110話
極寒の5層東部域の岩場上空で、輝く熱線と『消失矢スキル』で放たれた死の矢が激しく打ち消し合う。
初撃の奇襲程ではなくとも存在を消しつつ、地表を高速移動して矢を放っているニーベルング・ヘッジホッグ。
「······通らねぇなぁ」
昏倒したネガジャバウォックの為に的が大きくなってしまった飛行する雲を守る形のフェネクスの迎撃が厄介であった。
こちらを『ある程度先読みする』動きを繰り返し、時折反撃をしてきていた。フェネクスが対応に慣れてきており完全回避の難度が高い。
地形も『容易に冷えない熱で溶解した地表』を増やされている。
ヘッジホッグも対応の切り替えを決めた。
呪印の印された凍り付く大型の犬か狼の頭蓋骨を地表に放り棄てる。
ドッ!! 爆発的な変化が起こり、猛吹雪を逆巻かせて数百体の冷気の魔獣『ニブルヘイムハウンド』が発生し、飛び回りだした。
「雲を囲め」
「「「オオォォーーーンッッ!!!!」」」
魔獣達はフェネクスの熱線に多くを焼かれながらもピロシ達の飛行する雲に迫った。
この程度の魔獣でフェネクスも他の首魁達も今のピロシも倒すことはできないが『先読み行動』の精度は如実に劣化した。
ヘッジホッグは嗤って、念入りに位置取りして矢に魔力を練りだした。
「フェフェッ、材料が多過ぎるとノイズだろ? それからよ、こんな矢もあるぜぇ?」
放たれた氷の矢は熱線で撃ち落とされたが、同時に炸裂し多数の氷の刃をフェネクスに放った。
「っ!」
アバドンロードの祝福の効果で急所は外れたが、黒炎の身体にいくつも穴を空けられるフェネクス。傷の再生はすぐ始まるが、攻勢の手は一時止まった。これに、
「出るぞっ!」
「「オォッ!!」」
機を逃さず、離れた位置で複数の隠蔽の魔法陣に隠れていたニーベルングの並の弓兵達は氷の矢を次々とフェネクスに放ち出した。
再生したフェネクスは鬱陶しそうに熱線を放って撃退しようとするが、素早くヘッジホッグに射られ妨害される。
「直に増援が来るっ」
「ここで墜とす!」
「『城外』の首魁等っ!」
いきり立つニーベルング弓兵達。ヘッジホッグも『加速する矢』に持ち替え牽制に一先ず専念する。
「······黒の不死鳥。そういえば狩ってみたかったぜぇ? フェフェフェッ」
ヘッジホッグは嗤いながら久し振りの狩りを堪能していた。
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ぐぉおっ?! 周囲に迫るニーベルングハウンドとかいうモンスターの群れは皆で迎撃できてるが、フェネクスが狙われてる!! 周到っ!
「坊、落ち着くのである。飛び道具対策の祝福はフェネクスにも効いている。むしろこの『犬っころ』どもが効果対象外である」
「お、おお」
実体が曖昧な宙を駆けまくる氷の獣だ。吹雪を媒介により高速化してる感じだ。厄介だが、他にも弊害があった。
「······うっ」
「しっかりしろ! モコモコちゃんっ」
アストロロジーが処理する情報が多過ぎて目を回しそうだ。
「増援が、気ます。最初に、大型の怪鳥。それから、フィボルク······」
「マズいな」
いよいよ囲まれちまう。巨人群に追い付かれる前に状況を変える必要あり、だ。
「ヨミロートス! ネガジャバウォックの治療まだかいっ?」
ゴールドスコップが、オグン製の炎を灯したスローイングナイフを投げまくりなら叫ぶ。
雲が大きくなり過ぎてるのと下方が死角になるからヴァーリンは変則的な飛行をしなければならない。安定せずやり辛そうにしていた。
「傷は塞いで内臓も再生してるよっ。ただショックだったからか、起きないんだ。さっきの矢の『即死効果』が残ってるのかも?」
「起きないなら『馬糞コロン・凶』を生成してあるぞっ? こんな時の為に!」
ドス黒い液体の入った小瓶を掲げる、ふらつくアストロロジーを抱えているコメリナ。
「「「······」」」
どんな時の為にだって??
