78話
渇きの魔女ザリチュ。
魔王軍時代は、現在は大湿原になってるが当時最も広大な砂漠だった。『黒砂海』の主だった。
彼女は厳密には魔族というより黒砂海に古代が住まう『人類に非友好的な強力な精霊』といったようなモノで、黒砂海に誰も寄り付かず退屈していた為、魔王軍の勧誘に応じて加わっていたらしい。
随分軽い動機でも、黒砂海周辺の乾燥地帯では猛威を振るい、現在でもわりと有名な災いの魔女だ。
ただ、ザリチュは乾燥地帯から出る気が全くなかったらしく、『勇者パーティが黒砂海を通らなかった為』勇者の伝説とはほぼ切り離されて伝わる怪異だ。
討伐したのも当時の乾燥地帯の『40人の英傑達』で、勇者の戦いの同時代にある地域で暴れ、その地域できっちり討ち取られた魔物。という具合だ。
ローカルで片付いてしまっているからちょっとショボいような気もするが、実力や渇きの呪いの始末に負えなさはネガジャバウォックやクリスタルリトーに匹敵したそうだ。
なにしろ魔王よりずっと昔から人類にとって災厄だったようではある······
参ったな、と思いつつ! タンクシメジに代わって『黒帯サボテン』をスカウト。
人型のサボテン種族。モンクペンギンと同じ格闘タイプ。乱戦に持ち込まれた時、近接できる群体の仲間は必須っ。活躍を期待したいところだ。
渇き対策の防具やアクセサリーもバッチリ! 特にリュブリャナと人間体スキュラはみっちりだ。
準備は万全! 念入りにアストロロジーに予見してもらったルートで、俺達は砂漠のザリチュの支配域に侵入を始めた。結果、
「シュウゥ······」
「はふぅ、ふー······」
対策したはずのリュブリャナとスキュラが速攻リタイア寸前っ!
実際、環境修復浄化後も暑さに加えて『凄い勢いで水分が飛びまくる』というイカれた環境だったっ。
リュブリャナとスキュラ以外もアクセサリーと防具で対策してなお、キツい環境ではあった。
「あ、これ。ダメね。ダメなヤツね。私、2人に渇き避けの結界張るわ。あんまり完璧な参戦は期待しないでね?」
「わかった。2人が干物になる前にやってやってくれ」
ロックローズは小型の結界で2人を覆い、渇きから守ってやった。
「坊、編成と対策が甘かったかもしれないのである」
「う〜っ、アストロロジー。どう思う? なんか見えるか?」
「単純に野良モンスターとの遭遇や毒の砂嵐との遭遇はなるべく避けられるルートを進んでいるはずですが、ザリチュは支配域全域に自分の呪いの効果を及ぼすので、読み辛くなっています。フェネクス以上に近付けそうにもありませんね······」
どうにもやり辛いなー。
「そっか。ダーファン達はどうだ? 長年ここで対峙してきたんだろ?」
フェネクスの意向に忠実なダーファン、テラツツキ、ヴクヴ・カキシュは付いては来ていたが、終始ムッとした様子で無口を通してる。
「······4層に上がって来て、砂漠で陣地争いをした時はそれなりだったが、それきりだ。なんの反応もない。元々『時間感覚』のオカシイやつなんだよ」
「ネガジャバウォックは代替わり後にはただの野獣みたいになっちゃうしさ〜、マジ4層、終わってたわ〜」
最初にやたら突っ掛かってきてたのはやっぱはしゃいでたな、コイツら。
「ピョピョ。鍵の主には興味あるはず。先々代の主とは珍しく親交あったピョ?」
ヘイスケ爺さんのコミュ力!
