117話
道中にロックローズが隠しの結界障壁を、ストレイルタバガが迷い火を配置しておいたがいつまで保つことやら······
冷や冷やもんだが、俺達はどうにか首魁の間までたどり着いた。
ここまでは氷片や凍結の侵食は来ていない。特に玉座周辺には魔力の花弁かわゆっくりと逆巻く強力な結界が張られていた。
「よし、降りよう」
飛行する雲から降りた。出入り口にはロックローズが首魁の間の結界に上乗せする形で結界を足す。
だいぶ疲れてるようだ。コメリナからハイエリクサーを受け取っていた。
「アリッサを」
アバドンさんにゴールドスコップが背負う籠から出されたアリッサを鍵の杖の念力で受け取った。
め〜〜〜っちゃ、爆睡してる。最近はホント、ふひふひ、て感じの反応もロクにしない。
「ピロシ、玉座の結界に敵意は感じないわ」
「ああ。座らせてみる」
手で抱え直し、玉座に向かう。鍵の杖が呼応している。
「アリッサ様、ヒホっと起きてくれたらいいんですがねぇ?」
「お目覚め、ヒィィ」
「あちしが『目覚めのダンス』踊ってみよっか?」
「それ、さっき踊ってや? トドメ刺されるかと思ったわっ」
「一応、脱出してエル・ジェリーマンと合流する腹積もりではいとかねーとな」
「そうなったら外の連中と合流しないとね」
「「ケムん」」
「幹部を2体仕留めたし上出来だぞ、ピロシ。最終手段としてはアリッサに馬糞コロン・凶を使用すれ」
「やめれって、エーリヴァーカルとの絡みもあるしさ」
コメリナを牽制しつつ、逆巻く花吹雪の中に入る。凄い魔力だ。
玉座までのほんの短い距離を歩いてゆくのも大河でも渡るみたいだぜ。
「坊、ダンジョンマスターとして、呼び戻してやるのである」
「んー。まぁ、なんつーか」
どっちかというと、昔の友人に手紙書く。とか? あるいはちょっと前のネタ帳開いて読み込んでる内に当時の自分の背中が見えてきて小っ恥ずかしい、みたいな?
と言っても実際は最近の付き合いで、なんならアリッサが眠ってからの冒険の方が長いくらいなんだが。今となっちゃ懐かしの、
「そろそろ起きようぜ? 軍師殿」
俺はぬいぐるみのアリッサを彼女の玉座に座らせた。
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一拍、なんの変化もなかったが、まず逆巻く魔力の花吹雪が止まって床に散った。
それから、
「っ!」
オッドアイのぬいぐるみの瞳を開いたアリッサ。気配が変わる。
最初の魔女の姿の気配に近いようでもあるが、クピドにも近いような? だが同時に、
ゴォッッ!!
出入り口の念入りな結界を突き破り、巨人のような氷の手が首魁の間に乱入してきたっ。
(アリッサめっ! 死ねっっ!!)
