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親父の遺産がダンジョンだった件  作者: 大石次郎


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120/122

120話

ヘルバク達はアリッサがまた玩具の扉を開いて、本来の棲み処に帰して穏便に解決した。


「すんなり帰ってくれるもんだ」


「ここはわたくしがほぼ掌握した世界ですからね」


「ふーん? ······アストロロジー、取り敢えず結界は張って休んどくといい。もう占いでどうこうできる段でもないだろうし」


「は、はいっ」


菓子職人の格好のまま、息も絶え絶えだ。そもそもダメージから回復したばっかだったしな。


「ではマスター君。闘技場の舞台に上がりましょう。殴り合いじゃないですけどね?」


「疑わしいなぁ」


俺とアリッサは客席にアストロロジー残し、舞台に降りていった。


間近でみると凄まじい戦いのあとだ。一人遊び、らしいが······


術に掛かってるらしいエーリヴァーカルは客席での側近の忠義の戦いぶりにもまるで気付かず、まだ少し痙攣していた。


傀儡の勇者の方は操作解除から時間が経ったからか、ほぼ砕けた氷の欠片になっていた。


断たれてはいるが、2本の魔剣はとんでもない魔力だ。これが『1本』になると考えるととべらぼうだぜ。


「よくこんなレベルの相手を術でハメたもんだ」


「本来、エーリヴァーカルは早々眠りもしないんです。器物の怪で、必要ないので。終始カリカリと不機嫌ですしね。でも最下層の崩壊からの脱出の騒動でさすがに疲れていたのでしょう。ウトウトしだしていたんです」


「そんな激動を経ても居眠りしそうってくらいなんだ」


基準が違い過ぎる。


「ちょうど、わたくしの眷属達のそれぞれ好みの夢の世界への避難も済みましたし、バカ弟子の育成も済んだ頃でした。わたくしは今だな、と、彼の眠気に乗じ、より深く眠りにいざないました。数年かけて!」


「執拗······」


「計略ですから。彼にとってもアペフチなんかと小競り合いを繰り返し続けてもよいことないですからね。属性相性も悪いですし。なによりエーリヴァーカルは己の本質的願望から目を背け続け、それが彼の頑なさと一向に減らない刑期に直結していましたから。誘惑する魔であるわたくしとしては、ここは人肌脱ごうじゃないですか、と」


「いい風に言ってんな」


「ふひひ。とにかく! とうとう眠りに就いたエーリヴァーカルをズドーンっと本質的願望を突き付けて『理性と自尊心のタガを破壊』してやったのですっ! 任務完了!! おほほほっ」


高笑いしてるけど、魔王軍時代、やっぱ相当厄介だったろうな。勇者伝説の類いに登場しまくってるだけのことはある。総じて、


「怖っ、タチ悪し!」


咳払いする執拗軍師アリッサ。


「ただ無力化しているにも限度がありますし、いい加減、禍根が募ってきていますからね。返って変なことになる前に、片付けましょう」


「もうだいぶ変なことになってるようだが?」


「片付けましょうかぁっ?!」


強引に進め、なにやら痙攣してる2本の魔剣に術を施し始めた。


「術解くんだろ? それ、掛け直してるだろ?」


「夢の術は解きますが、そのままだとキレ散らかしてわたくし達は即殺されてしまうので、『斬撃』『刺突』『身動き』を封じる術を念入りに掛けてます。支配した夢の中なので効果はバツグンですよ?」


「拘束はすんだ」


それもそっか。どう見ても危ねーし。恥部を知られたしたら普通の人間でも暴れるくらいだろうし。


「では、夢の術の方は解除します! 防御は任せましたよマスター君っ!」


「よしきた」


実は闘技場の入る時の倍の密度で杭を展開済みだ。


「······アン、ドリーミィ。解除ぉ!!」


パシィッ。


2本の断たれた剣をうっすら覆っていた霞が晴れた。


途端に、それぞれ刀身に1つ目がギョロりと現れ、俺達を見た。直後! 防御杭の4割が切断されて魔力が断たれたっ。


アリッサの拘束術も遅れて発動したがすんごい抵抗されっ、拘束されたまま1本の完全な魔剣に回復合体変化しだしてる。


「軍師! 見ただけで斬られたぞっ?!」


「この世で『勇者の剣』次に攻撃力の高い剣ですからねっ!」


拘束されたまま、大剣状の完全な魔剣となるエーリヴァーカル。魔力もだが、怒気も猛烈だ!