「ピロシ君、取り敢えず最初の野営地で転送陣を造ったら一旦、ジャバウォックの拠点まで戻らないかい? 対ザリチュ以前の話になってるよ」
ヨミロートス達樹海組も損耗気味。
そしてふと見ると、籠の中のアリッサとケムシーノ達も萎れてきてる。やっばっっ。
「······よし。ヨミロートス案で行こう。あと、アバドンさん、アリッサとケムシーノ達日干しになりかけてるから!」
「む?」
「「ケムん······」」
鼓舞してみたものの、つくづくシンプルに渇きまくるって厄介過ぎる能力だ。
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慌てて最初の野営地経由でネガジャバウォックの拠点まで戻った俺達は即席の『大冷水浴場』を造って涼を取ることにした。
「シュウゥッ、生き返るぜ!」
「ここに住みたいですっ」
活力を取り戻すリュブリャナと人間体スキュラ。他のメンバーも温度差はあるが概ね好評。中には、
「多少乾いても、温度上がっても大騒ぎし過ぎなんだよ」
「プール苦手、ヒィィィッッッ」
クリスタルリトーやツルベ火クィーンみたいなタイプもいたが。
「あたしらは冷水なんて入らないよ?」
「ダル〜」
「風邪引くピョ!」
火属性の怪鳥トリオも入らない。この5人には『焼き迷宮林檎』を渡しておいた。
これは食べることは食べてくれていた。クリスタルリトーは一度結晶化させてからバリバリ噛み砕いていたが。
「いや実際、どーしたもんかな? て、ぼぉっ?!」
水着で浸かりながら思案してたら、爆音と共に大量の水に襲われた。縁の外に放り出されるわっっ。
「ゾォアアァッッ」
脈絡なく、縮小体とはいえ巨体で、派手に泳ぎまくるネガジャバウォック!
からの冷水浴場の水を大きく減らした結果、コメリナとレウケートレントに怒られまくりだすネガジャバウォック······
スキュラが外にあふれた水分だけ回収して戻してくれてはいたが。
「ふっ」
振りゼロでボケからのツッコミの間もなく高速オチという、高度なパフォーマンスに遅れを取りまくり、俺は微笑むだけだ。
と、ネガジャバウォックの『爆泳ぎ』の波からアストロロジーや浮き輪に乗せられたアリッサとケムシーノ達を結界で守っていたロックローズが、平泳ぎでこっちにきた。ん?
「アストロロジーの予見が上手く効かないならさ、アクセサリーで固めて偵察してみたら? あの環境で全員で動くと装備が物資損耗してすぐ足りなくなりそうだわ」
結構攻めた水着を着てるから余り直視しないように配慮するより他ないが、
「偵察な」
ミニキューブ偵察で失敗してそれきりではあった。
なんか、手を打たないとではあんな。ふーむ。
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冷水浴休憩後、協議の結果······
「おっほーーーっっ!!」
「ゾォアアァッッ!!」
「ちょっと騒がない! 隠れてんだからっっ」
俺と選抜メンバーは本来の大きさに戻ったネガジャバウォックの背に乗って飛行していた。
前方広域に一応毒気も舞う毒砂対策の杖の浄化力はキープしてる。
3層のハイスラ船でもちょっと思ったが、発動位置固定して『乗り物』で一気に浄化するのは作業が単純ならそこそこ効率的だな。
ま、それはともかく、構成は俺、アバドンさん、ロックローズ、ヘルスパルトイ、ツルベ火クィーン、クリスタルリトー、ヴクヴ・カキシュ、ベルゼジュニアだ。全員渇き対策アクセサリーを倍盛りし、隠れ身のマントも羽織っていた。
ネガジャバウォックは大き過ぎるからロックローズが潜行系魔法を掛けてる。
「ルート取りと相手の拠点の様子くらいは把握しとかないとな!」
砂漠が広いといっても所詮迷宮内だ。ネガジャバウォックが本気で飛べばあっという間にに支配域の中心部······なんだがっ、
「うっっ?!」
進む程、想定を越えるっ、鷲掴みされるような強引な渇きの魔力!
「坊っ、結界でごまかしているが、直に中心部! ザリチュの棲み処であるっっ」
「よ、よっしゃ! ネガジャバウォック、もう一頑張りだっっ」
「任せろピロシっ、ゾォアアァッッ」
「だから静かにってっっ」
ロックローズがキレ気味だが、確かに、前方! 激しい渇きの先っ、なにか『見えざる壁』の気配を感じた。
「あれか、オリャっ!」
簡易版、エアジェムベースの完封陣で壁を壊すと、
「っ!」
見えた! 祠だ。毒砂漠にポツンと『祠だけが』あった。
「小さいな」
「あのクソ魔女は『1人きり』だからな。個で完結した、俺達上位巨人でもないのに」
クリスタルリトーは平坦な口調で言う。
「1人きり、か」
存外、スッと拠点まで来れちまったが、取り敢えず、矢文でも射っとくか?




