118話
霞の掛かったように不確かな、夢幻の草花とそれに集まる夢幻の蝶なんかに侵食された鋭利な氷の世界を進んでゆく。
「······こっちです」
だいぶ怒ってるけど水晶玉を手に案内はしてくれるアストロロジー。
エーリヴァーカルの『意識の中枢』がある場所に向かってる。
「ここはアリッサが術でハメて攻撃してる形なんだろ? もっとこうスッと進めないのか?」
「エーリヴァーカルの意識は大体制圧してるのですが、『無意識』が敵意を失っていません。外でも襲ってきたでしょう? ここはヤツの頭の中ですから。鋭敏な所で引っ掛かると面倒なことになりますよ。ここはスマートに『とっても大好きちゃん』に案内してもらいましょう。ふひひ」
「······嫌いです」
見たことないジト目で振り返ってくるアストロロジー。
「おい、『嫌いです』がきたぞ?」
「ゾクゾクしますねぇ」
タチの悪い先輩だ。
ま、今のところ進行に問題はない。だが、
「3人だけで対処かぁ······」
「別に殴り合いをしにゆくワケではありませんから。ただおそらくニーベルング・グリズリーが、ここへ干渉を試みてくるはずです。ちょっと時間を与え過ぎてしまったのと、連中に気付かれずにわたくしの復活まで持っていけなかったからですね」
「要求高いぜ」
首魁でもないヘッジホッグがこれまでの危機ランキングでもかなり上位だった。
ボルケーノ達のあの箱の船がなかったら正面突破するハメになってた可能性もある。
エレファントとヘッジホッグがコンビで現れる場合とかっ、しんどいにも程がある。
「夢の間に間に、活躍は見ていましたよマスター君。頑張りましたね」
「あー、そこそこな、皆でだが」
確かに俺達、頑張った。
「そこは謙遜しないのですね、おほほ」
「べーつーにー。······アリッサ、今、どういう状態だ? 気配が最初と変わってる」
「『上位の夢の精霊っぽいナニカ』になりつつあるようです」
「まだ途中かよ」
「伸び代っ!」
「言ってら」
ぬいぐるみの時と同じ感じで絡めるか危惧したが『ガワ』が変わっても大丈夫そうだな。ふふん。
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アストロロジーの案内で無事辿り着いた先は案内したアストロロジーも困惑する場所だった。
そこは氷の闘技場だった。光の草花に侵食はされてるがいかにも剣呑!
中からは鋭い剣戟の音が聴こえ、相応の魔力のぶつかり合いも感じた。
「『2体』の、非常に強い氷の魔物が戦っているようです。こちらに気付く様子はありませんが······」
探知内容にも困惑するアストロロジー。
「殴り合いしないんだろ?」
「わたくし達はね。ただ、グリズリー対策は必要です。アストロロジー。ここからは後ろに下がって探知半分、自分の防御結界維持半分にしなさい」
「はい。自分だけでいいんですか?」
「ロックローズ程、得意ではないでしょう。今のあなたはあの子達に可愛がられていますし、亡くしてしまったら大変です。犀天使にもなんと言われるやら」
「俺も防御用の杭で周りを囲っとこう」
硬めの魔力杭をざっと俺達3人の周囲に撒いた。
「マスター君。目立つとよくないので隠蔽効果も付与して下さい」
「えっ? むっずっっ」
先に言ってくれたら数を要所に絞ったんだがっ。なんとか対応したが結構疲れた。
「夢のわりには労力感が生々しいな」
「厳密には夢の中に生身で入ってるだけなので」
「危険な術ですね」
「魔剣の王を懲らしめようと思ったらそれなりですよ〜?」
アリッサが冗談めかしつつ閉ざされた闘技場の氷の扉を光の草花を使ってこじ開けさせ、俺達は中へと入っていった。
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それは人形のような双子の青年の剣士だった。そこそこイケメンではあるが絶世って程ではない。しかし長身で鍛え上げていた。
2人とも不自然に無表情だったが顔付き自体は人懐っこそうな造作でもあり、『好青年』の概念がそのまま形を成したようでもあった。
どっかで見覚えのあるような気もしないではない。
謎の双子青年は『全く同じ氷の魔剣』を手にしており、これを用いて互いに激しく斬り結んでいた。
(ハハハハッッ! いいぞっ、いいぞっ?! 勇者よ! もっと俺を上手く使えっ!!)
