56話
数日の休息を経て、俺達はメジハ牢獄ダンジョンに戻るワケだがまずは2層に寄って状況を見てみることにした。
「ゴールドスコップ様っ! マスター様!」
鎧兜姿じゃない作業着姿だから誰かと思ったがキラーモール・ヘビィナイト個体か。
俺達はキラーモールの旧拠点の復旧作業現場を見にきていた。
土の種族に適した土だらけの環境だけに思ったより作業は進んで、広大なやたら穴だらけの簡素な地下野営地になっていた。
「地上はどうでした?」
「厳しいね······元々あたしらは地下の種族だからさ、少しずつ慣らす必要がありそうだよ? 加えて、この時代の地上じゃあたしら珍獣扱いだからねっ」
「話には聞き及んでいますが······」
思ったより『いい話』が聞けず困惑するヘビィナイトだったな。
それから1層拠点にキングを預けているから余計にオーク・ジェネラルが偉そうに仕切ってるオーク族の旧拠点の復旧具合を見たり、リザードマン・プリーストが手堅く仕切ってるリザードマン拠点を見たり、サハギン・グラディエイター2体が幼体の1体等のまだ力を取り戻せていない新生幹部個体を育ててる2層水棲種拠点を見て回った。
3所とも大きな問題はなさそうだ。よしよし。
それからゴブリン・ハイウォリア達が仕切ってる2層市場を見にいった。
「マスター様!」
「うわっ、ダークエルフの子供じゃないッスか?」
「資料以外で初めて見た〜っっ」
「こんにちは」
笑顔で挨拶され「ども」「ちわッス」とかへどもどするハイウォリア個体達。
市場は以前より賑わい、ゴブリン達が植えた植え込みや花壇なんかも立派になっている。
「上層住人限定ではあるが、配給券以外の物々交換もまともに機能しだしているのである」
「物々交換より先に配給券が普及する辺りが各首魁の統制下の社会って感じだよな」
「この層に関しては各首魁ではなくリュブリャナが『不正は処刑する』と明言しているからであろう。まぁビッグヘッドが初期から物資供給に目配せを利かせた結果でもあるが」
抑圧と融通。鞭&飴てヤツか······
「文化が芽生えつつあるようです。いいですね、記録と遠い薄れてしまった記憶の中にしかない光景です」
「『最初のあたしら』からするとへったくれもないがね」
ゴールドスコップがオチをつけて苦笑させ、それから俺達は主に2層でオークの巡回補佐をすることになったブルワーグ達の様子を見に行ったり、2層には『マージ・リーフウォーカー』の群生地を作っているリーフウォーカー達の様子を見たりして、最後に大体不在のエル・ジェリーマンの拠点生きた街に向かった。
「こんにちは〜」
「マスターどうもです〜」
「あ、ケムシーノだ。かわいい〜」
「「ケムん?」」
ぼちぼちいる素のハイスライム以外だとヒーラー個体が『3体』だけ配置されていた。
全員フード付きローブを着て浮遊してる。胴の中身は??
人員数は街と転送陣の維持と素材造りに最低限必要なだけって感じだな。
基本的に自分の分身的な眷属をそこまで増やす思考はないんだろう。
「拠点間は転送陣で結ばれたけど、孤立してる野営地間はまだだから近距離テレポート仕様でいいから準備しといてくれよ」
と言ってみたら、
「わっかりました〜」
「いいよ〜」
軽ーいノリで了解された。自我があるとさすがにエル・ジェリーマン眷属だぜ。
そんな感じで、2層に関してはもうモモミ達を連れてきてもよさそうな気配だ。
肝心のモモミ達は1層見学で一先ずお腹一杯って感じだけどさ。
_____
3層に降りると活動再開前の全体の再協議は樹海拠点で行うことになっていたが、まずは気掛かりな水棲種の旧拠点に向かうことにした。
そこは一部の残骸や環境劣化の影響をあまり受けていなかった魔王城の瓦礫がいくらか水面に露出していたがほぼ水没してしまっていた。
まぁ元々2層拠点同様に水場多い拠点ではあったらしい。これにどう手を付けるのかな? と思っていたんだが、ザトウマージの回答は、
『水草で、め〜〜〜ちゃ浮島造る』だった。
他にも大体水中で生活する者がそもそも多いので、ちょっと一息つく程度の場所として大型水草のオオオニバスの類いをあちこちに発生させてそれらをベンチ椅子のようにして利用させていた。
なるほどー、2層拠点の時点で『村』て感じでもなかったが、彼らや彼女達の生態からするとまともな水のある環境の場所を確保すること自体が肝なんだな。
「主どの、お戻りで。ゴールドスコップとアストロロジーも戻ってきたのか」
「そりゃ勝手にバックレやしないよ。大体あんな『広過ぎる』とこで1人でやってけないよ!」
「ふふ、私も景色を水晶玉を介してお裾分けしに行っただけなので」
「ほう」
盲目の目を細めるザトウマージ。
「ここもいい感じだな。3層の水場全体生き生きしてきた感じだ」
選り好みしなけりゃ食糧確保は3層の水場だけでも完結できそうな勢いでもあった。
ちょっと野良モンスターも増えちまいそうでもあるがっ!
