111話
ヘッジホッグは自身と一体化した外套の多くを失い、その消失能力は減退した。
彼の視点では詳細の確認はできなかったが、同時にフェネクスの先読み行動は急激に劣化もしていた。それまでの応酬であれば差し引きゼロ。
しかし雲からリュブリャナ達が降下している。
(探られてる気配もなくなったなぁ。アストロロジーは限界だったか? 感度は高いようだが妙に柔い? ま、いいぜ。鳥の方はさしたる脅威じゃなくなった! 問題は考えなしに飛び降りてきたヤツらだ)
まずは加速する牽制矢の速射で様子を伺いつつ、様子を見るヘッジホッグ。大量に持っていた矢はまだ7割はあった。大槍のように重い矢を扱っており、射てば射つ程軽くもなる。
(資料でいつか見た。リザードマンと水の首魁。上階の連中。過去の最初の俺達からすれば問題にもならねぇ······だが魔力は高く、動きもいい。近付かれると面倒かぁ)
「場違いだぜぇっ!」
牽制矢を避けた先に、弓兵達の溜め撃ちの一斉掃射を受けてフェネクスが怯むと、その隙にヘッジホッグは消失する死の矢に持ち替え、リュブリャナと後ろから彼を追うザトウマージ達を纏めて射線に入れて放った。
ガァンッ!!
これをオグン製の稲妻のグレイブで『ダイヤ斬り』スキルを発動させて真っ二つにするリュブリャナ。
左右に散った鏃の死の破片がザトウマージ達の左右を抉っていき、ミズチに乗った人間体スキュラを縮こませた。
「ひぃっ?!」
「何度目だその攻撃? 初動が見えてりゃ切れるっ。シュウハハハッッ!!」
笑って突進を止めないリュブリャナ。
「フェフェッ、占い女のせいで時間を掛け過ぎたなぁっ」
高速移動しながら牽制矢をフェネクスに、弓兵の援護に合わせて炸裂する矢や追尾する矢をリュブリャナ達に射ち始めるヘッジホッグ。
やがてリュブリャナ達がある一定の距離まで近付くと相手の射撃精度が増し、近付き難くなり交戦は膠着しだしていった。
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リュブリャナ達はある程度は接近に成功したっぽいが、こっちも噂の怪鳥アイスズーに囲まれていた。
フェネクス程じゃないがデカい! 山羊くらいなら丸呑みできそうな氷の鳥だ。ニブルヘイムハウンド達よりかは実体がはっきりしてるが飛行種だから速い速いっ。
残り少なくなった氷の猟犬達はもう死に物狂いで突っ込んでくる。
「よっ」
「ヒホっとな」
「ムフフッ」
不用意に接近した猟犬はヘルスパルトイとエル・ジェリーマンと俺が処理。
ゴールドスコップはアストロロジーとアリッサ籠を守って慌てていたが、ケムシーノ達とアバドンさんが結局上手く守ってくれていた。
確かにアバドンさんはフリーな方が動き易そうではあるかな?
クルーはネガジャバウォックを守ってるヨミロートスとバケヤナギエントの補助に回っていた。
「はいはい、はーいっ!」
炎の扇子を振るって身を守りながら『闘気ダンス』を舞って、ヨミロートスとバケヤナギエントの戦闘力を底上げしてる。
ストレイルタバガの方は火炎弾を自在に放ち、
「いつもより、ぎょーさん燃してまっせ?!」
雲を操作しつつ時折伸びる長棍を振るうヴァーリンやアイスズーの巨体による突進や凍結弾ブレスに対処してるロックローズの援護をしてくれていた。
「チッ、俺様がトカゲに先越されるとはっ」
「ウォージェムかマシンジェムがあればこんな雑魚ども······」
クリスタルリトーとボルケーノは彼ら? からするとちまちまとしたアイスズー迎撃対応にうんざり気味だ。一方で、
「ハハハッ、簡単ナ任務ダッ!!」
「音無し矢! からの音無し矢っ! さらにっ、音無し矢!!」
多数の誘導爆弾を撃てるキャニスターゴーストはこの状況にピッタリらしく上機嫌で対処し、同じく効果抜群らしいコメリナは大声で技名を連呼しながら無音の射撃を連発しオグン製の炎の矢でアイスズーの急所を射抜き、やはり上機嫌で仕留めていた。
ベクトルは違うが好戦的······
「こっちは問題なさそうだな」
火の魔力杭で突っ込んできたニブルヘイムハウンド3体の眉間に射ち込んで雪片とすぐ凍り付く蒸気に変えて呟く。
さてフェネクスはもう十分仕事してくれたが、リュブリャナ達もやってくれっかな?
