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親父の遺産がダンジョンだった件  作者: 大石次郎


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42/68

42話

旅装に手早く着替えた俺は、この間好評だった青果店に······


『見えます。失恋の相が』


脳裏にアストロロジーの言葉がよぎる。


「よしっ、続けてフルーツも飽きるよな? ここはパン屋だ。その前にちょっと石も売ってこよう。パン屋の方が近いし、それがいい! 合理的っ」


俺はそそくさと加工素材店に向かった。


_____



入店し、大体だが無難な額になるよう選別して店主に鉱石や霊石の類い見せる。


店主は1つの月長石類の欠片を手に取った。


「魔力のやや籠もったサニディンか。これはそこまで高価でもないがいい色味だ、気の利いたアクセサリーになる。ネックレスにでも加工しようか?」


加工店で、この種の業種に就くのはやや珍しい小柄なハーフのフェザーフットの爺さんだ。


「いや〜、渡す相手もいないしな。はは」


なぜか冷汗出てくる。


「そうか、では買い取りを」


店主は他の石と合わせて西方式の算盤をパチパチとやりだした。


······サニディン、いい色味、気の利いたアクセサリー、か。


俺は咄嗟にサニディン石を取り返した。


「ん? 加工するのか?」


「いやっ、その、よく見たら感じのいい石だし! ほら、こういう石集めてる人いるだろ? その内加工してもらうこともあるかもだし、ハハハ」


「まぁ、アクセサリーにしてしまうと大袈裟にはなるな」


店主は特に深掘りするでもなく、残りの石で査定を再開した。


「······」


手の中の清く奇妙なサニディン石をちょいと持て余しちまった。


_____



売る物を売ったので、パンを多めに買った俺は兎パンチに戻った。


もう夕方だ。今日は蒸し風呂屋に行く元気はないな······


扉を開けると、


「あ、叔父さんだ」


む? 姪っ子がモモミとカウンターにいた。さらに近くのテーブル席にはモリオとミラルゴが座っていた。


「ピロシ兄が『パンの籠』を持ってきたよ!」


「おう。メルメル鶏のシチューあるぞ?」


「ちょうどピロシの話をしてたとこだよ」


「隔月の税の届け、忘れるなよ?」


帰って早々、すんごい日常だな、と。


「土産」


カウンターの端にパン籠を置き、


「俺は今日、もう寝るわ」


「「「え〜っ」」」


『お喋りのネタ』が来た側から退散するのを仕事終わりの暇人達に不満がられたが、眠い!


俺はとっとと屋根裏に退散した。


_____



·····夢を見てる。背景のほぼ白い、中等教会学校の教室の夢。


席に座る、当時の俺とユーナン、ちょっと姿が透けてるがモリオとミラルゴだけがいる。


モリオは誰かは特定できない同級生数人と気楽に喋ってる。


ミラルゴは予習か復習を淡々と済ましてる。


ユーナンは読書。誰とも仲良くない。1人の世界だ。成績も確か普通くらい。


俺は自分の『ネタ帳』に夢中だ。この頃の『俺の想像する近い未来の俺』が一番面白かったな。へへ。


「······」


そう、かぁ。ちょっとハミ出したままの地続きの感覚で、同じとこに帰ってきてなにか始めた。と、俺は『勝手に共感』を覚えちまってんだな。


傲慢で、馴れ馴れしく、少なからず甘ったれ。


等と当時の姿のまま中のオッサンが考えていると、学生の背も高くないユーナンがふと顔を上げた。


重い前髪がパラっと横に一部ずれて片目と目が合った。


物をよく見過ぎる目だな。


「はっ!」


俺は目覚め、また冷汗かくやら赤面するやら。


中年が見る夢じゃない。いやあるいは今の年だからか?


どっちにしてもロクなもんじゃない。


_____



翌日の午前9時過ぎだった。身支度を整え、兄貴の話では、


『モリオは先日の休日出勤の代休らしいから村のどっかにいるかもしれないぞ?』


とのこと。どっかってどこだよ?


「······取り敢えず、風呂」


蒸し風呂屋に行って、さっぱりした。近いから金葉亭に行ってもいいが、どーすっか?


平服の革のベストのポケットにサニディン石を入れていた。


「まず、喉渇いたな」


なにがまずだか、だが俺は金葉亭よりさらに近い既製品だけ取り扱ってる食品店に向かった。風呂屋にも飲み物は売ってるが、あそこは子供の頃好きだったのが売ってる。


食品店『メジハエリクサー』。大袈裟な店名だっ。今入ると狭い店内。品揃えはそう変わってない。


「いらっしゃい」


婆さんが店長だと思い込んでたから、50代くらいの女性に言われてギョッとした。婆さんと似た顔立ちっ、そして会計台の所には背の曲がった婆さんが鎮座している! 娘さん、だろうな。


「うッス」


なぜか後輩風に挨拶して目当ての人工っぽい炭酸ジュースの瓶の棚に行くと、


「おっ」


「ん?」


同じく炭酸ジュース狙いだが、俺が絶対買わない『ファイナルファンシーオレンジ』の瓶を手に取っていたモリオ、発見。


_____



店先の長椅子で炭酸ジュースを飲んだあと、めちゃくちゃ嫌がるモリオを連れて、俺はせせらぎ亭へ向かっていた。


「ピロシ、ちょっと待ってくれっ。せせらぎ亭はココミのお気になんだっ。『暗黙の了解』で! 俺はせせらぎ亭に基本行かないし、ココミは金葉亭に基本行かないことになってんだよっ」


「基本だろ? さっき炭酸奢ったし」


「子供の駄賃くらいでっ。大体、この狭い村で、俺は同級生とかつるまないようにしてんだよ、役場対応で気まずいから!」


「昨日、ミラルゴにつるんで兎パンチにも来てたじゃんか?」


「ミラルゴは助祭だから酒場の楽士みたいなもんだっ。1回飲むようになってから改めて無視するとか、倍しんどいっ。お前の兄貴と妹は同級生じゃない! お前も風来坊みたいなもんだろ? 俺は野良の犬とか猫とお話してる気分なんだよっ」


「ごちゃごちゃごちゃごちゃ! うるさいなぁ〜」


行ってる内に店の前に来ちまった。時間は昼前。ちょうどいいぜ!

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