11話
気付くと3日もダンジョンに籠もっていた俺は一旦メジハ村に帰ることにした。
爺さんの資料を元に鉱石も不自然でない程度に拾ってきた。カンラン石と蛍石、霊石類も少々、だ。品質普通。量は合わせて嵩張らない程度。
代替わりしてたが、爺さんと取引のあった加工素材専門の取り扱い店に売却。金額は大体都会で半月ちょいショボめに暮らせるくらいか?
「へぇ」
銀貨と数枚の金貨の詰まった小袋をじゃりじゃり言わせてちょい感心した。これはこれで悪くない生業だな、と。
まだ昼過ぎだ、村役場にも行ってみるか。
······到着。都会の大きな商店の事務所くらいの小ぢんまりさ。
「お、いたいた」
受け付けの奥でなにやら事務作業をしているモリオ発見。
「モリオ」
「っ!」
顔を上げて、げっ、て顔をされた。へへっ。
すぐに一番端の仕切りの先の応接席に連れてかれた。
「んだよ? 融資でもしてくれんのか?」
「石拾うだけだろっ。お前、申請書だけ寄越してさっさと採取に出掛けちまって! 住民登録は書類代だけだが、採取業の登録が必要だ。シープランド氏に関してはアバ・ランス氏から委任状は預かっているが」
「アバ・ランス?」
「木こりのドワーフ! 名前くらい確認しろっっ」
「あ、ああ。悪い悪い」
初めて聞いたはアバドンさんの村民名! とにかく、有料の採取業の登録を終え、税は『売却益の1割7分。領税や国税もそこから捻出され、個人で対応する必要なし』とのこと。ま、そんなもんか。
支払いは隔月ごとに纏めてとなった。主な売却店も一筆書かされたからチョロまかしは難しそうだ。
「ピロシ、規模が大きくなるなら地域の採取業者のギルドに入らないと『締められる』。面倒だから村でやってける程度にしとけ」
「わかった。んじゃ、な。また飲みに行こうぜ?」
「······ココミに余計なこと言うなよ?」
声を潜めるモリオ。
「こんな狭い村でよく隠せてんな」
「綱渡りなんだよ!」
「知らね、ははっ」
絶対その内バレるわ。
役場を後をした俺はこの間のパン屋で兄貴とモモミに菓子パンを土産に買って、兎パンチに帰った。
モモミは仕事があるから時間差で顔を合わせたが、2人に、
「数日潜ったりもするのか?」
「具体的にダンジョンでなにしてんの?」
と質問攻めになってはぐらかすに苦労したぜ。
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······水路開通後の下準備は二段階。
一段目は、キラーモール側は水確保で食糧の促成生産強化やゴブリンとの物々交換から逆算して、備蓄食糧を取り崩し消費。低栄養状態を改善。
ゴブリン側は弓矢、特に矢を補充。炸裂矢用のファイアジェムや鏃は意外とストックが多かったので問題無し。盾と槍なんかも必要数補完。苔や茸で生成し易いらしい回復薬のポーション類も増産。
二段目は、1層のオークのテリトリーを再計測し、その範囲を広めに見積もりその範囲外でダンジョン環境の補修と浄化。
それから環境悪化で荒ぶる迷宮の凶暴化モンスターを、訓練を兼ねてキラーモールとゴブリンの連合隊が制圧していった。
一連の行軍は体力の回復した元々強壮なキラーモール達はいいリハビリになり、ゴブリン兵も雑兵が『ゴブリンアーチャー』とゴブリンウォリアに進化し、お馴染みのゴブリンウォリア達は『ゴブリンハイウォリア』に進化した。
さらに捕獲鎮静化の成立した凶暴化モンスターの内、モヒカン毛の芋虫のぬいぐるみのようなモンスター『ケムシーノ』100体余りと、魔犬の『ワーグ』数十体を手懐けることにも成功した。戦力アップ!
俺も補修浄化活動の合間にアバドンさんやアリッサに杖の扱いの稽古をつけてもらったりした。
ここまでメジハの牢獄ダンジョンに戻って3日。悪くないペースだ。
「しかしいい加減、オークどもにテリトリー外の環境改善と我らゴブリンとキラーモールの共闘を察知されたようですな」
キラーモール拠点のゴールドスコップの部屋のテーブルに広げられた最新の1層石室回廊のマップを前にビッグヘッドは渋い顔をした。
「偵察隊によればオークは巡回範囲を絞り、少数の雑兵や採取隊の類いも出さなくなってる。絞った範囲内で捕食可能なモンスター類が急減した様子もある。ヤツらも大食いだ。備蓄を減らさず体力を充填してるんだろうさ」
並の蛇より太い『迷宮ミミズ』の香草焼きをムシャムシャ食べながら言うゴールドスコップ。
アリッサは寝そべったワーグの上位個体『ブルワーグ』をベッド代わりに昼寝。他に人がいるなら軍師はやらないスタンス。
アバドンさんはケムシーノの上位個体『喧嘩ケムシーノ』と『スタンケムシーノ』を両肩に乗せてはいるが、腕を組みムッツリ黙ってるだけだ。
俺も静観、といきたいところだがそうもいかないか。
「相手が好戦的で対立してるとしても、今後のことを考えると一度は接触する機会がほしいな。使者を送れないか?」
ビッグヘッドとゴールドスコップはかなり厳しい顔付きで互いに目配せした。え? そんな難しいのか?
「すでに我々はヤツらに何人も殺され、『喰われ』ました。厳密には『先代の我々』がヤツらと激しく交戦し、現在の相互不可侵状況をどうにか作っておりました」
喰われたんだ······
「この迷宮の自我のあるモンスターは概ね理知的になる物だが、オークは戦闘状態や飢餓状態が続くと凶暴化し易く首魁個体『オークキング』はその傾向が強い。さらにヤツは『狂戦士化』の能力も持っている。眷属も影響下だ」
んーっっ、だいぶ厳しそうだな。
「そっか。だが、戦闘前に、えーとなにか、こう」
「矢文」
ワーグの上で寝たまま軍師アリッサから一言。
「それ! 矢文と、あとは全体に呼び掛けもしようぜ? 首魁討伐はやむを得ないとしても、干渉下でも、配下達になにを言ったかくらいは頭に残るだろ?」
「確かにどのような『振る舞い』をしたかは伝わるものですからな。考慮は形に出してやった方がより既成事実を作れましょう」
ビッグヘッド、言い方。
「下層の連中に無駄に警戒されるのも面倒だしね。眷属どもに関しても、加減できる範囲でなら捕虜にしてもいいかもね」
お、意外と穏便案出すゴールドスコップ。
「じゃあそういう方向で詰めようぜ?」
俺達は協議を進めた。
が、この協議のすぐあとにオークの斥候が解放した水場付近を嗅ぎ回っていると言霊の石で通信が入り、確認もされ、猶予なしと翌日には『オーク攻略作戦』は実行されることになっちまった!
また1回、村に帰ろうと思ってたんだが上手くいかないもんだ。




