109話
潜入艦のエネルギーが予定の進路の約3割でほぼ切れると、『畳み作業』のあるキャニスターゴースト以外の俺達本隊は装備や魔法で姿を隠して艦外に出て巨大化したネガジャバウォックの背に気配頼りで乗った。
「ふわ〜っ、寒うっっ? アカンやつや······」
「纏めて背に乗ると大所帯であるな」
「狭いのに玉座置いてるよね? 2人ともやめたら?」
「ヨミロートス! 俺様は小柄だから問題ないっ」
「余も『中身』は小柄だ!」
「こりゃコンパクトだな。ダハハっ」
「······」
「ちょっと隠蔽効果切るの待ってね。ネガジャバウォックの結界の調節するから。こっから飛ぶとややこしいのよねぇ」
「ゾァ?」
「まだ飛ばないのっ」
「オレ、まだ飛ばない」
「これが最下層の環境かっ! いい寒さだ。歴代でも初めての体感だな。シュゥハハ!!」
「リュブリャナ、静かにしろ。もう艦内ではないぞ?」
「爺さん、シャーベットになりそうだぜ? シュゥッ」
「なにを?!」
「ザトウマージ様っ、ただの冗談ですっっ」
「魔王城を守ってた首魁に挑めるなんてワクワクしますねぇ。ムフフ」
「いや、アリッサ起こすのが目的だよ」
「「ケムケムっ」」
「え〜? モグラ殿。ワタシの予感ではただでは済みませんよぉ〜」
「スラ公は予見できないだろ?」
「そうだ縁起でもないっ。が、その時は私の新技『音無し矢』で仕留めてやるさ!」
「はい、隠蔽結界完璧! 切っていいわよ? ふふん」
ネガジャバウォック以外は全員個別の隠蔽を解除した。
乗ってきた艦船の方もどういう理屈か? 小さく折り畳まれた気配で雪煙が上がり、それを拾って体内に収納したらしいキャニスターゴーストがこちらの結界内に飛び乗って隠蔽効果を解除した。
「大義である」
「ハッ。一応魔力充填ヲ始メテオキマス」
「よっし、準備はよさげだな。アストロロジー、どうだ?」
やっと外に出られてなんかワイワイしてきてもいたが、アストロロジーに聞いてみた。
「そうですね······」
厚着でモコモコしているアストロロジーは水晶玉を抱えて予見を始めた。予見スキルが高まり、比較的簡易な形でも結構精度と効果範囲を利かせることができるようになっていた。
「······陽動に掛かったのは3割程度。足の早い大型の飛行種達を多く使っています。さらに3割は彼等の首魁の拠点を固めています、が······残り4割はアリッサ様の拠点周辺を固めだしています。しかし、時間と、物量が足りないようで各団の隙間も多いです。遠回りすればいかようにも入れそうですが······」
「当代主。陽動も機械獣を全損させられると消耗戦になる。距離が離れ、連絡も取り辛くなった。夢魔拠点周辺の守りも固められる。そう余裕はない」
大男の姿のフェネクスの指摘はもっとも。相手のアリッサ拠点の固め対応が想定より速いが、元々時間掛ける予定はない。
「だな。アストロロジー。最短で安全ルートを見れるか?」
「やってみます。各団が動いているのと、環境の魔力の強さ、吹雪で見え辛くなっていますが······ここからですと岩場になった地点を抜けてはどうでしょう? 気配はなく、『何も見えません』」
「岩場か······ま、上空だしな。行ってみるか」
「ヒホっと抜けますぞ?」
俺達はちょうど隙間らしい雪原の岩場をルートを取るべく、ネガジャバウォックに離陸してもらった。
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道程全体で言ったら6割ちょいかな? 少し大回りにはなるが他のルートよりマシな岩場の地点上空に近付いていた。
ネガジャバウォックの飛行は快調だ。今のところ、相手方の警戒する中小の団は避けられてる。ずっと集中してるアストロロジーのお陰だな。
なんて思っていると、
「······もう、少し。高度を上げた方が、いい、気がします」
目を閉じて集中したままアストロロジーが言ってきた。
「さらにか? よし。ネガジャバウォック。天井ギリギリまで上がってくれ。氷柱がすごいから気を付けてな」
「オレ、わかった」
高度を上げるネガジャバウォック。槍衾状態のビッシリ付いてる氷柱が迫って中々の迫力だ。
「なにか見えたのか、モコモコちゃん?」
集中し過ぎて乗り方が不安定なのでコメリナが抱えていた。コメリナの方が寒冷耐性が強いので必然的にアストロロジーの方がよりモコモコではあった。
「なにか······お腹の方が、チリチリと······私? いや、これは······ジャバウォック! お腹を気を付けてっ!!」
「ゾァ?!」
なんかヤバいっ、俺は鍵の杖を構えた! 他の皆も構え、ロックローズも結界の下面を強化したっっ。それでもっ!
