103話
剣呑な形とはいえ管理はされていたボルケーノの灼熱の支配域の環境改善は、ピロシと鍵の杖の成長も相まって3日で済んだ。
和議通り機怪城周辺以外の要塞化も解除され、ヴァーリン一派とアペフチ一派との緊張状態も緩和された。
合わせて4層の安定化も顕著となっていた。遅れていた本来のダークエルフ拠点の復旧も活発化し、当面コメリナはピロシ達が地上に戻る時以外はこれに専念することとなった。
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ネガジャバウォックがざっくりしてるから、張ってくれてる風の結界の中でも結構風を受ける中、俺は鍵の杖を手に自分の魔力の高ぶり加減を確認した。
地上で休まずそのまま来たが、まだいけそうな感じだ。特に環境改善に関しては耐性付いた気がすんな。
「今回はアストロロジーを連れてこれたから安心ね〜」
「慎重に予見します」
「うん、助かるよ」
とうとうアペフチと面会だ。
ヴァーリンの時もだったが相手が概ね友好的でも、味方全員引き連れて乗り込むってワケにもゆかない。
今回はネガジャバウォックの背に俺、ロックローズ、アストロロジー、アリッサ籠背負いのアバドンさん、いつものケムシーノ2体、ヨミロートス、ヴァーリン。
黒炎鳥化したフェネクスの背に特使をしていたヴクヴ・カキシュ。
それから『飛行形態』変形したキャニスターゴーストに乗ったとんがり頭のボルケーノ型機怪人に乗り込んだ小さなボルケーノ。
この3組でいく。だいぶ厳選した感じになった。
因みに俺達を案内してくれるのは、
(直にザリチュ様の祠跡やで? アペフチ様の縄張りはその先や!)
半ば流動化したマントを翻して飛行する『ストレイルタバガ』だ。コテコテの西方訛りの思念を送ってくる口の中に緑の炎を宿すアブラナ蕪の怪人。
カボチャモンスターの『ジャック・オー・ランタン』の支配者とも伝えられる魔物だ。
正直魔王軍に属してたという話は全く伝わっていないが、その割にはわりと有名なのは一応意思疎通可能で召喚術で使役可能なジャック・オー・ランタン達の王だからだろう。
ジャック・オー・ランタン達は彼? のことを、
『囚われの空っぽ頭』
『煤けた灯し火の大将』
『逆巻くボロ切れ流星』
等と言っているという。中々の言い草······
なにしろ目撃例皆無のモンスターだから、一種の種族の祖霊信仰の類いで実在はしない。というモンスター学者もいたが、こうしてわりと気さくに案内されると奇妙なもんだ。
ストレイルタバガはここ数日、特使としてヴァーリン宮殿に滞在していた。
「祠ってアレか? え〜っ?」
ボルケーノの支配域の東端中央辺りにそれはあった。崩れ去っているが、その周囲だけは炎熱化せずに砂漠になっており、一方で凄まじい負と渇きの力に満ちていた。
(アペフチ様も機怪城の主もここには手を出せへんかったんや。そもそも、機怪族の連中らザリチュとムキになって争っとる内に段々おかしくなっていったんやで? 魔女も罪作りなこっちゃ)
(急に現れて退けと言われれば怒りもしよう)
「そりゃそだな。鳥の方は7層のヤツらが上がってきたから御愁傷様だったがよ、ダハハ」
(ほんま、難儀やったんちゃう?)
