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親父の遺産がダンジョンだった件  作者: 大石次郎


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39話

巻き毛の銀髪が魔力で揺らめく、緑色の瞳のアストロロジーは抱えるようにして持った水晶玉を介して地下の様子を観測を始めた。


「うっ」


負荷が掛かるらしく、水晶玉にヒビが入りすぐに砕け散った! その負荷の余波はエル・ジェリーマンが『ハイスライムの盾』で防ぎ、倒れ込んだアストロロジーはコメリナが支える。


「大丈夫ですか〜?」


「ええ、助かりました。ありがとう······」


「アストロロジー、下の様子は?」


「結晶物で内部は狭まっています。グランドマスターであっても全て吸収しそのままロックローズ様と対峙するのは負荷が大きいでしょう」


「そんな感じか」


上手くいかないもんだ。


「シュゥッ、全軍連れても展開できそうにないな」


「言っちゃなんだけどね、結界が『無くなったあと』のことを考えると外周内側の要所に兵を配置した方が無難じゃないかい?」


「首魁勢とスキュラ以外は警備に回した方が無難かもしれませんぞ〜?」


「坊、交戦はほぼ確定。事後対応も要考慮である」


「ん〜、ダークエルフ達は今張られてる結界の代替えは即、可能か? 俺もなるようになったあと、どれくらい余力がある状態か? わかんなくてさ」


積極的に戦いたいワケじゃないだが、不可避っぽい流れだ。


「不十分ではあるが半日程度の物なら。アストロロジー、やれるか?」


「それまでに、回復しておきます······」


「仮の結界強化、手伝えます······ヒィィィッッッ」


お? ツルベ火クィーンはそっち行くか。ま、霊体の魔法使いタイプなら適任か。


「よし、ちょっと配置を詰めよう。アリッサは」


花咲く結晶の地下への入口を見ているアリッサ。


「今回は好きに立ち回ったらいい。ムチャしない程度にな」


「······そうしますわ、マスター君」


俺達は細かく配置を改めた。ダークエルフからはコメリナと『ダークエルフメイジ』を3人、同伴してもらうことになった。


_____



俺、アバドンさん、アリッサ、ダークエルフ達以外はツルベ火クィーン以外の首魁とスキュラとケムシーノ2体だけだ。


道をほぼ塞ぐ魔力結晶は取り敢えず通るのに必要なだけ鍵の杖で吸収してゆく。砕け散るガラスの花の回廊、といったところか?


アストロロジーの観測通りなら結界の基点となり、ロックローズが眠る祭壇の間までは保つはずだ。


「アリッサ、ロックローズとは親しかったのか?」


「······魔王軍時代は『私の配下の1人』にすぎませんでした。元々反抗的ではあったのですが、代を重ねるごとに突っ掛かってくるようになり、今、結界を張ってるのは手に負えなかったですね」


「1年程、あなたの所で修行していたと聞いた」


「え? 弟子?」


コメリナが意外なことを言うから今は高さのあるスキュラの頭に乗ってるアリッサをマジマジと見てしまった。


「あの頃はアイツは幼体でした。当時、3層の抗争は収まってなかったけど他の首魁2体が消耗して1時休戦になっていて、鍛えられるタイミングはそこしかない、という時だったのでしょう」


「へぇ? アリッサ軍師殿がね」


「傲岸不遜! 酷い弟子でしたよっ。最後は大喧嘩しておっぽり出してやりました。破門ですっ!」


怒ってる感じだけど、思うところはあるんだろな。


特にモンスターやトラップの脅威はなく、魔力結晶まみれでもその魔力のお陰か? 構造自体の崩壊もなく、お喋りしながら進み、程なく祭壇の間に着いてしまった。


「シュウゥ?」


「厄介そうですぞ〜?」


「マスター殿、手狭ですが、ゴーレムの準備をされた方がよろしいかと?」


「ああ」


祭壇の間には強力な魔力が漲る魔法陣があり、その中心部に魔力結晶の花の柱があった。


内部には美しいが気の強そうな、魔女風の格好のダークエルフが眠っている······柱にはヒビが入りだしていた。


「迷宮の力を利用しているのである。この層の劣化を早める形ではあるが、やれるだけのことをやったのだな」


「ロックローズ様、おいたわしい」


コメリナが見ても損耗は明らかな様子だった。


と、アリッサが羽ばたいて進み出た。


「ロックローズ! ばか弟子っ! 下手くそな魔法ですねっっ」


罵倒に、柱の中のロックローズがうっすらと目を開いた。


(アリ、ッサ)


そう思念が放たれ、合わせて彼女の記憶の一端が俺達に響いてきた。いずれも幼い姿だ。


魔力の花で覆われた宮殿の玉座でふんぞり返る弱体化前のアリッサの前に、サキュバス兵に捕らえられたれた幼いロックローズが引っ立てられていた。


なにか喚いて、兵に殺されそうになるがアリッサが片手を上げて止めさせた。そうして······


アリッサに酷い修行を課せられる幼いロックローズ。食卓で爆食してアリッサに呆れられるロックローズ。修行で力を付けるロックローズ。中々起きないアリッサを鍋を叩いて起こし修行を急かすロックローズ。


やがて力を高め、一気に10代中盤の姿まで成長するロックローズ。攻めてきた竜族を2人で撃退するアリッサとロックローズ。


時は過ぎていったが、ある日『一族を庇護する』というアリッサが申し出ると、これを突っぱねて大喧嘩するロックローズ。


壁面を吹っ飛ばし遁走して、遠ざかる花の宮殿を一度振り返り薄く笑い去る、ロックローズ······


「っ!」


魔法陣が力を高め、柱のヒビが大きくなると今や妖艶に育ったロックローズは身悶えし、


(ああぁぁぁーーーーッッッ!!!!)


絶叫の思念を放ち、柱の周囲に『花の装飾の結晶の女騎士』の群体が出現したっっ。


「結界の守護者達だ!! くっっ!」


弓を構え、手振りでメイジ個体達にも構えさせるコメリナ。


俺もヒートストーンゴーレムも20体余り召喚した。魔力は、十分蓄えてはいる。


(最後のエルフ郷は私が護る!!!)


その狂気の思念を合図に、結晶の騎士達は俺達に襲い掛かってきたっ。


「防御と魔力強化の祝福を与える物である!」


光輪で俺達全員に力を与えるアバドンさん。


「交渉不能っ! ゴーレムを盾に応戦する!!」


皆にそう指示を出し、ヒートストーンゴーレム達には『防御とカウンター』のみに専念させた。


それぞれ立ち回りを始め、交戦が始まった。やむを得ない。が、


「アリッサ」


「至って普通です。お構いなく」


やらかす気配だなっ。俺は接地なら一番素早いヘルスパルトイに目配せした。頷くヘルスパルトイ。


結晶の騎士の攻勢は激しかったが、大概面倒見が良過ぎる軍師殿の対応。気が気じゃないね。

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