35話
ふーっ、びっくりしたぁ。
売れなくても元プロなんで世間話くらい、なんてことないはずだが不思議な程上手くゆかず、
「じゃ、俺、兄貴の店に差し入れ持っていかなくちゃだから!」
と、7割くらいの嘘っぱちを言ってそそくさと果物を買って退散するしかなかった······
「はぁ〜、こんな敗北感は大手飲食の新装開店の宣伝の仕事で昔流行った少女向けの戯画の人物の扮装で演出に言われるままに決め台詞ポーズを連発するが若い客には伝わらず、知ってるはずの親世代の婦人方にも『無』の顔で見られるが仕事だからやり続けるしかなかった時以来だ!」
夜営業前でしまってるから兎パンチのカウンターに突っ伏して、俺はバイトと一緒に仕込みしてる兄貴に愚痴った。
「例えがわかり難いな? 取り敢えず林檎は晩酌でカナッペにする。ありがとよ」
「······モモミと姪っ子のもなんか上手いことして出してやってくれ」
「モモミはそのまま摘んで酒飲むだろ。ロミーちゃんはオレンジで氷菓子でも作るか」
兄貴、マメかつ器用だな。さすが既婚かつ飲食やってると違う。
「ユーナンっていつからせせらぎ亭やってるんだ? そういうタイプに見えなかったが?」
「ひととなりは俺が同級生のお前より詳しいとは思わんが、4年前だったかな? 確かフサ村の山羊牧場に就職してたはずだが、フラっと戻ってきて、女友達と2人で始めてた。最初は菓子と惣菜を売ってたが、段々今の食堂形態になってった感じだ」
「へぇ? 女友達と」
大体1人でポツンと本を読んでるイメージだった。まず、山羊牧場に就職ってのも意外だ。
「友達はこの村出身じゃない。牧場の同僚? だっけなぁ」
よっぽど気が合ったんだ。見た目が大人になって背が伸びた以外はそう昔と変わらなかったが、色々あったんだろな。
「お前、ピロシ。随分タイプが変わったな。昔はわかりやすい『セクシーギャル』に憧れてたのに」
「ちっ、違う?! 今日、ユーナンと果物屋でかち合った、て話しだよっっ」
というか俺がガキの頃、セクシーギャルに憧れてたのを把握してたのかよっ?!
やっぱ田舎はこえーな。なんも隠せねーし、知ってる物があちこちに落っこちてる感じだぜ。
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と、いう具合に? 休暇を終えた俺は転送陣で3層の旧リザード拠点に戻ってきた。
「お、スライム御殿支部。壁と天井ができてる」
「エル・ジェリーマンは油断すると勢力をどんどん拡大しますからね」
「ダークエルフ達の様子を見にゆくのである」
御殿支部から出ると、旧リザード拠点は随分状態が良くなっていた!
種族ごとの宿舎が完成し、照明になる魔力灯が増えて明るい。
「鍵の主! 戻ったかっ」
「お早いお戻りで」
「おい! あんたからも言ってくれよっ」
リュブリャナと3層に来てたビッグヘッドとオークジェネラルが何人か配下を連れて現れた。
「ええと、戻りはしたが、ジェネラルはどうした?」
3層拠点防衛支援に来てもらうかもしれない、という話は来る前にあった。
「2層の野良モンスターで片付いてないのがいくらかいるんだよ。オーク兵とキラーモール兵を融通するから俺はいいだろ? 忙しんだよっ」
「お主はキングの育児に参加したいだけであろう? 大体キラーモールは今は食糧増産で忙しい。これから解放する下層の勢力拠点は物資不足が極まっておる所が多いはずであるからな。ダークエルフ達も案の定であった」
「ゴブリン兵を回せよっ」
「ムチャをいうな。1層見回りと2層市場対応、各種素材加工、武装ないし諸用品加工で手一杯であるし、そもそも我らは1層の住人である」
「うぅーっっ」
言い返せなくなって唸るしかないオークジェネラル。あんま詰めるとよくないなっ。
「本隊がここを立つと手薄になるから、しばらく頼むよ、オークジェネラル。ビッグヘッドも新作ゴーレムの生成はできたんだろ?」
「むろんです。今回は『納品』に来ただけですので」
杖を掲げ、魔法陣を展開して火炎を纏える石の傀儡『ヒートストーンゴーレム』を数体召喚して見せるビッグヘッド。
「あり合わせの素材ではあまり長持ちしませんが、あと30体あります。急場は凌げるかと」
「よっしっ。オークジェネラルも了解してくれ。無理させないし、そうだな。オークの宿舎にキング用の『貴賓保育室』を作っていいぞ?」
「よっしゃっ任せろぉ! 全力でここを防衛するっっ」
うん、オークは『キングのカード』で大体いけるな。へへ。
「リュブリャナ、ダークエルフ達は?」
「体調が戻らないのが何人かいる。ありゃ心因性だな。寝かしとくしかない。他は今はヘルスパルトイとゴールドスコップの2隊に別れ、ケムシーノなペンギンどもと組んで浄化済みのエリアで野良モンスター狩りに参戦してる。外から侵入してくるのはキリがないがなっ」
そんな感じか。ウィスプ勢は輪番で休みながら偵察だろうし······
「そうか。協議するから言霊の石で呼び戻そう。ビッグヘッド、寝込んだエルフになんか治療できないか?」
「キラーモールの拠点にいい療養施設ができましたが、今、3層から引き離すのは当人達が了承しないでしょうな。様子は診てみますが、まずはここの問題を片付けるのが先決かと」
「だな」
「また忙しくなるよ、マスター君」
「毎度のことである」
確かに、だ。でもやるべきことがあるのはいいもんさ! 大昔、スベり倒しても、同級生と距離感ミスって変な空気になっても、俺には俺の仕事があるぜっ。
しゃ、やってやんぞ〜。