(······)
色々大変だったらしい5層組。
「まぁ、とにかく呪いだけは解いとこう。端にしてもここだけ引っ掛かってる感じはあったが、こんなんなってるとはな」
「手伝うのである。棲み処くらいは直してやらんと、またゴネだす」
「よっし、やろう。ネガジャバウォック、いい感じで留まってくれ、集中する!」
「ゾォアっ」
俺の杖とアバドンさんの光の力に多数のアイスジェムとウォータージェムを合わせ、ザリチュの祠跡とその周辺の呪いを解除した。
(ほぉ~っ? さすが当代マスターと看守天使や。これを解除するか〜)
「ヤツの結界は維持しておいてやるのである。ヤブヘビになる」
「じゃ、基点がいるね。ボクが砂海棗の樹を植えておこう」
ヨミロートスが輪状に呪いを失って弱体化した祠跡周辺の砂漠の結界の端に魔力を込めた棗の実を数十個放ち植えると、それらはあっという間に大木になった。
「後は私ね。······完璧!」
これにロックローズが結界の補強を行い、祠跡周辺の砂漠は強い結界で守られ、東西からの灼熱化の干渉から護られた。
「手間を取ってここまで小さく押し込めたのだ、まだあの魔女は下に降ろしてくれるなよ? アレは恨みがましいのだ。余は、億劫!」
飛行するキャニスターゴーストの背に設えた玉座から一応俺の聴覚に合わせて拡声効果の機械を持って怒鳴ってくる、迷惑顔のとんがり頭のボルケーノ。本体は中たから腹話術みたいなもんだ。
「順番は考慮するって」
「崩れた祠の補修は俺の配下にやらせるぜ。結構詳しいんだよ、気に入らないとうるせーし」
(ヤツは神経質だからな)
後処理もざっくり決まった。
俺達は中間地点にあるザリチュの祠跡を後にして、改めてストレイルタバガの案内でアペフチの支配域上空へと進入する。
こっからが本番さ。話はわかるっぽいんだが······
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偵察や予見、ヴクヴ・カキシュの話にストレイルタバガからも聞いていたが、アペフチの炎熱化支配域はかなり環境が保たれていた。
ボルケーノ支配域同様、野良モンスターはほぼいないか見過ごせる程度の個体しか徘徊しておらず、各所に立てられた巨大な燈火台を基点とした陣で毒気の発生はほぼ抑えられ、迷宮の崩壊も限定的だった。
有人の拠点の構成者や巡回らしい眷属達は『フレアトロール』『パイロワーム』『煉獄蝶』といった、いずれも炎の種族のモンスター。
6層首魁のボルケーノは他種族に無関心。もう一体の首魁もかなり特殊だから6層級の鳥系以外の火のモンスター達を全てアペフチが引き受けた感じだ。
いずれも統率は取れ、荒れた様子はない。
申し合わせも案内もなしにそのまま入ったら大変なことになってたろうけどさ。
「こりゃ大したもんだ、正式に許可が出たら2日くらいで環境改善できそうだ」
「5層に6層環境再現してるのがまずおかしいんだけどね」
「それな」
ロックローズの言うことももっももだが、ボルケーノ支配域付近の野営地跡は要塞化ではなく、強い結界の基点化していて護りが堅かったがそれ以外は要所以外は基本的に放置されていた。
ボルケーノ達と違いこの状況下でやたら眷属を増やすのは無理らしい。
単一種族の集まりでもないようだし、そりゃそうだろなと。
(ワースコーピオンなんかのザリチュの眷属連中の拠点跡も大体放置や。言うてもザリチュからして眷属は大体放置しとったようやけどなぁ)
「そんな感じだったな」
苦笑するしかない。
「······ボルケーノ達『向こう』まではほぼ関わってなかったが、管理し過ぎじゃないか?」
やや怪訝な様子のヴァーリン。
「アペフチのヤツは環境からジェムの類いを生成する術に長けている。その負担と、環境が悪化する負担の方を嫌ったんだろう。余達と違い、『生身』のヤツらが多いからな」
(時と共に負担になっとったのは間違いあらへん。さっさと話つけて、マスターはんにはこっちのテリトリーも安定化してもらわんと)
「それもそだな。アストロロジー、なにかよくないことは感知できるかい?」
「いいえ。ただアペフチ様に近過ぎることは怒られてしまいそうです」
「ああ、道中だけでいい。部屋を覗かれるようなもんだろからさ」
結果的だがここまでそれなりに段階を踏んだ。
俺達はこの5層に発生した炎熱地帯のもう1体の首魁にして『火の賢魔』アペフチの拠点へと急いだ。




