8話
別れ際にアバドンさんに『村での注意点』をあれこれ言われたが、ぬいぐるみアリッサは、
「娑婆と鹿が呼んでますわっ! じゃ、また明日〜。おほほっ」
と森のどこかへと飛び去ってしまった。野放し······
ま、それはそれとして俺はメジハ村に戻った。いつの間にか夕暮れだ。
そのまま兎パンチの屋根裏部屋で爆睡していたんだが、真夜中に兄貴を起こされ、閉店後の店のホールに引っ張っていかれた。
寝巻きに上着を羽織ったモモミも待ち構えてた。
「お? モモミも来てら」
「来てら、じゃないよっ。どーだったのお兄ちゃん??」
「あー、それな」
「モモミっ。いや、俺もさっき聞いた限りじゃダンジョンはほんとにあったらしいぞ?!」
「えーっ?! 詳しくっ!」
「あ〜、ちょっと待て、今起きたとこなのと今日大変だったんだよ······」
頭が回らんっ。兄貴が淹れてくれたメープルハーブティーを飲み、モモミに急かされながら帰ってくるまでのことをざっと話した。
ただ、アバドンさんから注意はされてる。アリッサやビッグヘッドといった著名な個体は伏せ、アバドンさんも『爺さんの知り合いで入口の洞窟の管理してた』くらいであとは伏せた。
メジハ牢獄その物についても『知性の高い個体が共同体作って暮らしているが親父の放置で環境は荒れてる』くらいしか教えなかった。
魔人化リスクや、毒気まみれなこと、試しがわりと危険なことなんかもサクっと伏せておく。
秘密だらけたが、一番大事なところは念押ししとく!
「ダンジョンのことはくれぐれも内密になっ! 爺さんも隠してたし、親父も継がないにしても黙ってはいた。あそこの連中にも生活があるからさ」
「言い触らしはしないが、生活と言われてもな。こんな近くで、なぁ」
「ん〜······それよりピロシ兄さ、『ピロシ兄自体はどういう設定で公表するの?』そろそろ、『あれ、ピロシ君じゃない?』みたいな噂が立ち始めてるんだけど」
「ぐっ」
さすがに『謎の旅人おじさん』で通すのも限界か。
「ピロシも爺さんみたいに鉱石学者で押し切ってみるか?」
「いや、爺さんは教会高等学校出て魔法道具屋で働いてた感じだろ? 俺は普通に『爺さんの資料とコネ頼りに地権者の木こりの承認を得て鉱石採取業を個人で始めた体』でいく!」
「なんか、そこはかとなく哀しみのある設定ね」
まぁな〜。
「村民税を払えよ。あと、住人登録もあるからな」
「あ〜、登録は明日な。税はなんか売れそうなもん、ダンジョンで拾ってくるわ」
「でもちょっと面白そうだよね。今度私達も行っていい?」
「俺もかっ?!」
「いや〜、もうちょい環境整ってからな! なんかガチャガチャしてるからっ、ははは」
『現状俺とはぐれたらわりと即死する』とは言えん。
取り敢えず1層くらいはさっさと安定化させないとな······
_____
翌日。朝一で村役場は開いてないから、兄貴情報で役場で事務役人やってるらしい中等学校の同級生のモリオの家に行った。
「おはよーっ! モリオ! 俺俺っ! 久し振りだなっ?」
「え? 誰? 誰ですか??」
半開きのドア越しにめちゃ警戒された。俺はドアの隙間に革靴を捩じ込んだっ。
「ピロシ・シープランドだ! 芸人やめた! こっちで鉱石採取業やるからっ。住人登録してくれよ。用紙、書いてきたぜ?」
有料の申請用紙は兄貴が用意してくれていた。
「おおお? ピロシか? 採取業?? ええと、シープランド氏······爺さんの跡を継ぐってことか?」
「大体合ってる!」
「大体??」
「なに、誰なの?」
奥から気怠げな女の声、ドア越しに見ると、見覚えのある同年代の女で、後ろに寝巻きの子供2人も隠れててる。
「え~と、ココミだ!」
「え? 誰??」
ココミか。これは······俺は声を潜めてモリオに耳打ちした。
「お前、ココミの姉ちゃんと付き合ってたよな?」
「ピロシ! 親友のピロシじゃないかっ!!」
モリオは素早く外に出てきた。へへ。モリオも声を潜めてくる。
「ピロシ! 勘弁しろ?! お前なっ、お前が芸人なれなかったのと俺の人生は関係ないからなっ?!」
「酷ぇな。ま、いいや。これ、申請書な? これからはまた同じ村民だ。よろしく!」
「ピロシ! お前、余計なこと言うなよっ?!」
「モリオ、俺との友情がお前のライフラインだ。へへへ」
朝一で悪い顔した俺はモリオん家を後にした。
しかし、モリオのやつっ。ココミの姉ちゃん美人だったし、ココミは巨乳! 太いヤツだぜ。たくっ。
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石門を潜り、アバドンさんの小屋に向かって歩く。
兄貴からもらった『古道具屋で安く買えたが普段使いにはゴツ過ぎて箪笥の肥やしになってた、ドワーフ式懐中時計』を確認。よし、ちゃんと動いてるな。
妹にも朝もらった『マスタード玉子サンドと玉葱キュウリピクルスサンドの弁当』もちゃんとリュックに入ってる。昨日よりいい感じだぜ。
「鍵の杖は」
鞘から抜いてみると魔力の籠り具合が調子良さげだ。しゃ。
ズンズン歩き、偽装木こり小屋の前まできた。簡単な木の門の上にぬいぐるみアリッサが止まってる。
めちゃ毛艶がよくなってんな。
「アリッサ、ツヤツヤになってねーか?」
「わたくしとしたことが勢い余って『雄鹿3頭』から纏めて生命力を頂いてしましましたわ。おほっ」
「······」
『なんらかの比喩表現』かもしれないが掘り下げるのは止すか。
「程々にな。行くぞ」
「いいでしょう、マスター君」
ぬいぐるみアリッサは俺の頭の上に降りた。門を潜る。
「昨日も思ったが、お前、ここの魔除けも素通りだな」
「今のわたくしは精霊に近いようなので」
「雄鹿に悪さする精霊な」
「言い方っ!」
俺とアリッサはコーヒーの匂いのするアバドンさん家の玄関に向かった。