(······見たな? いやっ、よくも俺にこんな真似をっっ!!! 殺すっ!)


周囲に吹雪、いや氷片の嵐が吹き荒れだした! こっちは防御杭で防げてるが、振り返ると菓子職人姿のアストロロジーも結界でどうにか身を守れていた。


よし。からの、なんか俺も言った方がいいかな?


「エーリヴァーカル、俺は新しい鍵の」


(今、クソどーでもいいわっ、お前ぇええーーーいっ! 黙っとれぇえええーーーっっ!!!!)


「ええ······」


気持ちはわかるが、アリッサにキレ過ぎて敵認定すらされねーわ。


「マスター君、任せて下さい。エーリヴァーカル」


(殺す!)


「わたくし、実は刑期を終えて、ちょっと天使達と話す機会もあったんですが」


(殺すっ!)


「勇者は地上で寿命を終えたあと200年程、天使で守護騎士をしていたみたいなんですよ」


(······だからどうした?)


「その後、さらに300年程次の転生まで猶予をもらって、今はあちこち地上以外の世界を気ままに旅してるようです」


(······)


「猶予期間はあと百数十年残ってます。今はこの牢獄も出所ラッシュ。あなたも頑張って徳を積めば間に合うかもしれませんよ?『彼の旅』に。勿論、あなたに合わせた『早期出所徳積みプラン』は計画済みです。どうです? チャレンジしてみませんか? それとも永遠にここの地下で1人きりで燻ってるつもりですか?」


(······少し、待て)


エーリヴァーカルは抵抗はやめたが、拘束されたまま長考を始めた。


夢の中だから定かではないが、ゴツい懐中時計で確認する限りで、1時間、2時間と時は過ぎ、回復し終えたアストロロジーが、舞台まで来ようかやめようか、ソワソワしだし、俺は夢の中だが眠くなり、アリッサに至っては普通に居眠りしだしていたが、


(おい、クソ魔女)


「んあ?」


起きるアリッサ。


(2つ条件がある)


お? 乗ってきた。


「言ってみて下さいな」


(俺の痴態は口外無用だ! 言えば殺すっ、コイツらにも言い聞かせろっっ)


「そこはいいでしょう」


(もう1つは、お前はもう出所してるんだろう?)


「ええ」


(だったら、『その時』は仲立ちしろ。俺は······勇者に嫌われてるかもしれないから)


イジけた様子のエーリヴァーカル。


「「「······」」」


一拍置いて、アストロロジーは哀れそうな顔をし、俺は「魔剣だしな。敵だしなっ。身の危険も感じるしなっ!」と立て続けにツッコミ入れたくなり、アリッサに至っては爆笑しかけたがっっ、


「くぅっ」


「むごごっ!」


俺とアリッサは耐えた。


「い、いいでしょう。仲立ちしようじゃないですかっ。わたくしも一度ヤツと話しておきたかったですしねっ! ではプランその1、マスター君と和議して下さい。『迷宮再建への協力』。わかり易い徳積みでしょう?」


(······いいだろう。迷宮の管理者等になんの感情もないが)


一つ目の魔剣エーリヴァーカルは剣の鍔の当たりから、にゅっ、とだいぶ適当に具現化した戯画のような手を伸ばしてきたので俺はおずおずと握手した。


手、冷たっ! 杖の護りなかったら即、砕けるわっ、コイツっっ。


(せいぜい俺の為によろしくな、クソマスター)


「こちらこそ、1人上手君」


(おお?)


「んん?」


握手したまま睨み合いになってしまったが、


「はい離れて離れてっ、では手打ち成立ということで! アストロロジーもこっち来てもう大丈夫ですよ?」


手は離されたが凍傷しまくりだ。おのれ〜。ザリチュとは違うベクトルで決着後も要注意だなっ!


なんにしても、アリッサの復活とエーリヴァーカル一味との和議は成立させた。まずはよしとしとくか。というか、


「······ふぁ」


あくびが止まらん。夢じゃなくて現実で、もう寝よ。

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