確殺ってくらいの邪気の練られた手だっ。ヴァーリンが巨大化させた長棍で押し留めに入ったが、アバドンさんの耐性祝福がなかったらヤバかったろう。
すぐに俺とアバドンさんと寝たままのアストロロジー以外も補助に入るが、止めきれない勢いだ。
怨みのパワーだなっ。
「おい、アリッサ。瞳孔開いてる感じだけど、起きてるならなんとかできないか? お前が封じてるんだろ?」
「······って······ね」
喋った。聞き取り辛いがっ。
「え?」
「······調子に乗ってますねぇ!」
1度収まった魔力の花吹雪がより力を増して逆巻きだした。
「現実世界でちょ〜〜〜っっと強いからって、分体使ってわたくしのお家で乱暴狼藉! 本格的なお仕置きが必要ですねぇ? オホホホ〜っと」
浮き上がって一頻り笑うと、おもむろに背後の虚空に玩具の扉のような物を出現させるアリッサ。
「バカ弟子! プラン『にゃふにゃふ』で対応なさいな」
「なによそのプラン?! なにも打ち合わせできてないわっ、なんか言っときたいたけでしょっ!!」
「ふひっ☆ じゃ、マスター君。『わたくしだけが絶対勝てるルールの夢の世界』行っときましょうかぁ?」
「んだよそれ? って、どぉ?!」
玩具の扉が開かれると俺とぬいぐるみアリッサはその向こうへと吸い込まれだしたっ。
「連れてゆくのである!」
アバドンさんが咄嗟に念力でゴールドスコップが籠に入れ直していた眠るアストロロジーも玩具の扉の向こうへ放り込んできた。
「だぁああ〜〜〜???」
「オーホホホッ」
「······」
俺達3人は夢の世界だかなんだかへと落っこちていった。
_____
気付くと、
「寒っっ??」
ガチガチに固めた耐寒装備を軽く貫通する冷気を感じた。
一面氷の世界だ。巨大な刃ような氷の柱があちこちの露出し、それが光の草花によって絡め取られ、光の蝶も飛び交っていた。
胡蝶の園の逆で、光の草花によって氷の世界が侵食されていた。
さらにそれら全てに薄く霞が掛かったようになっていて輪郭が曖昧にも感じる。
「起きるのが遅いですよ? マスター君」
ぬいぐるみより落ち着いた、艶っぽいでもどこか気の抜けた声。振り向くと喪服······ではなく祭儀服と夜着とドレスの中間のような格好をした。骨の翼を持つグラマラスな美女がいた。
怪しいオッドアイがいかにも不真面目そうな気配で煌めいている。
最初の扇子の変わりに日傘を持っていた。
「アリッサ! 姿も戻ったのかっ?」
「ここでは窮屈ですから。それよりお節介犀天使が寄越したおチビちゃんも起こしましょう。寝たままだと狙われますよ?」
アリッサの見た方には氷に直寝していた俺と違い、たっぷり生やされた光の草花の上で眠り続ける着膨れしたアストロロジーがいた。
「おお、だな。······ここってエーリヴァーカルの夢なのか?」
アストロロジーの周囲に魔法陣を描きだす魔女のアリッサにちょっと戸惑いながら聞いた。
「アレが眠った隙に入り込んだ深層意識の世界の端っこですね。概ね『夢』と言っていいでしょう」
準備を整えた魔女アリッサ。
「では······ドリーミィ! ドリーミィ!!『全知全能! ウェイクアップスィーツエクストリーム』スキルですっ!!!!」
どんなスキルだよ。と思った側から魔女アリッサの周囲に無数の『お菓子』が乱舞しだしたっ?!
カトルカール、ミルフィーユ、ババロア、タルト、カヌレ、パイ、シャーベット、マカロン、キャンディ、東方のオハーギ等々。
ネガジャバウォックすらお腹一杯になりそうなスィーツの嵐だ。魔女アリッサはそれらを操り、
ドォオオオォッッッ!!!!!
一気に眠るアストロロジーの口にブチ込みだした。
「ちょーーいっっ??!!! アリッサ! アストロロジーだぞっ? 死んじまうっっ」
「マスター君。ここ、夢ですから」
「······あー」
そんな感じか。確かに山程のお菓子は嘘みたいにアストロロジーの口の中に全て入ってしまい。小さな腹が少し膨らんだくらいだった。
完食し、眠ったままペロリと口元を舐めるアストロロジーは、
「とっても大好きですっ!!!」
と大満足の寝言で宣言し、そこから少し億劫そうに目覚めて身を起こしてきた。そして俺達と目が合う。
「よっ、アストロロジー。意外と食いしん坊だったんだな」
「はい『とっても大好きですっ!!!』頂きました。ふひっ☆」
見る間に顔を真っ赤にするアストロロジー。
「なんですか?! なんなんですかっ?! やめて下さぁああーーーーいっっ!!!!」
着膨れした格好で羞恥のあまり光の草花の上で転げ回るアストロロジーだった。
うむ。なんにしても夢の領域に夢魔に入り込まれると手が付けられないな、と。




