79話
矢文とクロスボウは一応用意してある。収納の腕輪から取り出す。
「もう持ちネタね。『悪いけど、鳥から殺せって言われてるから一旦死んで冠に戻ってくれる?』とか書いてるの?」
「殺人鬼のルーティンだろ?」
ロックローズとクリスタルリトーのイジりが強いっ。
「書いてないし、殺人鬼でもない。······簡単な経緯説明と『1回、フェネクスと交渉してくれないか?』的なことだよ。フェネクスの時のアストロロジーの予見でもこういうの大事、て出てたろ?」
「フェネクスとザリチュはこの牢獄に収監されてからは宿敵の様な物。交渉云々は難しいと思われるのである」
「一応だから、ネガジャバウォック。矢文を撃つから撤収準備してくれ」
「オレ、わかっ、ゾァっ?!」
ネガジャバウォックが高度を上げようとした途端、祠の屋根が炸裂してっ、中から数十の骨の大蛇が噴出! 猛烈な勢いでこちらに迫ってきたっっ。
「ザリチュだピョ!」
こんだけ近付くと潜行系効果意味なしかっ。
「水の護りを!!」
アバドンさんが光輪で全員に水系の祝福を与え渇き対策を強化してくれた。
「ゾァアアァッッッ」
「ヒートレイ!」
「『アイスストーム』!!」
ネガジャバウォックの拡散型のメガマナブレス、ヴクヴ・カキシュの熱線魔法、ベルゼジュニアの吹雪魔法で牽制するが半分は抜けてきたっ。
それだけで渇きの呪いがカッと増したが、水の護りでなんとか凌ぐっっ。
「んがっ!」
「『マナキャリバー』!」
「ヒホッ!」
「ヒィィィッッッ」
俺はウォータージェムベースの完封陣、ロックローズは魔力剣魔法、ヘルスパルトイはナマクラ斬鉄、ツルベ火クィーンは生命力を奪う『ゴーストハンド』で迎撃!
ネガジャバウォックは回避行動を取ってくれてるっ。
どうにか受け切り、抜け······っ?!
(鳥に唆されたのかしら? うふふ)
思念の声。すぐ側の砕けた骨の大蛇の1つの中から1つ目で鼻も口もない、古風なドレスを着た痩せた異様に長身の女が姿を現していた。
ヤバっっっ。
瞳をまともに見てしまい、身体が痺れる! 魔眼ってヤツかっ。
それだけじゃない。周囲の時間の流れがゆっくりだ。
『停滞した時間』の中を、1つ目の女、ザリチュだけが何食わぬ様子で普通の速度で動き、大蛇の骨の頭部から完全に這い出すと、骨の破片を操って足場を造り、俺の方へ歩いてくる。
(ヘイスケに似ている。可愛い。首と心臓を取って私の物にしよう。気が向いた時はマスターの仕事もしてあげる。100年くらいあればここも直せるでしょう? 他の首魁は冠に戻るだけ。眷属達は、付属する物だから······)
いやいやいや! 反論したいんだがっっ。
クリスタルリトーとは違う方向でそのまんま魔物過ぎる!
ザリチュは痩せた大きな右手を拡げ、俺の顔に押し当てにきた。掌には乾いた唇の口がある。
「······っっ」
マズいっ、マズい!! 首魁対応に慣れ過ぎていたか? アストロロジーの予見に頼り過ぎて逆に予見がない時のリスクを失念してたか??
失敗だ。
舌まで出したヤツの掌が俺の顔面を掴みかけた。
「『タイムジェムパンチ』だっ、オラぁっ!!!」
時空属性の魔法石を数個握り潰しながら、右手を巨大化させたクリスタルリトーが停滞時間を突き破るようにしてザリチュを殴り付け、屋根の崩壊した祠まで叩き落とした。
「ハッハッハッ!! 当たったろ? ピロシを狙うと思ったぜっ、クソ魔女がよぉ!!」
勝ち誇るクリスタルリトーだったが、殴った右手が『渇き過ぎて』砂に変わりつつあった。
「この程度でアレは死なんっ、撤退である!!」
「ゾァアアァーーーッッッ」
ネガジャバウォックは全速で来た方角に飛び去りだした。
「クリスタルリトー、助かった。右手大丈夫か?」
「ああ?『右手が死んだだけ』だ。それよりあんな性悪にマスター権が渡ったら始末に負えねぇ」
「そりゃ、そうだが······」
「見せて、ガイアジェムで錬成すりゃいいんでしょ? あんたの身体は雑だから」
「お前らが生物体の構造に縛られ過ぎなんだよ。身体なんてタダの器だろうが」
「はいはい、極論極論! 完璧には直してあげるわ」
クリスタルリトーの腕はロックローズに任せておけば問題なさそうだな。よかった。
「いやでも、ヴクヴ・カキシュ! お前達、よくあんなのと引き分けに持ち込めたなっ」
「フェネクス様は偉大ピョ! でも正直、アイツが『俺達のこと根本的には無関心』だから成立してる所はあったピョ······」
「そんか感じか」
参ったな。
「なんにせよ、いい教訓になったのである。対策を立て直せばそれでよし」
想定より手強い魔女ザリチュ! 俺達は撤退し、2度目の仕切り直しを強いられることになった。
いやしかしっ、夢に見そうだった! 出現の仕方怖過ぎだろ??




