72話
ダーファンは2層の、だいぶ復興した旧キラーモール拠点に『眠りと氷の牢』を造って封じることにした。
「······っっ」
ダーファンは回復も、自決もままならず、悔し気な様子のまま眠り続けている。
「このまま眠らせて封じる分にはいつまでも保ちそうですが、4層の勢力に襲撃されてはお手上げですぞ?」
シャーマン個体なんかと器用にこの廊を生成したビッグヘッド。ここを預かるキラーモール・ヘビィナイトも戦々恐々って感じだ。
「まぁ4層まで遠いから。転送陣の使用権を奪うのも難しいし」
「今、このダンジョンで稼働している転送陣は全て生きた私の眷属ですからね〜?」
いつもの調子のエル・ジェリーマンに微妙な顔をするビッグヘッド。『移動の要を一種が独占するのは反対派』なんだよな。
「フェネクス対応はなんとかする。ただ向こうがこっちの構成だと地属性で固めるとわりと完封できるのをもう見切ってるのと、アストロロジーの能力がヤバいのにもそろそろ気付かれたはずなのが問題だな」
「交渉も厳しいんじゃないかしら?」
「鳥女コンビが勝手に場当たりでやってるワケでもないと、今回知れた気はしますね」
ロックローズとコメリナも厳しい顔。
「弱点や足手まといにはなりたくありません。ある程度接近する必要はありますが、相手の拠点の側で半日も集中できればある程度なら予見できると思います」
やみくもに矢文を射るだけよりずっといい。アストロロジー案は採用だな。
「わかった。相手がわざわざ有利な拠点から出て纏めて襲ってくることはないと思うが、その場合、アストロロジーを転送陣で逃がすことを優先しよう。ダーファン確保で改めて思ったが、先読みできれば今後もどんな展開でも有利だかんな」
俺達は進路の野営地跡でマメに転送陣を造りつつ、可能な限りフェネクス拠点に近付いて予見の精度を上げてく戦術を取ることになった。
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で、北東のフェネクス拠点に2番目に近い野営地跡まで接近するところまできた。
「ここが限度ですね。なんというか······『怒り』を感じます。私の予見に対して見られたこと自体を直感する鋭さも感じました。これ以上近付いて見ると、有利不利を度外視て攻められ、見通すことは難しくなるでしょう」
そんな怒ってんの? 親父よ、せめて代わりの人員用意してトンズラしといてくれよ······
ま、しょうがない。
「よし、エル・ジェリーマン。一時的に消耗しちまってもいいから、転送陣をなるはやで頼む」
「かしこまり〜、ムフフ」
城壁は生成済み。砂漠でも成れたもんで黒玉仙、エビルカーバンクル、ロックローズ、護衛兼見張りのヘルスパルトイとツルベ火クィーンでささっとやってくれてる。
滞在設備はスキュラとゴールドスコップ。城壁外にはエッジキューブ。内部の端側にマークごとに分かれた札の兵士達。
タンクシメジは下手に散らすよりヨミロートスやマガリコダマと行動させた方がカチ込まれた時硬い。もうバラバラに配置してない。
リュブリャナが俺の警護。
アストロロジーはコメリナとケムシーノ達と一緒にアリッサのテントが固定位置。今、そこにいる。
アバドンさんは三滅槍トリオと料理好きのレウケートレントと焚き出し。
ネガジャバウォックは結構な量を摘み食いするから調理場から追い出されしょんぼりしてる······
うん。大体砂漠で固まった役割分担できてるな。大体だがっ!
焚き出しの前から補助用の魔法陣の準備をし、焚き出し後から本格的にアストロロジーの予見が始まった。
幸いギリギリの距離は取れているからか、ここまで襲撃はない。
陣の中央に座って浮遊し水晶玉を抱えるように集中するアストロロジー。
対価物が次々と消費されてゆく。
「内なる星々よ······」
集中するアストロロジー。
そこからたっぷり5時間は経過し、不意にカッと目は見開かれた。
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毒の砂塵の向こうに広大なフェネクス達の拠点が見えていた。
負の炎を帯びた神殿を中心とした奇妙な小型の塔が乱立する奇妙な街。眷属全てが鳥系モンスターだから、『定住地』の基準がまず違うんだろう。
既にアストロロジーはエル・ジェリーマンの出した近接戦闘向きのハイスライム10体を護衛に、離脱済み。
予見の内容は、
1つ、『ダーファンは封じてはいるが無事であると記載した矢文は4回前後で相手の攻撃を受ける。ただし、矢文の回数がこれより少ない、ないしダーファンの具体的な情報がないと信用度が著しく下がる』
2つ、『矢文に対する攻撃はフェネクスの短気による物で、熱線である。無対策の場合、キューブ、札兵、タンクシメジに大きな被害』
3つ、『突入に際し、深部までに上位眷属が必ず5体前後死ぬ。これは確定的な数で下手に予見を覆すとより不利ないし混乱した状況が起こる』
4つ、『突入時の氷属性を持つキューブと札兵の残数で最終被害が大きく変わる』
ざっくり形取って解釈できるのはこの4点だった。
1と4は事後の勝利自体は示唆してる。2は4の補強。3は一番難しいが、上位眷属にも『色んなタイプ』がいる。やりようは、ある!
俺達はロックローズに『熱と光への耐性』の結界を張る準備を念入りしてもらった上で、絵札兵にダーファンの状況を誤解ないように慎重な文面でしたためた矢文を30分おきにきっちり『5回』打ち込んだ。
矢文自体を結界で弾く程意固地でもなかったが、5回目を射った20分後っ、
ドッ!!!
神殿の壁面を撃ち抜いて! なんなら塔の建物をいくつか焼き切ってっ、熱線が砂丘の上のこちらに放たれたっ。
「!!」
見たことない、ってくらいの本気顔でロックローズが結界を展開! 熱線を相殺してくれた。が、
「だはぁっ?!」
ぐでんぐでんになるロックローズ。
「私が介抱しながら運ぶっ」
コメリナが飛行絨毯にロックローズを放るように乗せた。
「任せた! アバドンさん達の近くに控えるといいっ、しゃ、手筈通り、行くぞ?!」
「ゾォアアァーーーッッ!!!!」
拡散しない一点集中型のネガジャバウォックのメガマナブレスで相手の結界と城壁に大穴を空けたっ。
突進開始!!
速攻で塔や拠点内の地面に仕込まれていた炎骨鳥や砂海亀達が出現し、応戦の構えを取り出す。
まだ『雑兵扱い』のモンスターだけか。
硬い亀対策ももう慣れてる! ヨミロートス達が砂中から『根の槍』を噴出させて多少は柔い亀達の腹を打ち抜いてゆくっ。
うへぇ、て感じだがこんなると勝たんことにはどうにもならないっ!
「交渉決裂だが、『交渉的突貫』は続行ぉ!!」
自分でもなに言ってんだかだが、このメジハの牢獄ではよくある展開! 今回も押し通るぞっ?!




