116話
花の主の家に草花の侵食や劣化や毒気の気配はまだなかった。
だが、代わりに『凍結』の侵食は見られた。それも相当な魔力と敵意による物だ。
文字通り突き刺すような凍気。
「完璧に、エーリヴァーカルのカウンターだわ」
「相当怒ってんなこれ」
「元々ザリチュより気難しいヤツであるからな」
アストロロジーじゃなくてもさすがにわかる。鍵の杖が攻撃を警告してる。
「ヘルスパルトイ、ケムシーノ達とゴールドスコップのガードを頼む。ヴァーリンとツルベ火クィーンは殿で、クルーは取り敢えずストレイルタバガを頼むよ。コメリナはもう強い矢のストックないみたいだから、ロックローズのマントの中にでもいとけ」
玄関に限らず館自体はみっちりアリッサの魔力で閉じられていたから、あっさり扉が開いた中がこんなビキビキに殺気立ってるとは思わなかった。
明らかに眠るアリッサに反応してる!
「お前と天使の私の扱いが段々雑になってることに関して抗議だっっ」
「ゴールドスコップの守りはお任せあれですぞ?」
「「ケムん」」
「アバドンロード、アストロロジーくらい持っておくれよ?」
「殿、ヒィッ」
「ここも雲でサーッと行っちまった方がよくねぇかぁ?」
「あちしの介抱も完璧だよーっ」
「いや、この段では色々面等がありそうである。手ぶらで行かせてもらう」
俺達は凍り付きながらも瀟洒、というか、ちょっと乙女趣味にも見えないではない花の主の家を進んでゆく。
「······ロックローズ ここでの暮らしはどうだった?」
「正直、とても不思議だったわ。アリッサやサキュバス達の気風もあるんだろうけど、迷宮の異変なんて素知らぬ様子で」
他のサキュバス達はともかく、アリッサに関しては目に浮かぶな。
「あいつは私にほとんど護りの術しか教えなかったのよ。最初の私は『呪殺』が得意で、それで勇者を怒らせて呪いを跳ね返されて敗れたようなもんだったらしいけど」
「また勇者を怒らせてボコられたパターンか」
勇者、凶暴過ぎだろ······教会なんかに伝わってる『聖人エピの数々』とか吟遊詩人達の唄の中の『ちょっと優柔不断なロマンスエピの数々』と整合性が取れん。
「長命だけどあんま強くなかったから結構代を重ねててね。段々呪殺から妨害系の術に以降はしてたみたいだけど、急にこんなんに仕上がっちゃったわ」
「こんなんって、へへ。でも助かってる。というか」
客観的には、ロックローズの当時の状況と限られた期間とリソースでは結界術を高めるのが一番効果的ではあったんだろうけどさ。
仮にヨミロートスを遠隔で上手いこと呪殺しても3層の崩壊が早まるだけだったろうしな······
攻撃的なロックローズが育った場合、クリスタルリトーやヴァーリン。避けられはしそうなネガジャバウォックはともかく、アペフチやフェネクスが素直に通したか疑問でもある。
ボルケーノやザリチュの癇に触るリスクも高まったろうし。特にザリチュ!
いやまず、3層や4層を監視してたヨミロートスが見逃さないか。
「ロックローズが上手く帰還できなかった可能性を色々考えると、綱渡りの育成方針チョイスだった気もすんな。アリッサがあんなだからフワっとしてたかもしれんが」
「······そうね。ま、感謝すべきなんでしょうね」
「ちゃんと礼を言ったことあんのか?」
「······考えとくわ」
これまで見たことない『真剣な子供の顔』になってる完璧補佐殿。
「おいピロシ、あんまりウチの首魁を詰めるなよ?」
ホントにロックローズのマントに潜っていたコメリナに注意されたからこれくらいにしとくか。
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ロックローズの案内で花の主の家の首魁の間を目指して進むと、氷片と魔力の花がそこら中を漂うようになってきた。
「互いの魔力が拮抗しているのである。タガが外れてきている、とも言えるな。ロックローズ、お前は隠蔽の結界を全員に張るのだ。俺は『死の凍結』耐性の祝福を全員に与える」
「わかったわ」
アバドンさんは全員に祝福を与え、ロックローズは全員の姿を改めて隠した。
「ヴァーリン、低速で慎重にだが、やっぱり全員雲に乗ろう。この環境だとはぐれたり地表伝いにいきなり凍結されるのを避けたい」
「了解だぜ」
隊列もへったくれもなくなり屋内だと身動き取り辛くはなるが、全員ちょっと前後したから見辛くなったが出してもらったヴァーリンの雲を探し当てて乗った。
そっから特に氷片には接触しないように進む。
「「「······」」」
接近するとわかる、探している。それも氷片達が呼応してだ。なんなら館に入る前から姿を隠しておいた方がよかったな、てくらいだ。
息を潜めるようにこの花と氷片のエリアを抜けてゆく。
あと、半分まできた。このまま、
(いるな)
「「「っ!」」」
ひりつくように冷たい思念だ。エーリヴァーカル!
ヴァーリンは迷わず雲を加速させた。回避操作難度も上がるが雲の軌跡の隠蔽精度が著しく下がり、進行方向をすぐに特定された。
氷片は花弁を砕き、押し退け、結集しだし、浮遊し氷でできた剣と細い甲殻類か虫類のような魔物の群体に変化しだしたっ。
「防御結界に切り替えるわっ」
姿は現し、氷の礫を放たれるのを防ぎに掛かるロックローズ。
いや保たんな、これ。まず前方塞がれて抜けられんっっ。
「ヘルスパルトイっ、ツルベ火クィーン!!」
「ヒホッ」
「ヒィィッ」
ツルベ火クィーンの火炎を残火のフランベルジュに纏わせたヘルスパルトイが『三日月斬り』スキルで大きな斬撃を放ち氷の魔物達を砕いて突破口を空けてくれた。
ヴァーリンの雲がそこを抜けてゆく!
「ダハハ、あっぶね〜っっ」
どんどん増えて追ってくる氷の魔物達。
「ストレイルタバガ! こういうの得意でしょっ!」
まだ昏倒しているストレイルタバガを座った足の上に乗せたままバシバシ頬をはたきだすクルー。
起こすってレベルじゃない張り手のラッシュだ。
「······っっっ、っ!! うわぁっ?! めっさシバかれてるっ??」
跳ね起きるストレイルタバガ。状況が飲み込めない様子。
「追われてんの。アレしてね!」
「よ、よっしゃー! 任せときや〜」
大体の感覚で把握したストレイルタバガは奇妙な存在感? の火の玉を多数造りだした。一つ一つがデフォルメしたストレイルタバガの頭部のようだ。
氷の魔物達も一斉に奇妙な火の玉に注目する!
「わての『迷い火』スキルはえげつないでぇ? ほぃっ」
全ての迷い火を明後日の方向に放つと、魅入られた氷の魔物達は一斉にそれらを追い掛けだし、俺達は無事にこのエリアを抜けられた。
「倒しきれるだけ、鉄球野郎の方がマシだったねぇ」
「ケムケム」
「ケムぅ」
ゴールドスコップとケムシーノ達も辟易って感じだ。
は〜、連戦。俺もそろそろ兎パンチの屋根裏で爆睡したいとこだな······