ドォオッッ!!!
直撃し強化結界を貫いて初めて轟音を立てた鋭利な飛来物はネガジャバウォックの腹にブチ込まれたっ!!
「ゾァァッッッ??!!!」
「ほぉおおっっ!!!」
咄嗟過ぎて血管切れそうだがっっ、超圧縮されて回転しながらネガジャバウォックの臓物を掻き回して背まで貫抜こうとするそれ、矢だなコレ! 魔力もだがすんごい素材使ってるっ。とにかく矢の勢いを杖の念力で止める。
いや止まらねぇっ?! そういうスキルか? このヤバい矢の特性か??
「二の矢が来るぞっ?!」
コメリナが叫ぶ。既に結界は瓦解し、飛行は止まり、猛吹雪にも俺達は晒されていた。フェネクスが素早く跳んで黒炎怪鳥化するっ。
「右手!」
アストロロジーの警告にフェネクスは素早く反応した。予想されるさっきの射撃点から、嘘だろ? ていう程遠い右手の大きな岩の頂点当たりからやはり音もなくこれだけの攻撃力で気配もほぼなく二の矢は確かに放たれた!
フェネクス熱線がそれに正確に合わされ、結構近くまで迫られたが矢は焼き尽くされた。
「この『見えぬ狙撃』、ニーベルング・ヘッジホッグであるな。飛び道具への護りを与える!!」
珍しく迷わず速攻で全員に射撃対策らしき護りの祝福を付与するアバドンさん。
「だぁっ!」
どうにか荒ぶる矢を抜いた。まだ追尾効果を有していたが、クリスタルリトーが石弾を投げ付けて粉砕した。
昏倒してしまったネガジャバウォックは落下しだす。ヨミロートスがバケヤナギエントに護られながら治療を始める。
「ロックローズ! 盾を大量にっ。大体でいい!!」
「完璧ぃっっ」
結界ではなくより単純構造で硬い魔力の盾を大量に半球状に拡げ墜ちるネガジャバウォックと俺達を守るロックローズ。フェネクスも続いて滑空する。
「ヴァーリン!」
「おうよっ!」
ヴァーリンに雲を大きく展開して貰い斜めに掬うように地表激突を避け低空飛行に切り替えてもらう。
3撃目はまだ来ない。
「すいませんっ、予見が甘かったです!」
「大丈夫。無策ならもっとじっくりカモにされてただろうからさ」
そして、だ。もしこのまま下がるとしたら、次は確実に条件悪くなる上にアペフチの支配域への侵攻リスクも出てきてこりゃ収拾がつかなくなる。
最下層幹部眷属は手練れだ。
今もアストロロジーの予見が生きてるのにほぼ対応できてる。というか相性悪いのか? 環境も悪いが······
「ふんっ、結局こうなるのだ。ソフトクリーム等作ってる場合ではないだろう? ギハハ」
しつこっ。このとんがりしつこっっ。たぶん一生言ってくるだろうな。ええい、どっちにしろだっ。
「撤退はしない! 今回で抜けちまうぞっ!!」
言っちまったがよく考えろ、俺。事前の確認ではヤツらの『幹部4体』は健在だ。状況的に全員が速攻この場に現れることはないだろうが、『1〜2体の幹部増援はありあり』と見るべき。
全員アストロロジーの予見を寸前まで回避できるとも仮定するっ。
あれだ『ちょっとギャラのいい普通の地方営業かと思って現地に行ったら地元マフィアのボスの家の宴会司会の仕事だった』くらいのプレッシャーだ! くぅーっっ、切り抜けてやんぜ!!




