
「そのように誓約した。この迷宮の秩序の回復には賛同する」
「4層砂漠エリアの環境浄化と補修も行う。それから、ザリチュの支配域の砂漠は元の地形に戻してもいいか? 砂漠化、は影響が強過ぎてさ」
ザリチュの支配域にはヨミロートスの本来の拠点も沈んでいる。性質的にも並び立てないんだよな。
「『3層の水が5層以下に十分に落ちていないはず』だ。改めるのである」
「それは好きにしろ。ザリチュは5層の本来の棲み処が戻るまで放っておけばいい。どの道どこかに封じておかねば収まりのつかない哀れな悪霊だ」
そうなんだろうけど、手厳しい。
「わかった。······あ、そういえばカイムも解放するよ」
俺は収納の腕輪からカイムの封じられた琥珀のオーブを杖の念力で引っ張りだし、フェネクスに返した。
「うむ。どれ」
フェネクスはおもむろに琥珀のオーブを軽めに握り割り、黒い火炎を逆巻かせた。
「あちちちっっ?!」
炎の中に現れた影を床に投げるように解き放つフェネクス。
すっかり全快した姿のカイムが現れた。
「っ! フェネクス様っっ。あ、カカ?!」
フェネクスと俺達と、既にこちら側で膝をついたまま様子を見てるダーファン達、俺が持ってるザリチュの王冠を忙しく見比べるカイム。
「······カカァッ!」
大袈裟にくるりっと跳び上がってフェネクスに膝をつくカイム。
「仰せのままにっ!」
「なにも言っておらん」
「······」
変な空気になったが、カイムも味方に加わることになった。
「概ね完璧ね」
「だな」
フェネクス軍の問題も一段落ついた。はー、しんどっ。
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一段落ついたからには地上に戻る! 今回はゴールドスコップとアストロロジーも来たが、加えて『ピクシーみたいな矮小体』に変化させられたロックローズとコメリナも迷宮の入り口周辺の森限定で出てきていた。
「ほう、これがゴールドスコップの言っていた『吸い込まれる空』か。ふふん、大したことないでは無いか······ん?」
ピクシーの飛行に慣れてないこともあり、距離感が掴めなくなってどんどん上昇しいってしまうコメリナっ。
「おぉーっ?!」
「世話が掛かるッスね〜」
「慌てん坊ですよね」
アバドンさんの小屋の前だがクピドのキックエルとニーエルが回収に向かってくれた。「ふふ」とウケてるアストロロジーと、物理的に『空に落ちてゆく様』にゾッとしてるゴールドスコップ。
「甘いわね、コメリナ! 首魁たる私は完璧にっ、『多重静止結界』で高度をキープしてるわっ!」
凄い絶対防御みたいな態勢のロックローズ。
「大袈裟だろ? エルボエル、虫籠持ってたろ? 入れてやってくれ」
「よし、入っちゃお?」
「嫌よっ、虫扱いは嫌ぁーーーっ?!」
「騒がしい、とっととザリチュの王冠を納めるのである」
「「ケムんっ」」
「ふひっ☆」
久し振りに今はアストロロジーが抱えているアリッサの寝言笑いが入ったりしながら、俺達はザリチュの王冠をモンスターシークレットガーデンの塔に一先ず封じに向かう。
当人は不本意だろうけどどうも呪いが強く、収納の腕輪に入れとくだけってワケにもゆかないようだ。他の首魁とも力の相性はよくないし、封印できそうなフェネクスとは険悪なので、安置場所はそこしかなかった。
さっさと兎パンチの屋根裏部屋で爆睡して魔力を落ち着けたいんだが、すぐには休めないぜ、トホホ······




