21話
ゼリー御殿を進む。誰もいない······まずこの生きた村自体がスライムなのだが『住人』が存在せず、ファンシーの童話や絵本の『背景図だけ』の世界に迷い込んだようで不気味だった。
「前に来た時と構造は変わってるな」
困惑顔のリュブリャナ。
「気配はする、こっちかな?」
鍵の杖の反応を頼りに進んでゆく、中途の扉は正解だからか? 近付くと全て独りでに開いた。
探知して近付き扉が開き、探知して近付き扉が開き、探知して近付き扉が開き······
流動的な相手の眷属の中だから、内部を循環させられているだけじゃないだろうな? と疑いたくなった辺りで、コッ。固い靴音。
不意にガラスのように固い床面の部屋に出た。部屋全体、ぽよぽよから一転してガラス質の部屋だ。これも生きたスライムなのか?
部屋の主は燕尾服にシルクハットという格好の『人型のスライム』だった。
「エル・ジェリーマンです。わたくしと同じく、ここに封じられてから『一度も死んでいない囚人』。勇者との戦いでは勇者の仲間を1人仕留めていますが、勇者を激怒させ『不死身の核』を握り潰されて倒されています」
「······勇者、結構短気だよな」
「所詮は刺客ですからね」
「おほんっ」
アバドンさんが咳払いをし、仕切り直し。えーと、
「ピロシだ。散々眷属を倒しといてなんだが、協力してくれないか? 穏便にと考えてはいるんだよ」
これ見よがしに熱いらしい茶を飲んでみせるエル・ジェリーマン。
「ふぅ、そうですねぇ······まぁ、仮に、いーーよぉーーーっっ!!!」
急にテンション上げてきたっ。身軽に跳び上がって俺達の前に着地するスライム種の首魁。
「私はエル・ジェリ〜〜〜〜〜っっっマン!!!」
リュブリャナを持ってるスティックの握り手で押し退け、シルクハットを取って手をびよんっと伸ばしすれ違い様にゴールドスコップの頭に乗せ、芝居掛かった仕草でこちらに歩み寄ってくる。
オークジェネラルは斧を構えたまま怪訝な顔をし、ビッグヘッドとケムシーノ達は俺の前で構えた。
「マイハウスに入った後も少しずつ難度を上げて扉を設置しましたが問題なく私の元へたどり着いていましたね?」
「ああ、一応」
やっぱ試しか、しつこいと思ったっ。
「2層相応に鍵の杖を使い熟しているようですね。一通りの首魁を『概ね』味方にしているのもまずまずっ、この私と、スライム一族はあなたの軍門に下ろうではありませんか? ムフフフ!」
「一族って今、自我持ってるのあんただけじゃないの?」
シルクハットを被せ返しながら呆れた様子のゴールドスコップ。
「おっと、当代『モグさん』。そこは『生命観』の違いですね。我々はスライムは、我々の『可能性の発露の窓口』と人格を見ています。よって、『迷宮停滞期』に余計な人格が顔を出す『必要』がなかっただけのこと!」
「代わり映えしない自分と似たヤツがウロついてると鬱陶しいから消してただけだろ?」
面識あるだけにツッコミ強めのリュブリャナ。
「とにかーくっ! 以後よろしくです、マスターピロシ」
うやうやしく礼してくるエル・ジェリーマン。
「おう、よろしくな」
口が回り、言った通りでもないが嘘ばかりでもないタイプ。芸人界隈にもちょいちょいいた系統だ。とにかくスライム種を味方につけた!
スライムはどこでもいるが、この層は特に多かった。食糧としてもよく消費されてる点は微妙なとこだが······水戦に強い種も多いっ。進行ルート以外は手付かずだった北側エリアも補完できそう。
「よ〜し、んじゃ、今後の」
俺はなにげなく、鍵の杖を軽く掲げた拍子に少し魔力を込めてしまった途端っ、
「?!」
想定より強く魔力が高まり発光! 俺自身とも呼応し、どんどん魔力が高まってゆくっ。
「マスター殿っ?」
「「ケムんっ?!」」
「坊、慎重に制御するのだ。今回は杖を使い過ぎたのである」
「おお······っっ」
調整ムズっ! 焦ってると不意に帽子を取られ、
「頂きです!!」
カプっと、アリッサが俺の頭に噛み付いてきた?!
「イテっ??」
痛いだけじゃ済まなかった! 速攻で猛烈に魔力を吸われたっっ。
「ふぉーー????」
暴走しかけた魔力が落ち着くと、アリッサは離れた。
「ふぅ〜、ゴチでしたわ〜、マスター君」
矮小体のまま、ふっくら艶々になるアリッサっ。
「ま、まぁ収まったが、ドレインするなら噛まなくていいだろっ?」
「おほほっ、美味〜☆」
頭血まみれだかんなっ。
「当代主、エル・ジェリーマンの件は一段落ついた。2〜3日地上で休んでくるといいさ」
「浅層でアリッサがやたら力を付けると面倒そうだしな······」
「休むの仕事ですよ〜? ムフフ」
「御自愛の程を」
「オーク族もしばらくは静養するからなっ」
「この館にも転送陣はあったはず。坊、話が着いたのであればさっさと戻るとしよう」
「んじゃ、そうさせてもらうかな?」
これまでより慌ただしいが、強めの試しに苦労させられてもエル・ジェリーマンは前評判通り友好的ではあるようだ。
俺はアバドンさんとアリッサで一旦、村に戻らせてもらうことにした。頭の怪我も手当てしよ······
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戻ると屋根裏部屋でぐっすり寝た。感覚が冴え、余分な魔力や過剰なその高まりが薄い魔力環境で良い感じに『ほぐれてゆく』のを実感できた。
なるほど、休息必要だな、と。
「おーい、ピロシ。起きてるか?」
下の梯子の辺りから兄貴が呼んできた。
「ああ、なに? 飯?」
「いやっ、飯も出すけどよ、もうすぐモモミとロミーちゃんが店に来る。開店前に食べさすんだが、お前、まだロミーちゃんに『叔父』て名乗ってないだろ? いい加減挨拶しとけ。ずっと『屋根裏男』のままだぞ」
ロミー、姪か。寝起きでまだぼんやりしてる。
「屋根裏男って、ヒデーなっ。最初、黙っとけとか言ってきたのモモミじゃなかったっけ?」
ベッドから起きる。歯を磨いて髪と無精髭は整えないといかん。あとは、マシな服と······
「わかり難いが、お前の体裁は俺やお前よりモモミの方が気にしてんだよ」
「んだそれ? ややこしいなっ、というか、ええと、まだ昼前だよな? ロミーは学校は? モモミも仕事だろ?」
「安息日だよ! 飯屋以外は大体休みだ。お前は関係ないんだろうけど。あと、オートミールとサラダと玉子でいいな?」
「······お願いします。玉子、半熟で」
「半熟、かしこまり〜!」
なんならダンジョンマスター始める前から安息日と無縁の社会人生活だったぜ。