(斬れ! 斬ってしまえ!! アハハハハハッ!!)
青年達の手にした魔剣の思念が当たりに響いていた。
どうやら魔剣が双子を操ってるようだ······
「えーと、あの魔剣。2本ともエーリヴァーカルか?」
「2つに分けた意識の中枢ですね。1つだと試合ができませんからね」
「勇者がどうとか言ってるが??」
「アレらはただの傀儡ですが、造形や所作等は概ねかつての勇者ですね。エーリヴァーカルの『本質的願望』です。彼は自分を打ち負かし、砕き滅ぼした勇者と共に剣として戦いたかったのです」
そういう主旨か。というか勇者ってあんな風貌なんだ。色々伝わってるけど、微妙に合ってたような違ってたような?
首魁達を倒したエピだけで想像すると凶暴な野獣みたいなヤツみたいだったけど、わりと普通っぽいんだな。
言ってもよく見ると、写実派の神像みたいな鍛え方してるけど!
(はぁはぁっ、いいぞ。今日はいつになく荒々しい握り込み方じゃないか! 大胆だなっ、イヒヒヒ)
(斬るぞ! お前を斬るっ。俺とお前で! お前と俺を斬ってしまおう!! ぜっ、ぜ、絶頂の時ぃいいいーーーーっっ!!!!)
手遅れだが俺は床にブチまけられた生ゴミを見た顔になったアストロロジーの帽子の耳当てを下ろして両耳を塞いだ。思念は防げないか?
「おい、軍師!『共に戦いたかった』って設定が秒で消し飛んだぞ?」
「劣情込みでですよ。魔王様が彼を口説けなかった理由でもあります。魔王様はなんか『意思あるパワーの塊』って感じで、趣きに欠けていましたからね」
「趣きのある魔王ってなんだよ?」
「『西瓜みたいな大きさのスモモ』より、『キュッとお尻みたいな切れ込み強めのスモモ』の方がセクシーでしょう?」
「スモモをエロい感じすんなっ。勇者への風評被害でもある!」
アストロロジーの耳当てガード上げられねぇ。
等と客席で言ってる間に双子にされた傀儡勇者の決着がついた。
ザシュッ!
互い斬り伏せ、互いの刀身も魔力の斬撃波で切断し、両者は倒れ断たれた2本のエーリヴァーカルも闘技場の舞台に落ちていった。
(ウッ。20371回目の極致っ!)
(今回は太刀筋の再現度高かった······はぅっっ、つ、強いぃんっっ)
断たれたまま、2本の魔剣は傀儡達の断面が氷の死骸の側でビクビクと痙攣していた。
俺はアストロロジーの両目も塞いだ。
「アリッサ! 俺達に目撃させんの酷過ぎんだろ? もう勘弁してやれ······」
「ですからそのつもりで来たんですが、どうやらお邪魔虫がやっぱり来ちゃったようですね?」
「?!」
「っ! 下です!!」
面食らって油断していたアストロロジーが慌てて警告した直後、足元の氷が一気に増量し、噴出した『氷の手斧』が多数俺達を襲ったっ。
咄嗟の防御杭でこれを受けながら俺達は飛び退く。
「エーリヴァーカル様の自慰行為を目撃したからには生かしてはおけんな」
氷を媒介に、毛皮を纏った杖を持つ大男のニーベルング族が現れた。
「やはり現れましたね、ニーベルング・グリズリー!」
「つか、ボカしてたのに自慰行為ってはっきり言うなよ」
「「「······」」」
不覚、て顔するグリズリーだったが、
「あーっ! なにも聴こえてませんっ。聴こえてませんよぉ!!」
自分で耳当てを抑えるアストロロジーも受難のミッションだな、と。