「まぁ使ってはみるけど」
おずおずと樹の触手を伸ばして受け取り、蓋を空けてみると霧吹き器の付いてないただの瓶だった。
「っ!」
「「げっ?!」」
臭いは強烈だったらしく、ヨミロートスと風下にいたリュブリャナ達水棲グループは仰け反った。
「これはっ、慎重に扱う必要があるね。歴代のコメリナの中にこれの生成に執着する人いなかったと思うけど······」
「おいっ、語弊があるぞ?」
コメリナの抗議は取り合わず見たことないハードな顔付きをしているヨミロートスは樹の触手で、息はしてるが目覚めないネガジャバウォックの鼻先に馬糞コロン・凶を持ってゆき、念力で『1滴』取り上げようとしたが、
「おっと」
要領を得たヘッジホッグが牽制用の加速矢の射線に雲を合わせてきて安々とロックの魔力盾を貫いた為、大きく雲を傾けたヴァーリン。
「あ」
パシャ。
ネガジャバウォックの鼻先に全ての馬糞コロン・凶がぶちまけられた。
「っ??!!! ゾォアアァーーーッッ????」
一瞬起きたがすぐ泡を吹いて再び昏倒してリュブリャナ程度の大きさに矮小化するネガジャバウォック。
「わぁ······」
身に染みているロックローズはドン引きだ。
「ダハハっ、結果オーライだ!」
雲を縮め、的を大幅に小さくするヴァーリン。
「私はコロンを渡しただけだからな?」
「雲を傾けたのはヴァーリンですし、『事故』ということにしておきましょう」
責任から逃れようとする犯人達。
(自力で対処できるな? アストロロジーっ、もう一息! 我と共振しろ!! ヘッジホッグ以外の探知は一先ず捨てよっ)
「はい!」
じゃれ合いに付き合わないフェネクスさっさと攻勢に転じた。アストロロジーも応える。
「予見抜きで退けるっ、間を置かず鳥系の個体群を来るかんな?!」
こっちはこっちで態勢を改める。的が小さくなったから死角も減ってやり易くはなってる。
「ここっ!」
同調してるから端的なイメージの伝達だけで通るらしく、アストロロジーの反応の直後に、
カッ!
弓兵の猛攻や牽制の矢は祝福任せで急所から外れれば問題にしない、という強引な撃ち方で示された地点へ熱線を放つフェネクス。
見えたっ。直撃はしなかったが初めて相手のマントの多くを焼き払う形で掠った!
ニーベルング・ヘッジホッグは姿を消す力が一気に衰え、俺でもある程度気配も探知できるようになった。
しゃ。こっから、
「ピロシっ! 行くからなっ!! シュウゥッ」
なぬっ?
「リュブリャナ!」
雲から飛び降りるリュブリャナ!
「気が早い! 遠い間だろうにっ、ゆくぞっ」
「私達もですか? えー??」
ザトウマージ達水棲の4体も飛び降りてしまった。
「よしっ、射撃なら音無し矢を」
「コメリナ! 鳥系が来るってっ、あとアストロロジー!!」
「えっ?」
自分も飛び降りようとしたが止めるっ。アストロロジーも今の予見まで限界で目を回してしまっていた。
「ん〜っ、ゴールドスコップ! アストロロジーの介抱頼むっ!」
「あたしかいっっ」
アストロロジーをゴールドスコップに託し、ようやく腰を据えて弓を構えるコメリナ。よかった、ぶっちゃけ彼女じゃ相手の剛弓に撃ち負けちまう。
またちょうどあちこち方角から大型の氷の怪鳥達が迫りだしてもいた。
「反転攻勢で行くぞっ?」
「と言いつつ守り固めてるけど、完璧ガードっ!」
ヘッジホッグはフェネクスとリュブリャナ達に任せ、俺達は6割は減った氷の猟犬達と迫る怪鳥達に備えた。
思った程はスッと抜けられてないが好転してる! 凌いでやんぜっ。




