119話
出会い頭で微妙な感じになったが、しっかり見るとグリズリーは『氷その物』だな。
「あいつ、本体じゃないのか?」
「本体は彼らの拠点ですね。魂だけここに侵入し、氷の依代に憑依、といったところでしょう。8割程の力でしょうね。ま、こっちも3人でマスター君は疲労気味。わたくしも寝起き。アストロロジーはゴマメちゃん。ちょうどいい塩梅です」
「ゴマメではありませんっ」
「おふざけはここまでだ! 主の名誉を護りっ、グランドマスターキーも頂くぞ?!」
ニーベルング・グリズリーは攻撃、ではなく魔法陣で召喚術を使ってきたっ。
大量に召喚されたのは、ツートンカラーで鼻先の長い獣······ええと、ビッグヘッドにしごかれたモンスター学の資料で見たな。確か、
「『ヘルバク』かっ。夢に介入する魔物!」
「なるほど、彼程度の夢への干渉力でも喚び出したモンスター自体が夢特化タイプなら機能するだろう、と。中々賢明ですねぇ、ふひひ」
「笑いごっちゃないっ、多いぞ?」
百数十はいる。今の俺達には強敵じゃないか? というか速攻突っ込んできたから纏めて防御杭で取り敢えず押し留める。
が、『防御杭がただの錆びた釘』に次々変換されて氷の床に転がりだし、上手く抑え込めないっっ。
「おお??」
「くははっ、ヘルバクは夢の中では『存在の変換』程度造作もないわ!」
嘲笑するグリズリー。ヘルバク、ぬいぐるみ系だがヤベぇぞ?!
だが、軍師殿は妙に落ち着いていた。なにか別途に魔法を発動させようときたグリズリーの魔法式を自分の魔法式を押し付けて牽制しながら、
「アストロロジー。ゴマメは撤回します。イメージし易いよう、さっきの『お菓子的な力』を付与します。バク達を魅力し、引き付けて下さい」
「お菓子?!」
「ドリーミィ、きぇええい!『超パティシエ』になぁ〜れっ☆☆」
アリッサが光の蝶の多数アストロロジーに放つと、アストロロジーは光と共にだいぶファンシーなデザインの菓子職人の格好に変わった。
「っ? 可愛い!」
そこは嫌じゃないんだ······
「なんでもいいから捌いてくれ、アストロロジー!」
「わかりました。んー、ヘルバクが食べたくなるっ。お、お菓子パワー!!」
要領がわからないから探り探りだが、かなり大きな『無数の菓子群』を発生させるアストロロジー。
「「「?!」」」
ヘルバク達は菓子群に釘付けになり、俺の防御杭の最後の防衛線をあっさり破ると菓子群に殺到しだした。目が酔っ払ったみたいになってる。魅了成功だ!
「こっちです!!」
アストロロジーは巨大菓子の1つに飛び乗り、ヘルバク達を引き連れて闘技場の通路へと消えていった。
「小癪な真似をっっ」
怒り心頭なグリズリー。さらに魔法式を発動させようとするが全てアリッサの魔法式に相殺されてる。
「マスター君! グリズリーの魔法はわたくしが封じてますっ。攻撃はよろしく。魔法抜きでも強いので気を付けて下さいね。『熊男』ですから」
「熊男ね。ま、今は俺しかいないしなっ」
はぁ、ヘルスパルトイがヴァーリンがいたらすぐ済みそうなんだけどな。
だが、やってやんぜ!
「というワケで、ちょっとズッコいが行くぞ! グリズリー!!」
「ハッ、杖の方から来るなら好都合!」
強気〜っ。
俺は魔力杭に飛び乗って、間合いを詰めた。
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勢いだけで間合いを詰めたワケでもない。
8割の力って話だがエレファントやヘッジホッグに匹敵する魔力を感じる。首魁の側近らしいしな。
既にだいぶヘバってる俺じゃ、遠間からチクチク削っても倒しきれない可能性がある。
あと単純に魔法使いタイプだろ? その魔法も封じられてるなら、クリスタルリトーやボルケーノなんかよりかはマシなはずさっ。
と思ったんだが、
「う〜······ワァゥッッ!!!」
唸り声を上げ、魔法の発動合戦してる杖を持っていない方の手を振るって虚空を『搔く』グリズリー。同時に、
ドォッ!
爪のような魔力の刃が俺の進路を予測して斬り掛かってきたっ。
「うはっ?!」
杭と身を捻って回避する。だが、グリズリーは魔法の連続発動を試みることは維持しつつ杖は口に咥え、四つ足で高速走行しだしてこっちに突進しつつ、両手で『虚空の爪』を連打してきた!
「どぉ?? めちゃ近接挑んでくるじゃんかよっっ」
「だから、魔法抜きでも強いって言ったじゃないですか?」
「あー、そうだったよな!」
くっそ〜、逆にアリッサの魔法を封じられた感じになってるっ。
それでも、ピロシさんはボルケーノ戦より進化してるぜ?!
俺は収納の腕輪からサンダージェムを大量に杖の念力で引き出した。
コツがある。物理的に速くするだけじゃ振り落とされるか引っ掛けたベルトとかが破損するだけだ、杖を介し、『俺自身が電撃と同調』する。
魔力杭だけじゃない、全身帯電!!
「肩凝り腰痛治りそうっ!」
俺は電撃の速さに乗って超加速しだした。
「ぬっ?!」
追いきれないグリズリー。やっぱ攻撃力があっても純粋な前衛タイプじゃないから速さには追い付けないなっ。
よっし、この機会に乗じ、ずっと未消化感のあった矢文文化を全うしておくか。
「改めて! 俺はピロシ・シープランド!! 当代の鍵の主だっ。積極的に争うつもりはなく! 迷宮の環境改善を目的としている。事態収拾後、エーリヴァーカルとも好条件で交渉するつもりだ。お前の主のプライベートに関し、言いふらすつもりもない!!」
「一から十まで小賢しいわっ!!」
杖咥えたままでも結構滑舌いいグリズリーは、両腕に魔力を溜め、一振りで3発の虚空の爪を放ちだした!
「うっはっ、矢文文化ここまでだ! 5秒後に降参しなかったら仕留めしに行くかんなっ? 3、2、1、勝負!!」
「ワァゥゥッッ!!!」
加速以外にも数本、爪を受け流す杭を放って道を造り、迫ると咥えてる杖に直接数本の電撃杭を打ち込んで砕いて交錯するっ。
「?!」
感電しながら驚愕するグリズリー。連打相殺していた魔法式が途切れる。
となればアリッサの連打魔法だけが発動する!
「『マキシマム・ライトキャリバー』!!」
4本の上位の光の剣魔法がグリズリーを貫いた。
「くっ······絶対、言う、なよ? ごはっっ」
忠義あるニーベルング・グリズリーは氷塊となって砕け散った。
「完勝だな、軍師殿」
「髪、逆立ってますよ?」
「『パンク派』の吟遊詩人みたいでイケてるだろ? へへ」
これで一段落のはずだったが、俺達のいる客席近くの通路とは別の通路から菓子職人姿のアストロロジーが飛び出してきた。
デカ菓子は既に1つもないがヘルバク達はそのまま追ってきてるっ。
「お菓子、全部食べられましたー!!」
「あー、食べられちまったか」
「美味しさまでしっかりイメージしてしまったんでしょうね」
俺達は半泣きのアストロロジーの救助に向かった。




