77話
俺は地上組と共に迷宮を出て、森の奥のクピド達のモンスターシークレットガーデンに来ていた。
「······」
光属性の煌めきがあちこち漂ってるのは変わらずだが、ツリーハウスは『5階建ての塔と一体化した大木』に変わり、菜園と花壇は『本格的な農場と生け垣迷路』に変わり、生け簀と小さな池は『ガッシリした養魚場とあちこち小島に橋の掛かった謎の浅い湖』に変わり果てていた。
多数多種のリーフウォーカーが農業と生け垣迷路の手入れに勤しみ、多数多種のモンクペンギン達が漁業と橋の工事なんかに勤しんでいる。
「いや、敷地拡げ過ぎっ?! 塔も高いわっっ」
「「「え〜?」」」
塔の最上階の部屋で暖炉の前でシルバーワーグと遊んでいたクピド達は、窓辺から突っ込んできた俺に億劫顔だ。
「まぁいいじゃないですか? 農場の苺、美味しいですよ?」
「魚も美味いよ?」
近くのテーブルで『ガーデン飯』に籠絡されているアストロロジーとゴールドスコップ。
「坊、近々、地上に連れてくる個体を増やすので環境を整えさせていたのである。塔はガーデンの外からは普通は術で見えない。リーフウォーカーとペンギン達は予定より早くに上げているようであるが」
甘党だが、校長先生モードだからか? 茶だけ飲んでるアバドンさん。
アリッサとケムシーノ達は揺り椅子の上で爆睡。
「ちゃんと選考したッスよ」
「人手が足りないですし」
「移住先も探してるよ!」
「ダメとは言っていないのである」
なんだかなぁ~。ほぼ確実に近い内にメジハ村より規模デカくなるぞコレ。ま、いいけどさ。
······迷宮の方は、結局ビッグヘッドにも3層まで降りてきてもらい、渇き対策アクセサリーの開発やキューブの改良と増産の目処と、タンクシメジに代わって砂漠でスカウトできそうなサボテン型のモンスターなんかの候補選考なんかが一応済んでいた。
今は本格的に休息だ。
フェネクスの試しの『期日』は明確じゃなかったが、態勢が整わないことにはなんともならない。
だな。よし! 休もう。
「なんかこう、『海老を炙ったようなヤツ』ってある? あと青豆的なのも」
「あるッスよ〜?」
「坊、居酒屋ではないぞ?」
「へへっ」
酒は出してくれなさそうだが、肴だけはいいのを食べられそうだ。
俺は窓の向こうの広がる一方の煌めくガーデンを見下ろした。
_____
村でも休み、迷宮に戻った。
地下3層のダークエルフ拠点か樹海拠点に行こうかと思ったら、
「だいぶ形になった! 俺達の旧拠点も見ろっ! シュゥッ」
とリュブリャナが荒ぶったので、他の首魁達にそこそこ面倒がられながらリザードマン族旧拠点で会合することになった。
「なるほど、2層の拠点を3層に落とし込むとこうなんだな」
例によっての実力主義の階級社会。強く優秀な氏族や個人は『高い土地の区画』に済み、それ以外は低い所に住んでいる。
水場から隆起した陸地に飛び飛びに暮らしているが階級は明白だ。
3層は季節によって水位が大きく変動するようだから余計にこのカルチャーが定着したのかもな。
「ようこそいらっしゃいました」
リザードマン族の人材不足で配置は二転三転してたようだが、今はここを預かるプリースト個体。
正確には『ハイプリースト個体』に進化していたが、リュブリャナが「プリースト」としか呼ばないのでそのままになってる。
「装飾や娯楽施設は間に合ってないが、仕上がってるだろ? 俺達の本来の拠点! シュハハハッッ」
「帰属意、もががっ?」
首魁達の迷宮への帰属意識をよしとしないクリスタルリトーが余計なこと言う前にヨミロートスが蔓で口元を覆って黙らせた。いいぞ。
「立派は物だ。落ち着いたら3層の警備と土木工事の類いを任せたいの」
「任せろ! シュゥッ」
歴代の記憶の持続性かあるので、リュブリャナの扱いに慣れ切った様子のザトウマージ。
「ま、いいけど。矮小化した幹部もアリッサ以外は回復したし、さっさとフェネクス眷属の誰を連れてくか決めましょ?」
全体的に砦のような造りで階級意識の強いリザードマン拠点は基本的に好みじゃないらしいロックローズはサバサバした感じになってんな。
「リュブリャナ、館に行こう」
「よし! 俺の新しい館も堅牢だっ」
話を進めようとしたワケだが、
「本来の俺様なら一撃で踏み潰、もごごっ?」
また余計なことを言おうとしてヨミロートスに口を塞がれるクリスタルリトーだった。
_____
さて、3層のリュブリャナの館の広間に、捕らえたフェネクス幹部4体が並べられた。いずれも魔力を込めた鎖で拘束もされてるが、『仕上がり具合』に違いが随分ある。
霜まみれでまだ眠らされているダーファン。驚愕の表情で完全に氷漬けのテラツツキ。ぱっくり斬られた上で氷漬けのカイム。氷漬けではなく結晶化させられてるヴクヴ・カキシュ。
「アバドンさん、口頭でざっと言われただけだが、3体使うってのは契約だよな?」
「特に術は発動していなかったが、頑迷なヤツがそうだと言っているのであるからには魔術的な契約を『越える物』と判断すべき」
モンスターの首魁と気軽に口約束するもんじゃないな、と。
「厄介だなぁ。······ヘルスパルトイ、カイムはどうだった?」
「ヒーホ。手練れでしたぞ? 速く、雷属性。ザリチュ殿にも有効とは思いますな」
「そっかぁ」
シンプルな強さでいったらだよな。
「ピロシ君、フェネクス拠点への進行では属性対策に手を焼いた印象もあったよ?」
「それな」
ヨミロートスの言い分もわかる。カイムは『一騎打ち特化』過ぎではある。
「取り敢えずヴクヴ・カキシュは抑えて置いた方がよいのではぁ? 速く、攻撃特化の熱線使い。便利ですよ〜、ムフフ」
「私は殿で火属性ばかりなので······ヒィィィッッッ」
むむっ?
「こんな雑魚ども誰でもいいぜっっ、ケッ!」
「ピロシ、テラツツキ達はちょっと『足りない』けど、機動性と合体技は強くなかった?」
「渇きのザリチュは魔術が達者な者。魔法使いの補強は必須ではないか?」
「カイムを殿に回せばいい。シュゥッ」
むむむっ?
思案の結果······
「ダーファン! テラツツキ! ヴクヴ・カキシュ! を同行させるっ」
俺はそう決定した。
渇きの魔女ザリチュの支配域。これで行ってみっか。




