23話
船の当てはついたが······
ザトウマージが支配する2層南西エリア以外の浄化補修は済んだ段階での、こちらからの最後の和議の書状にも返答はなかった。
和議も討伐を済んでいない首魁個体を無視して、主な戦力を引き連れて下層探索を始めるのは危なっかし過ぎる。
俺達はザトウマージへの直接交渉、ないし攻略を始めることを決めた。
「ほ〜いっ!」
体内にしまっていた圧縮された『スライム玉』を9つ、岸からザトウマージの池に投入するエル・ジェリーマン。
それらはあっという間に肥大、変形しハイスライム船団になった。
船からまず触手が伸ばされ、それがタラップに変容する。選抜隊の乗り込みが始まった。
リュブリャナ率いるリザードマン軍が4隻。エル・ジェリーマンが率いるスライム軍が4隻。
そして俺、アバドンさん、アリッサ、ツルベ火クィーンは旗艦の構成だ。ヘルスパルトイ達スケルトン軍も詰めている。モンクペンギンとリーフウォーカー達は全艦の補佐をする。
ツルベ火クィーンのウィスプ軍は斥候と警戒担当。
「御武運を」
「おう、じゃ行ってくる!」
ビッグヘッド達ゴブリン軍はこの岸辺で万一の撤退戦に備えて待機だ。水属性対策の力のある小型の防壁を岸辺のあちこちに立て、高さのある射撃台も造ってバリスタを多数設置していた。
全て事前に個別の材料を作り込んでおいてそれらを運び込んでから、一気に組み上げた。
ここで長々作業するのは危ないからさ。
居残り組は、オークジェネラル達オーク軍はワーグ達と組み池の各所の他の細かいルートを見張りだ。
スライム拠点攻略と違い他の拠点で守っていてももうしょうがないから、リザード拠点へのルートのいくつかの要所をゴールドスコップ達キラーモール軍とケムシーノ達が組んで見張ってもらってもいる。
スライムの生きた村は『村ごと遁走』できるから放置! 1層への大階段は全て塞いだ。
今回、結構思い切ってる。
「出航!!」
「「「ピピーっっ」」」
「ヨーソロで〜す。ムフフフ」
ハイスライム船団は帆も櫂もドワーフ式の回転推進力も必要ない。ぶっちゃけると『船の形』である必要もないがそこは雰囲気と扱い易さ。
この船は『航行特性を持つ巨大スライム』。魔力を使ってその能力で水面を滑ってゆく。
奇妙な感覚だ。船っていうよりデカい鯨かなんかの背に乗ってるような?
「景色は悪くないですわね、おほほ」
「だな〜」
光る花と魔力結晶まみれの環境維持の柱が続く水面をスーッと静かに進んでゆく。幻想的ではあった。
「坊、この戦力で敗れることはないであろうが、水環境の3層攻略に水棲種族の協力は必須。最初から揃えられるに越したことはないであるからな?」
「そのつもりだよ。といっても船団組んじまってるし、剣呑ではあるかもな」
小舟で少人数で行くってワケにもいかないから、なんともはやだ。
しばらくはあれこれ考えつつも何事もなく進んでいたが、
「露骨に様子を見られ始めました······ヒィッッ」
ツルベ火クィーンは眷属達と感覚を共有させて伺っている。
確かに気配の『圧』は辺りの水中から感じるようになったな。それでも、
「すぐ襲ってくるでもないか。これまでの対応や『具合悪そう』なこと込みだと不自然じゃないな」
「岸から離れるのを待ってただけかもしれませんぞ〜? ヒーホ!」
ちょっと楽しそうに言ってくるヘルスパルトイっ。『取り敢えず溺れない』から乗せてきた骨骨軍団!
「まぁね······お?」
急に霧が立ち込めてきた。ヘルスパルトイの言った通りかよ!
「ややこしいなっ」
すぐに鍵の杖の力で払う。これ、延々繰り返されたら億劫だ。無駄かもしれないが言っとくか。
ビッグヘッド製、『拡声のワンド』を収納の腕輪から取り出す。
「この手の術は通じない! 主に伝えろっ」
水面に向かって叫ぶと、離れた位置でいくつかポチャンと水音がして気配が遠ざかっていった。
辺りの『囲み』自体、距離を取ったかな?
「試しか、殺る気の目眩ましかわからないな」
「両方でしょ?」
事も無げに言ってくるアリッサだったさ。
_____
······そのまま『首魁の島』の近くまできた。さすがに遠巻きの水棲種族達も水面から姿を表しだす。
半魚人『サハギン』、呪歌を操るという人魚の女『セイレーン』、巨大蟹『ロックシザー』、サイズは山羊くらいだがハサミから水の弾を撃つ海老だかザリガニだかの『カノンシュリンプ』。
刃の鰭を持つ怪魚『ギロチンフィッシュ』、硬くてデカい怪魚『スカルアカメ』、長体で電撃特性の怪魚『ナルコナマズ』、浮遊怪魚『ヨミキンギョ』。
魔法を使う水草の怪『アサザホウシ』、凍結特性の藻の塊の怪『スノーマリモン』、蛙亜人『フロッグマン族』、イモリ型の魔法使い『ミナモドウジ』。
人喰いゴカイ『センドウカジリ』、タガメの怪人『タガメキング』、ビーバー獣人『デスビーバー』、カワウソ獣人『エビルビカワウソ』、鷺の怪鳥『アオバネ』、アヒルの怪鳥『ダックダンサー』。
水の馬『ケルピー』、闇落ち水霊『カースウンディーネ』、井戸の鬼女『ネオサダコ』、頭に皿を持つ水棲亜人『カッパ』水底の石の怪『ヤロカ石』等々。
俺達の戦力も大概だが、これだけの水のモンスターに水上で囲まれるとさすがに冷汗が出てくる。
「ツルベ火クィーン。高度は保ち、9割方のウィスプは船の近くに厚めて護りを固めてくれ」
「了解ですぅ······ヒィィィッッ」
ウィスプが集まり明かくなって視界も改善。
「ハイスラ達は島にさらに近付けてくれ! 接岸まではいかなくていい」
「「「ピピー!」」」
島は強めの角度で水上に切り立つようになっていて座礁の危険はなさそうだが、いきなり船団に上陸に掛かるのは乱暴だろう。
船はススーっと近付き、拡声のワンドで呼び掛けも可能なくらいまできた。
こっちがワンドを構えると合わせるように島の周りに3体、強い魔力の個体が姿を現した。
タコ足の半魚の巨人の女『スキュラ』、瞳を持つ水草の怪の集合体『マブチタユウ』、記録映像で見たミズチ。
このグループの幹部個体だろうな。どれも発生したら田舎の衛兵団や冒険者ギルドなら総掛かりの凶悪モンスター!
さらにっ、
「お出ましですわ」
魔力結晶まみれの水性草の屋敷の扉を開き、『サハギングラディエイター』4体に護られながらこの水のエリアの首魁が姿を現した。
杖を持ち、盲目らしい下半身が水その物のような老人の魔法使いと言った姿だが、全身から魔力結晶が噴出しだしていた。魔力は衰え不安定な様子······
「あれが、ザトウマージか」
白い両眼で、水の首魁は船上の俺を見上げてきた。