「ええ、もう思い残すことはないくらいですな······」
満足そうに目を閉じ、動かなくなるザトウマージ。
「「「······」」」
目を開けず、動かないザトウマージ。
「······ちょーーーいっっ!!!」
揺り起こすっっ。
「はぇっ?」
「いやいや、シャレになってないぞザトウマージ! 見た目お爺ちゃんだかんなっ?!」
「いや、感慨に耽っていただけですぞ??」
あっぶっなっ、勘弁してくれよっっ。
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なんだかんだで樹海拠点に転送陣できた。ヨミロートスの樹の手前はさすがに物騒に感じたのかちょっと離れた位置に移されていたな。ほほう。
「お待ちしておりましたダンジョンマスター。ゴールドスコップ様の眷属方が土を運び入れ増やすてくれたおかげで森が息づいています」
案内にはレウケートレントが出張ってきた。
「ほぉ〜」
確かに、前は浄化してなおどんよりしていたが、今はあちこち花が満開であったり実をびっしりと付けている木々が目立ち、生き残った眷属達も元気そうだった。
「上位個体以外の眷属の新生は下層攻略を考慮して選別した上で3割程に抑えてあります。今はまだ環境を圧迫してしまうでしょうから」
「そうか」
元3層組連中は少しナーバスだろうしな。
「上位個体は新生しましたが、早期復帰は難しいです。それからロックローズ様とコメリナが早々と来ています」
「へぇ」
「見えてはいましたが、なんだかソワソワしていませんか?」
レウケートレントはふっと微笑えんだ。
「幼いあなたがもう地下に戻られないのではと落ち着かなかったようですね。好きな菓子を作ってみたり、接待する構えのようですよ? ふふ」
「まぁ、そんな」
自分がロックローズ達から接待されるとは意識外過ぎて上手く予見できなかったらしいアストロロジーは目を丸くした。そりゃ、ね。
ヨミロートスの樹の元まで来ると、東屋広間は『樹の寺院』のように立派に造り替えられていたな。体調の戻った様子のヨミロートスと、なにやら緊張した顔付きのロックローズと焼き菓子どっさりな籠を持たされたコメリナが待ち構えていた。
「アストロロジー! 出掛けはちょっぴり変な感じになってゴメンね。出来心よっ」
「あ! こんな所にたまたま菓子がぁ! ······歴代のお前の資料を漁った。今は材料が手に入る。こういうの好きなんだろ?」
「はい、ありがとう。あとで皆で食べましょう。私にはその景色が見えてます」
「そうよね。ウフフ」
「コイツめっ、はは!」
「「「うふふふふ」」」
······ダークエルフ組のいちゃつきに入り込めねぇな、て。
まぁそこはいいや。
「おう、ヨミロートス! 戻ったぞ。そういやクリスタルリトーは?」
「あんまり聞き分けがないから一旦ボクの樹の中に封じてるよ」
樹の樹皮が開いて中か蔓たか根だかに絡め取られて逆さまにされてすっかり細くなったようでもあるクリスタルリトーが顔をだした。
胸の穴が大きくなってヒビが入りだしてる。そろそろ死にそうになってんな······
「えーと、大丈夫か? クリスタルリトー。自業自得ではあるが」
「······よ、よーし。遅刻鍵の主。特別な、特別寛大な措置として!『3年』だけお前にこの俺様が味方してやろうっ! わかったからとっととここから出せ!! 知ってはいたが、このチビはサイコパスだ!」
「「「······」」」
いやお前もな。ともかく! クリスタルリトーはようやくっ、こちらの軍門に下ることを認めた。ここまで随分手間取ったぜ。




