38話
回復した俺達は荒れていても所々魔除けや水属性の魔力灯が生きてるダークエルフ拠点への道を進んでいた。船は全てハイスライムの複合体に変化だ。
船着場は惜しいけど今はどうしょうもないから誰も残さず放置だ。
「毒はともかく、木の侵食が少ないのは助かるよ」
この辺りは木の侵食は『ないではない』程度だった。侵食が少ないと入り難いのか? 植物系野良モンスターの姿も少なく、これに伴い虫系やキノコ系のモンスターの姿もほぼ見ない。
代わりにぶっ壊れた物質系モンスターの残骸があちこち落ちていた。やはり生きた物質系モンスターの姿は少ない。
「ロックローズ様の結界のお陰だ。ただ範囲が狭まってからはもう少し侵入があった」
「ふん? 今、少なくなってるのは?」
「おそらく、グランドマスターに反応して活性がされている。最近過剰に『敵』に攻撃する傾向があった。それを恐れてのことだろう」
「迎撃力が上がってるなら結構だがなっ、シュウゥッッ」
まだ興奮してるらしく、歩きながら酒をガブガブ呑んでいるリュブリャナ。困ったもんだ。
「私達も少し手順を誤ったり、直接結界に触れると攻撃される。今はロックローズ様本人にも近付けなくなってもいるのだ。その傾向はどんどん強まっている。もう、限界なんだろう」
「そりゃ、また、な······」
バツ悪そうになるリュブリャナ。
「らしくないことをムキになってするからです」
アリッサは不機嫌になるばかりだ。
「さっさと行った方がよさそうだな」
俺は毒靄を晴らしながら、灯りの足りないダークエルフ達がかつて整備した道を急いだ。
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ロックローズの結界は奇妙な物だった。流動する花の模様の、舞台の幕のような分厚い魔力障壁が天井まで覆っている。
「見事である。ダークエルフが、ここまでの魔力障壁を編むとは。歴代のロックローズでも最大の魔法であるな」
感心するアバドンさん。
「『最初のあいつ』がこれだけできれば勇者パーティーを完封できたかもしれませんね。まぁ自己犠牲なんて、発想はなかったでしょうけど」
皮肉でもないか? 微妙な様子のアリッサだ。
「気を付けて下さい、安全な道を通っていますがここからでも手順を間違えると結界から排除対象だと思われます」
毒の水場がある時点で結界まで続く通路は複雑だったが、『道順』も厳格らしい。
「ツルベ火クィーン! 降りて隊列に入ってくれ、ややこしいみたいだっ」
「了解······ヒィィィッッッ」
ツルベ火クィーンにも眷属を連れて降りてもらった。『跳んでるからゴマメにする』なんてことはないだろう。
俺達はコメリナの案内ですぐ近くにある結界を越える為に、あっちに行ったりこっちに行ったり、随分遠回りさせられた。
そうして、
「ヒーホ、途中から面白くなってきましたぞ〜?」
「物好きだねっ。あたしはうんざりだよっっ」
ゴールドスコップがちょっとイライラしつつ、俺達はロックローズの結界に触れられる程の所に到着した。
結界の表面の紋様が『花の門の絵』に変わった。
「私達が先導すればここから入れる。さぁ、グランドマスター」
コメリナが先行して花の門の絵の中へと入っていった。
「これで全部罠ならここで全滅もあり得ますね、ムフフ」
「嫌なこと言うなよっ、エル・ジェリーマン!」
戦々恐々としつつ俺はコメリナ達の後に続いた。
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そこは、荒れてはいるが古風な貴族の荘園のような景色だった。
「懐古趣味だな。だが、身分の別をはっきりさせてるのは気に入った! シュウゥッッ」
ここのリザードマンはバリバリ封建制だもんな。外の種と違って『竜族』に近い気風なのかもな。
「人気なないね。土もよくない」
地の土に触れて顔をしかめるゴールドスコップ。ケムシーノ達も少し近くの痩せた木を葉を齧ってみて、すぐにベッ! と吐き出して、よほど嫌だったのか、しばらくコロコロ転がって拒否反応を示していた。
「昔はここも肥沃だったが、外周近くはもうダメなんだ。中心部に行こう。村が辛うじて残ってる」
俺達はコメリナ達に続いて、衰えた古風な荘園の風景の中をさらに進んだ。
程なく、簡素見えるが魔力は強い城壁で護られた小さな村が見えた。
「コメリナだ! コメリナが帰ってきたぞっ」
「人間とドワーフを連れてるっっ」
「あれはリュブリャナとスキュラではないかっ!」
見張り台のダークエルフに見付かると大騒ぎだったが、
「帰ってこれた」
コメリナは安堵の顔をしていたな。
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ダークエルフの村は古風だったが、祭殿内の居住区のようでもあった。
確か、エルフの古い共同体もこんな感じのはずだ。『魔の側』といっても、飾りがなくなると似た風な暮らしに落ち着くのはちょっと興味深いな。
エルフだけに老人どころか、中年もほとんど見掛けなかったが子供や赤子はいくらかいた。
「この環境で衰えると老いる前に病で亡くなってしまうんだ。エルフは元々無駄に魔力が強いから外でもそう変わらないかもしれないが······」
「いや〜、そんなこともないが」
実際魔力の強いエルフは外見はそう老いないが、不死ではないし。異常な程に頑強な人間がそういないように、やたら魔力の強過ぎるエルフもそう多くいる物じゃなかった。まず、人口少なめだしな。
「そうか」
取り留めない会話をしながら、とくに若そうな住人に珍しがられ、よせばいいのにヘルスパルトイやエル・ジェリーマンが頭を外してみたり顔を伸ばしてみたりしてそれをさらに驚かせたりしながら、俺達は村の奥の、古い田舎の貴族風の『首魁の館』に向かった。
「よく来ましたね。私は『ダークエルフ・アストロロジー』。個人名は捨てました」
子供に見えるがどうも違うらしい、魔法使い風のダークエルフが待ち構えていた。
「彼女には村長兼、祭祀のようなことをしてもらっている」
「へぇ?」
「初めましてグランドマスター。『内なる夜空』を観測し、あなたがそろそろ現れることを予見していました」
「そ、そっか。遅くなって、面目ない」
「ふふふ」
常に遅れて現れてる俺ではある。
「アストロロジー。ロックローズはどこです?」
「出所されたのですね、アリッサ」
「わたくしのことはよいのでっ!」
「ふふ、ロックローズ様はこの館の地下の祭殿です」
アストロロジーが広い客間の床の中央に杖を差し向けると、入口が開いたが、開いた途端凄まじい魔力が噴出し、魔力結晶が噴出してこびり付き、それは花の紋様になった。
「深い眠りから目覚める時なのでしょう。そして、真の眠りに就かれる為に」
「やはり予見していたか······」
コメリナがアストロロジーに告げると、彼女は目を伏せるばかりだった。




