20話
アバドンさんは片手を掲げた。
「滴りしモノを退けよっ!!」
中空に巨大な光の輪が出現っ。『頭上』『液体』の2点に的を絞った不可侵の結界が全軍を護る!
アリッサを頭に乗せた俺は鍵の杖で前方広域を浄化! 破損は障害物以外は今はスルーだ。
「前進っっ!!」
最適編成のピロシ軍団は遠目にもドロッドロな『2層北側スライム種巣窟ルート』に突入を始めた。
進みながら毒沼等の浄化も並行。溜め込んだ魔力結晶で順序充填しながらだ、忙しいっ。
編成最前列はリュブリャナ率いるリザードマン軍団。強壮で状態異常に強く、スライム種が多用する『酸攻撃』にも強い。
全軍の左右を固めるのはゴールドスコップ率いるキラーモール軍とオークジェネラル率いるオーク軍だ。キラーモールはリザードマン程じゃないが強壮で状態異常や酸に耐性あり。
オークはちょっと大群のスライムとは相性悪めだが、後衛支援のリーフウォーカー群を多く配置して厚めに回復させる構えだ。
後衛はビッグヘッド率いるゴブリン弓兵と盾役の土の傀儡『マッドゴーレム』。ビッグヘッドの操るデカいゴーレム達は単純なガードしかさせず、運用負荷を減らしている。
弓兵には今回は冷気素材の『アイスジェム』等を使う『凍結矢』も装備させた。火が効かないスライムには凍らせて対応だ。
だがスライムは低い姿勢で前衛を擦り抜けたり地中移動してくるヤツもいた。
これには視線が低く見付け易く、速く身軽なケムシーノ達に当たってもらった。カバー範囲が広いから喧嘩ケムシーノとスタンケムシーノには下手に参戦せず仲間達の指揮に専念してもらう。
「ザトウマージ、大人しくしててほしいが」
突入隊の編成に関してはこれだけなんだが、『拠点防衛』なんかも考慮する必要があった。
リザードマン拠点はリプリースト個体が指揮し、モンクペンギン群で補って守りを固めさせている。
2層から1層への大きな通路、いわゆる『大階段』は3箇所あったが内、2箇所は天井を崩落させて一旦塞いじまった。
残る1箇所はヘルスパルトイ達スケルトン軍が見張ってる。
確率は低そうだが分散させて細かいルートから小分けして駆け上がられた場合に備え、一応一通りのルートは言霊の石を持たせた弓兵以外のゴブリン達に監視させてる。
1層の各拠点の最低限の防衛はワーグ達で補完。
ザトウマージのテリトリーはツルベ火クィーン達ウィスプ軍で囲んで見張らせてはいたが、いざ一斉に動かれたら相当マズいのは間違いないなっ。
戦力は増えたが、守らなきゃいけない所が広がって総戦力がそのまま前線戦力とはいかない具合だ。
軍師アリッサ殿に段階を踏むように言われたのは過保護ではなく、『当然の段取り』てことだったか。
「シュゥウウッ!! 美味そうなヤツらだっ、麺にしてやろうかっ? サラダにしてやろうかっ? ババロアも美味そうだっっ、ハハハッッッ!!!!」
力任せにスライムを蹴散らしてゆくリュブリャナ。台詞がやたら食いしん坊。
「数代前はわりと友好的だったらしいのが信じられないねぇ!」
リュブリャナ程楽しげにはゆかないが、着実にスライムを蹴散らすゴールドスコップ。
「ええいっ、鬱陶しいヤツらだ!!」
苦戦気味のオークジェネラルとオーク軍。そもそもオークジェネラルは首魁個体ではないので、眷属に対する強化バフや指導力がやや足りない感じだ。
「はぱぱ······『ヒール』!」
「はぱ······『クリア』!」
治癒魔法に解毒魔法、リーフウォーカー達のオークへの支援を厚くしていて正解だった。
「後列にも威嚇射撃を怠るなっ。ヤツらは共喰いする。近場に『餌』ができれば足止めになる」
指示がエグめのビッグヘッドだぜ、頼もしい。
「ケムんっ!」
「ケムケムっっ」
ケムシーノ達も駆け回って転げ回って取り零し対策頑張ってくれてる。上位個体2体も指示に奮闘。
アバドンさんの対液体結界もいい感じに機能していた。傘状に張ってくれてるから上に溜まらず焼かれながら滑り落ちてくから合理的な感じだ。
「よそ見してると浄化が間に合わないですよぉ?」
アリッサが、尻尾の一撃で地中が噴出した『ラージブラウンスライム』を核ごと真っ二つにしながら言ってきた。
「おお、やるやるっ」
魔力結晶で充填しまた一気に、遥か前方まで通路の浄化と障害物等の排除を済ませた。杖パワーも増してきたな、と。
俺達は冒険者ギルドでもそれなりの攻略団を組んでも苦労しそうな、劣化してる上にスライムまみれのルートを開拓していった。
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そうしてどうにかこうにか、想定される『スライム種の拠点』の前まで到着した。
「こりゃまた······」
リュブリャナ、アリッサ、アバドンさん以外は唖然としちまう。
俺達の目の前には『ゼリー菓子でできたファンシーな村』みたいな物があった。灯りもゼリーだ。
「全て、スライム、ですな」
そう、これらはエル・ジェリーマンによって造られたスライムを素材とした『生きた村』だ。
「数代前のあたしの日記通りだけど、すごいね」
「これは特別な眷属だ。ヤツの意識と繋がってる。他の眷属どもも引いていったろう?」
確かにここに着いた途端、交戦してたスライム達は潮が引くように下がっていった。
「だが、ピロシ。ここはヤツの『腹の中』でもある。中で見切られたら酷いことになる! シュゥウウッ」
うっ、胃が痛いっっ。
「やるだけやってみるさ。······エル・ジェリーマン! グランドマスターキーを引き継いだっ、ピロシ・シープランドだ。俺と代表達だけで中に入るっ! 交戦の意思はないっっ。ないからな〜っ?」
念押ししつつ、俺とアリッサとアバドンさん。随伴する首魁達と上位ケムシーノ2体だけで、ぽよぽよした『人喰いゼリーの村』へと入っていった。
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見た目はファンシーだが、やっぱあちこち劣化の兆候は見られたから原因になってる『ゼリーの底』の迷宮構造の劣化を目に付く範囲で直しながら進む。
お、ゼリー村の奥に、これ見よがしの『ゼリー御殿』が見えてきた。
「間違いない。俺の代でも一度、来たことがある。前は今回程途中に『歓迎』されなかったがなっ」
「試しと、環境悪化だろうね」
「こっちは一族揃って半殺しにされたぞっ?」
「オーク族は『敏感肌』ですからな」
「なにをーっ??!!!」
「やめやめ」
ビッグヘッドとオークジェネラルの間に入りつつ、御殿の前まで来た。ゼリーの大扉が独りでに開く。
「塩胡椒で味を調えてから入りましょうか? マスター君」
「美味しさ足さなくていいからっ」
「その気ならとっくに襲われている。さっさと行くのである」
「「ケムんっっ」」
アバドンさんとケムシーノ達に促され、俺達はゼリー御殿へ、ぽよんっと進入だ。うへぇ。




