10話
こっからは時間は掛けられないっ。
コマンド個体とシャーマン個体を指揮役とした見張りのゴブリン兵も80人余り残し、俺達はモグラ達の拠点に急いだ。
居残り組の何人かには連絡用に文字通信できる外じゃ高価な言霊の石が持たされていたが、未補修区間は特に完全な通信は難しいそうだ。なんで『なにかしら通信がきたら』異常自体とみなす手筈になった。
カモフラージュ用に周辺環境は敢えて補修浄化せず手早く移動し、俺達は残数十人のビッグヘッド率いるゴブリン兵達と1層のキラーモール族の拠点前に到着した。
「結構ちゃんとしてる、というか建材豊富だな?」
ゴブリンの拠点と違い魔王城の瓦礫は補強程度で、土壁や木材主体の城壁だった。
「『鍵の主』を連れてきたっ。取引がある! 我らの武装は全て預けて構わんっっ」
感心してるとビッグヘッドが門番や見張り台のキラーモール兵に言い放つと程なく城壁の正門側の上に、上役らしいキラーモール兵が魔法使いっぽい個体と共に顔を出した。
「マスター様ですね! グランドマスターキーを掲げて頂けませんか?!」
「いいぜっ?」
先に斥候に話通したりしてないから一手間掛かる。俺は鍵の杖を掲げて『盛っとく』か、と魔力を込めて光らせた。
「「「おおーーっっ??!!!」」」
どよめくキラーモール兵達っ。ちょい大袈裟だったかな?
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無事、中に入れた俺達。ゴブリン兵達はコマンド個体とシャーマン個体の代わりにビッグヘッドのお付き担当になったウォリア個体達以外は、正門に近い自警団兵舎に留め置かれることになったが、残り全員で案内の兵に付いて首魁の館に向かう。
建材の豊富さとそれを扱う土木能力の違いからか、同程度らしい人口でも敷地はさらに広く、木材で補強された小屋が立ち並んでいた。
ゴブリン拠点程ギュウギュウ詰めでもないな。
「土と木材が豊富だ。いいなぁ」
「場所も広いし」
「だが、やっぱ痩せてるのが多いぜ? 食いもんが足りねーんだよ」
武器没収で手ぶらのウォリア個体達が雑談してる。確かによく見ると痩せた個体が多かった。
初見で遠巻きにされるのはどこもおんなじだ。
「キラーモールってそんな食べるのか? 外にはあんまいないんだよ」
「人間基準だと2倍は食べますね。元々住んでた2層は『土』の階層で1層より食物を得易かったはずですわ」
「オークと違い農耕に向いた気質ゆえ、まだしも他のグループと争いが少ないのであろう。ま、ジリ貧であるが」
「親父も罪作りだな······お?」
2階建ての館が見えてきたが、その後ろにこんもりと灯りで照らされた低木の森が見えてきた。土の地面もあった。
「触媒を用い地の魔術で土を増やし、あとはその土壌で苗木をポーション等で促成させているのですかな?」
ビッグヘッドが案内の上役兵『ヘビィナイト個体』と魔法使いっぽい『ソーサラー個体』に聞いた。
「ええ、農産物も概ね。まず我らは本来地中の種族ですので、土がないと安定しないのです。木々も良い土の生成の副産物のような物で」
「ほぅ。いずれも、『水』が不足しましょうな?」
「ええ、まぁ」
ソーサラー個体相手に若干悪い顔をするビッグヘッドだったぜ。
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館に着き、わりと観光モードのウォリア個体達は前室に待機となり、ビッグヘッドと俺達3人はヘビィナイト個体とソーサラー個体と共にキラーモールの首魁『キラーモール・ゴールドスコップ』の部屋に入った。
「っ!」
でか〜っっ。ゴールドスコップ、でかーっ! 普通のキラーモールの2倍はある。毛皮の下、筋骨隆々だっ。というか女性じゃないか??
と、ビッグヘッドはスッと身を引いて俺とゴールドスコップを対峙させた。そういうとこあるよな、ビッグヘッド!
「あんたが当代のマスターかい?」
当たり強い系か。こりゃ言い回し注意だな。回れ俺の口っ!
「そうだ。バックレた親父からなんだかんだで引き継いだ。俺はピロシ・シープランド。キラーモールの首魁。取引がある」
「言ってみな。天使と蝙蝠のお墨付きだけじゃ話にならないよ?」
これにムッとした気配のアバドンさんとアリッサだったが余計なこと言い出す前に俺は進める。
「ここからそう遠くないエリアの水場を解放した。今、ゴブリン達に見張りをさせてる。そこをゴブリン達と『共有』してもらっていい。代わりにこれから俺に協力してくれ。これは荒れてるらしいオークとの抗争も前提としてる。いい話ばかりじゃない」
ここが際だな。俺は巨体のゴールドスコップの目を下からグッと見上げた。鍵の杖は無敵でもない。協議が成立する相手かどうか、だ。
「······いいだろう。理屈を捏ねる前に段階を踏めるヤツは嫌いじゃない。当代のグランドマスターに、このゴールドスコップとその一党は与そうじゃないかい」
しゃっ! 内心、飲み会では鉄板なのに舞台ではウケたことない『タップをしながらタコ踊り』をかましたくなったが、表面上は、『はいはい、満足な契約ですね』くらいのリアクションに留めておいたぜ。
「正直水の不足からくる食糧難で、眷属の半数を『休眠』させるか否か、てとこまで詰められててね。この話は助かるよ」
「そんなだったのか? 大変な」
「ではっ!」
雑談の流れをビッグヘッドに切られた。
「詳細な条件の擦り合わせを致しましょうかな? 加えて即時に確保した水場へそちらの増援を頼みたい。オークに掠め取られては叶いませんからな?」
「性急だな、ビッグヘッド。だが、わかった。すぐ出そう」
ゴールドスコップはヘビィナイトを指揮役に数十人の増援隊を組んでくれた。
協議はビッグヘッド主体で行われ、アバドンさんはゴールドスコップの『物言い』に小言を連発し、アリッサは飽きて居眠りし、俺は油断するとゴブリンに優位過ぎる案ばかり出してゴールドスコップの機嫌を損ねるビッグヘッドを抑制する係だった。
明らかに俺がフォローする前提で『高めのボール』投げてる感あったけどさ······
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で、2日後。
「んじゃ、行くぞ? ほいっ、とな」
ここまで作業が進むとあとはおまけだ。俺は鍵の杖を振るい、キラーモール拠点際の整備された魔除け付きの水路の引き込み口と繋がった、迷宮側の壊れた水路を補修浄化した。
ドッ。清潔な水が引き込み口に流れ込む。まぁ、一応中の濾過管理棟に1回溜められるわけだが、この時点で集まったキラーモールの拠点住人と兵達は喝采した。
「「「わぁーーーっっ!!!」」」
いい反応。え? 最終回みたいだぞ?? なんてチョケたことを考えていたら俺は頭に乗せたアリッサごとゴールドスコップに抱えられて肩に乗せられた。
「当代主! もし、あたしの代でノコノコ現れやがったら試しにかこつけて森に埋めてやろうかと思ってたが、よくやってくれたよっ。よく引き継いでくれた!! 帳消しにしてやる。アハハっっ」
「そりゃ、どーも······」
たぶん幼児の頃以来の人の肩からの景色を見ながら、俺は迷宮の魔力灯に照らされた水飛沫に目を細めていた。




