112話
ズンっと轟音が響いて、吹雪越しでもわかるすんごい雪煙遠くの地表まで一線上に上がっていた。
また派手に湖水割り使ったな。よっし! ケリはついたっぽい。こっちも氷の猟犬はすべて撃退。アイスズーもあとは十体程度!
(フェネクス、そっちは?)
鍵の杖を介してテレパシー送ってみる。元々使える相手には繋げ易い。
(弓兵は無力化したが、降伏する思考はないようだな。焼くか?)
(いや、こっちは迷宮の環境改善に来てるだけで向かって来なければ攻撃しない旨を伝えておいてくれ)
矢文文化推し。
(おためごかしだな。ま、いいだろう)
思念の接続は切られた。手厳しっ。
「キッツ〜」
ボヤきつつ改めて見回すとネガジャバウォックとアストロロジーはしばらく復帰できそうになかった。
アイスズーはちょっと交信してる間に残5体。クリスタルリトーとボルケーノがどっちか仕留めるかで小競り合いをしだしたりもしていた。
「坊、そろそろ巨人どもの投擲攻撃範囲だ」
「だな」
アバドンさんに促され、俺は頃合いと判断した。
「狙撃のリスクはなくなった! リュブリャナ達を回収して抜けるっ! アイスズーは追ってくるのを撃退っっ」
「んじゃま、水棲チーム拾うか」
アイスズーをはたき落とす構えを解いて飛行する雲を急旋回させるヴァーリン。
これにアリッサ籠を背負ったゴールドスコップがアストロロジーを抱えたまま落っこちそうになってエル・ジェリーマンのスライム触手で掴まえられていた。
俺達はニーベルング弓兵を見逃したフェネクスと共に、リュブリャナ達を回収して猛吹雪の中その場を抜けていった。
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5層の東端。アリッサの支配域に入った。急に延々と止まらなかった吹雪が止み、代わりに地表に咲く氷の花が目立ちだした。
「本来はインキュバスの領域は催眠系の幻術がそこかしこに掛かってんねんけど、今はなんともないなぁ。まぁ大将本体連れてるんやけど?」
ストレイルタバガは眠り続けるぬいぐるみアリッサを振り返った。
合わせてゴールドスコップが面等みてるアストロロジーも今は穏やかに眠っている。
やや離れた位置でヨミロートスに蔓で保護される形で、『脱臭処置』された随分縮んだネガジャバウォックも眠っているがこちらは悪夢の中のようだ······
「アリッサが通行手形ならちょうどいいさ。みんな、今のうちに回復しといてくれよ?」
「はいはーい!」
「オグン殿とリュブリャナの武具がヒホっと優れていてさほど疲れてないですぞ?」
「俺にも『殿』って付けてくれよ!」
「ヒホホ」
クルー、ヘルスパルトイ、リュブリャナと話が逸れてった。
俺もハイエリクサーを飲んでる。余裕ができたロックローズが風の結界を張り直してくれたからヴァーリンの雲の上でもそこまで寒風に晒されることはなくなっていた。
他の皆の消耗は、スキュラの脱臼は治ってるが疲弊気味。ミズチのダメージは結構深そうだな。
あとは、平然としてるがフェネクスの魔力も3割は減っていた。不死性と蓄えたジェムで急速回復はしているようだが······
「ピロシ! アストロロジーちゃんの話だとアリッサ様の拠点周りには相手の4割は集まってるんだよね?」
麦の茎のストローを使ってハイエリクサーを飲んでいるクルー。
「探知時点ではな。集まりつつある、だ。減ってるってことはない。つか、ロックローズ。アリッサの眷属達。今『休眠』してるんだよな?」
「私が帰ろうとしていた時点で揃って『支度を始めてたわ。ただ眠るっていうか夢の世界に籠る準備ね」
「夢の世界?」
「そ、夢魔達からしたら一番安全だから」
さすが夢魔。眠るだけで別の世界に移動しちまうのか??
「······アリッサ、『あんな感じ』で現れたけど、随分遠くからそれも速攻で来たんだな」
正直助かった。アバドンさんだけだったら俺みたいなのはにはちっとハード過ぎて、投げないしてもこんな頻度で地下に潜ってなかった気がする。
てなことを起きたら言ってみっかな?