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膠着状態が破られる切っ掛けは、焦れた並のニーベルング弓兵達が猛吹雪の虚空に鏑矢を放ってアイスズー数十体をフェネクス対応に引っ張り込みだしたことと、リュブリャナが短気を起こしたことであった。
「シュウゥッ! もう大体見切った!! 抑制利かせた立ち回りしやがってハリネズミ野郎っ!」
「待たんか!」
ザトウマージを振り切り、追尾矢と炸裂矢の二段構えを続けてダイヤ斬りで斬り払いながら、突進しだすリュブリャナ。
フェネクスがアイスズーの群れと弓兵の挟撃に手間取った隙にヘッジホッグの矢の迎撃頻度は増していた。
アバドンロードの祝福を消費しながら間合いを詰めてゆくリュブリャナ。
「保たんなっ、ええい! 無理を通す! マブチタユウっ、怒涛を起こし支援する!!」
「御意っ!」
ザトウマージとマブチタユウは凄まじい鉄砲水を起こし、環境の魔力で氷河の大波のようにして『スキュラとミズチを巻き込んで』リュブリャナを追わせた。
「私達もですかーっ?!」
「シャアァン??」
流され戸惑うスキュラとミズチ。
「支援するのだ!」
炸裂する矢の破片はスキュラとミズチにも来た為、2体は慌てて氷河の奔流に沈み『水中隠行』のスキルで身を隠した。
「っ!」
ヘッジホッグは素早く岩場の高台に駆け上がり、狙いをリュブリャナに絞った。
怒涛が迫る中、猛烈な連打で守りの祝福効果を全て打ち砕き、突進するリュブリャナ本体にも傷を与えだす。
殺れる。
そう判断し、ヘッジホッグは死の消失矢を傷付きながら突進を止めないリュブリャナに放った。狙いはリュブリャナではなく稲妻のグレイブ。武器ごと射抜く算段であった。が、
ザバァッ!
水面に氷塊を割って姿を現したミズチは『螺旋パリィ』スキルで渦巻かせた全身を使って矢を逸らした。
次の瞬間、半ば氷河に浸かったヘッジホッグの立つ岩場の水中で達していた人間体スキュラが大きく拳を構えた。
(『水パンチ』っ!!)
水の巨大な拳で殴り付けるシンプルなスキルで反り立つ岩場を砕くスキュラ。
「っっ!!」
ヘッジホッグは宙に投げ出された。そこへ氷の奔流を伴い、辿り着いたリュブリャナが飛び付いた。
「シュウゥッ!!!」
湖水割りスキルで背後の水面の水底の岩場諸共、ヘッジホッグを縦に両断し武器の電撃で感電させるリュブリャナ。
「······フェ。城外の、その他のヤツらに殺られるとはなぁ、持って、ないぜ」
2つにされたヘッジホッグは武器と持道具だけ残し、焼け残りの一体化した衣と合わせ、焦げた石片と千切れるボロ切れに変化して氷河の奔流に落ちていった。
「何百年前のこと言ってやがる? 今の俺に備えときやがれってんだ。シュハハッッ」
「肩、脱臼しました」
「鱗、剥がれた」
氷塊の上でリュブリャナは高笑いし、疲弊したスキュラとミズチだったが、すぐにザトウマージとマブチタユウと合流はできていた。
フェネクスもアイスズーを焼き払い弓兵達の弓を全て焼き払って降伏を促し、後衛のピロシ達も囲みを打破しつつあった。
だが遠方から迫る地響きを立てた四方八方のフィボルクの群れが見えだしており、依然油断ならない状況ではあった。




