104話
アペフチの拠点が近付くと一気に炎熱環境の火炎が強まった。
もう野営地なんかの利用の様子はないっ。ひたすら燃えてる!
「ロックローズっ!」
「完璧!」
ロックローズにアイスジェムを多数使って氷の結界をネガジャバウォックの風の結界に上乗せしてもらう。
フェネクス達とボルケーノ達は問題なさそうだが······
「ヴクヴ・カキシュ! いけんのかこれ??」
(問題ないピョっ! 今回はストレイルタバガの案内もあるから迷わないピョ!)
「迷いの術まで掛かってのか」
環境で攻撃する魔法だな。
「さすが竈の魔法使い。燃すのは得意だよな? ダハハ」
「薪にされちゃうね」
呑気なヴァーリン&ヨミロートス。
「······大丈夫です。もうすぐ、抜けます。彼に続いて」
アストロロジーが予見し、ストレイルタバガがある一点をすり抜け姿が消え、
「ゾォアアァッッ!!」
ネガジャバウォックがその一点の喰い破るようにして突き抜けると、
「「「っ!!!」」」
唐突に、清涼な田園風景の空に出た。
反動で氷の結界が過剰に周囲を凍り付かせ、視界を遮りだした。
「私の行帰りにはなかったけど、幻術じゃないよね?」
結界を加減するロックローズ。
(違うピョ)
(ここが本来のアペフチ様の結界やねん。迷いの術はより強うなっとるからはぐれんときや?)
速度を落としたストレイルタバガに付いてゆく俺達。
「長年攻めあぐねていた本拠地がこれとはな。余は拍子抜けである」
(魔法の質が変わっただけで出力は変わっておらん。気を抜かんことだな)
「むっ?」
フェネクスが釘を差した通り、張られた魔力の構成には隙がなかった。
発動中の他人の魔法式の中に入り込んだような息苦しささえ少し感じるな。
でもってストレイルタバガは結構複雑な軌道で飛び、ネガジャバウォックは困惑させられだした。
ロックローズは氷の結界を解いて視界は良好にしたが、飛行速度の遅さにも参ってるようだ。
「オレ、こういう飛び方苦手だぞ?」
どーんっ、行くタイプだからな。よっし、
「ストレイルタバガ、アストロロジーに目印を付けてもらってもいいか?」
(ええで〜?)
「やってみます」
光の帯の目印の魔法をストレイルタバガの流星するマントの裾に付けるアストロロジー。
随分動線がわかり易くなった。
「アストロロジー! オレ、わかり易くなったっ」
「はい、よろしく頼みますね。ふふ」
ついていけるかどうかより癇癪が心配だったが、なんとかなったな。
光の帯をゆっくりたどりながら距離感のあやふやな田園の空を飛び続けると、昼の空は日暮れになり、すぐに夜になり、星空さえ見え出すと目当ての『アペフチの棲み処』が眼下に見え出した。
それは苔が屋根に張り付いた古びた茅葺きの家。アバドンさん家を二回り大きくして年季を入れた具合の家だった。
(到着やでっ!)
「天使の家がレベルアップした具合ね」
「爺さん婆さん好みなんだろ? ダハハ」
「······とっとと降りるのである」
アバドンさんも不機嫌になったことだし俺達はストレイルタバガに続いて門の前に降りた。
全員降りるとジャバウォックは小さめの姿に変化し、フェネクスも人型に変化し、キャニスターゴーストも変形して怪人型に戻った。
門には黒い毛皮を纏い大鉈を納めた鞘を腰に提げた長身で鍛え上げた褐色肌のイケメンが寄り掛かっていた。
「オグン! 皆さんをお連れしたでっ?」
オグン。アペフチ軍の幹部で黒犬の炎の魔人らしい。
「······中へ」
言葉少ななオグンは端的に促した。自分は門の前から動くつもりはないようだ。
「ども、ピロシだ。よろしく」
「······オグンだ」
「オグン! 今日で和議だピョ!」
「そうか」
通い慣れてるヴクヴ・カキシュの方が対応が柔らかいオグン。
「ちょっと! ピロシっ、イケメンだわ。この迷宮にイケメンがいるわっっ」
「いや知らんけど」
小言で色めき立つロックローズに呆れつつ、玄関に向かった。
ノックするストレイルタバガ。
「アペフチ様! 皆さんお越しですっ」
訛りを抑えてそう告げると、
「入ってもらいなさい。ボルケーノは『玩具の着ぐるみ』から出ること」
厳格そうな老婆の声がした。
「なにぃ?!」
「無礼ダゾっ!!」
特にキャニスターゴーストが怒りだしたっ。マズいな。
「ボルケーノ、言うとおりにしてくれるか? キャニスターも堪えてくれ。話が進まない」
「グヌヌッッ」
「······よい。返って面倒だ」
ボルケーノがとんがり頭を開いて本体を晒して俺の頭に飛び乗ると、キャニスターゴーストも黙って引き下がった。
「ほな、ゆっくりやしてきぃや〜」
ストレイルタバガは『アブラナ蕪のカンテラ』に変化して玄関の上の留め具に吊り下がった。
「じゃ、行くか?」
「いざ陰険クソババアの城へ!」
「聞こえているっ」
ボルケーノとアペフチがドア越しに牽制し合いつつ、俺達は扉を開けて中へと入った。
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中は竈、暖炉、ランプ等に火が灯る、古風な田舎の家、といった具合。
外観と違い、無骨で生活感のないアバドンハウスとは全く別物の『誰かの懐かしい実家』のようで、こういった趣向の絵の中のようでもあった。
「幻術?!」
構えるロックローズ。
「お前はそればかり言っているな」
「うっ」
呆れた様子で杖をついて待ち構えていたのは、『田舎の地主の婆さん』といった風貌の人物。だが、魔力は漲っている!
「あなたがアペフチ、ですか?」
「そうだ。私が6層、『その他の火の魔物達』の首魁、アペフチだ」
鋭い眼光だった。
「そして『あちし』がその眷属! 月の兎っ、『クルー』だよっ?」
大柄なアペフチの後ろからメイド服を来た小柄は兎の獣人が顔を出した。尻尾の先に『輝く炎』を灯している。
「みんな、御飯、食べるよね?」
え?
「オレ、食べる! ゾォアァーーッ」
「食べるピョ! フェネクス様も食べるピョっ」
「いや、我は別に······」
「んじゃっ、あちしが用意するねっ! ヴクヴ・カキシュちゃんも手伝ってっ」
「ピョーっっ」
クルーとヴクヴ・カキシュは台所に行ってしまった。
「えーと、御馳走になります」
「まずは食べるといい。チビとポンコツにも食べられそうなの用意してやろう」
「余のことか?」
「ぽんこつダトっ?!」
不穏な要素も残しつつどうやらこれから会食になるらしい。
取り敢えず小腹は空いてるが、ちょい気まずいな······