「ストレイルタバガ、クルー、待ち構えてる相手方の戦力の予想、ついたりする?」
「「んーっ」」
2人は考え込んだ。
「残りの幹部は3体や。鉄球を使う『ニーベルング・エレファント』双剣を使う『ニーベルング・カリブー』魔法を使う『ニーベルング・グリズリー』。この内グリズリーはヤツらの王宮から離れへんは。あれは首魁のエーリヴァーカルの側近やから」
リュブリャナんとこのプリーストみたいなもんか? 状況が随分違うが。
「カリブーは近接だと手が付けられないよ? カイム君より速い。すんごく速いの。エレファントはパワー系だけどまだマシかな〜?」
パワー系でマシ、ね。
「フィボルク、アイスズー、猟犬以外で待ち構えてそうな幹部以外の眷属は?」
「王宮外やと『ウバラシャチ』『カイザークライオヒュドラ』あとは『ニーベルング・リボーン兵』とちゃうかな? 細々言ったらキリないけど」
ウバラシャチは浮遊する骨と氷のシャチのモンスター。ニブルヘイムハウンドより硬く攻撃力はあるが動きは遅い。
ヒュドラは氷の多頭竜の上位個体。そう多くはいないはずだが単純な戦闘力は幹部並のはず。
リボーン兵はニーベルング兵のアンデッドだな。打たれ強くパワーはあるが思考力をほぼ失ってる。
「普通のニーベルング兵やアイスズーやフィボルクに比べたら癖強いけど、防衛戦やられると厄介かも?」
「無視して抜けられるもんかな?」
ややこしそうだが、ヘッジホッグみたいな即死狙撃を連発するようでもない。
「迷宮は天井があるし、どこに陣取ってるかもあるからな〜、どやろかぁ?」
横に回り込むとか無理かな??
「胡蝶の園に近い程、夢魔達の幻術の影響を受けるから、あちし的にそんな直前にはいないと思うけど?」
「だといいんだけどな」
現状、希望的観測をするだけの俺達だった。
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ところがどっこい!
空間が歪む奇妙な結界で覆われた胡蝶の園らしき城壁の拠点の周囲をウバラシャチ群を引き連れたリボーン兵の小集団が点在する形でギッチリ固めていた。
全員強力な幻術対策らしい装飾品を装備して状態異常を防いでる······
「結界自体は生きてるみたいだけど、アリッサが出てってから時間経ってるからそりゃ対向手段開発するよね、完璧に」
「えーと」
取り敢えず、フェネクスにも人型になって雲に乗ってもらってロックローズの隠蔽魔法結界で上空の俺達の姿と気配は隠されている。
が、これも長くは保たないな。
「幹部とヒュドラの姿は見えないね。ヘッジホッグとグリズリー以外はそこまで隠蔽能力ないはず。となると、胡蝶の園内にまで入り込んでるとみるべきじゃないかな?」
「雑魚の大群でさえ纏めて結界城壁の際の側で待ち構えられるくらいだ。幹部や少数のヒュドラ用のアクセサリーくらいは当然開発済みだな」
ヨミロートスとフェネクスは続けてヤバめの想定を言った。
そうなる、よなぁ。
「準備に時間掛けさせるとロクなことねぇな」
「先に言っておくが、『周りに気に掛けて戦う』のは余達は苦手だぞ?」
「さきゅばすドモ等ドウデモイイデスガネ」
クリスタルリトー、ボルケーノ、キャニスターゴースト。クリスタルリトーはともかくブッ放ち攻撃ばかりの機怪人組は確かに突入不向きだな······
いや、まず俺達突入するのか? 最適解か?
······うーん、するしかない、か。
はぁ。気難しい評論家気質のまばらな客層の舞台を乗り切って、次の営業先に行ったら人気の吟遊詩人ユニットの前座で誰も笑う気なかった、くらいの追い打ち感だ。
「相手の増援も迫ってる。疲労具合や相性込みで、役割分担考えよう」
まずアリッサは連れてかなきゃならない。主が戻れば『アリッサの眷属達』も起きてくれるだろうしさ。




