102話
首魁達の協議用の広間の前に前室が用意されていて、今日参加する首魁や代行なんかのお供の幹部眷属達が待機していた。
「お? あんたが『キャニスターゴースト』か」
他の者達から遠巻きにされていたのは『缶』のような器官を多数持つ大型の機怪人、ボルケーノの眷属幹部の唯一の生き残りだ。
俺達が攻め込んだ際はアペフチの牽制に向かっていたらしい。
既に彼? のマシンジェムとウォージェムは没収済み。すぐに大量再生成されるもんでもない。
「今日、改めてボルケーノと交渉する。あんたもよろしくな」
握手しようと手を差し出したが、
ぱーんっと、手をはたかれてしまった。金棒みたいな手と剛力だ。咄嗟に杖が防御しなかったら右手がミンチになってたろう。これに、
「「「っ!」」」
ケムシーノ達とヘルスパルトイとツルベ火クィーンとコメリナが殺気立ってキャニスターゴーストを取り囲んだ!
スキュラとロックローズとゴールドスコップは水と結界と氷のポールアクスで俺とアストロロジーを守り、アリッサ籠を背負ったアバドンさんは腕を組んで様子を見ていた。
「いや待った待ったっ。しょうがない。俺も距離感間違えた。おいおい折り合いはつけてくれよ? あんた達にとっても悪くない話だからさ」
皆をキャニスターから離し、守りも解いてもらう。
「······図ニ乗ラナイコトダ」
「はは」
取り敢えず笑うしかない。
他の幹部眷属達やオークジェネラルのとこの上位兵達なんかも気まずいぜ。
ザリチュは意思疎通可能な眷属がいなかったから、『尾を引く』タイプの事後対応をわかってなかったぜ。トホホ······
「すいません。『大きな危険』を予見していなかったので、見過ごしていました」
「いや、いいんだ」
アストロロジーに気を遣わせちまったな。ちょい甘かったぜ。
スキュラとコメリナとアストロロジーはここに残ってもらい。俺達は協議の間に向かう。
「迷宮林檎のエルフクッキーあげるわ」
「助かる」
ロックローズがくれたフルーツケーキとクッキーの中間のような甘みの薄い菓子をもしゃもしゃ食べきる。よっし、切り替えよう。
_____
協議の間にはビッグヘッド以外の首魁とキングの代理のオークジェネラルとビッグヘッドの代理の不慣れそうなゴブリンシャーマン個体がスライム椅子で待っていた。
アペフチへの特使をしているヴクヴ・カキシュもすっかり回復した姿でフェネクスの隣に座っていた。
小さなボルケーノには小さなスライム椅子が与えられている。
「揃ってんな」
「あの!」
シャーマン個体だ。全員の視線が集まり縮こまっていた。
「ビッグヘッド様はいらっしゃってはいるのですが、回収したジェムの解体作業があるとのことでっ」
「ああ、さっき寄ってきた。ゴブリン族の話はもう聞いてきたよ」
「そ、そうですか。はい······」
ビッグヘッドは凝り性で素っ気ないとこあるから部下も大変だ。
俺達は自分達用の椅子に座った。さて、
「ボルケーノ。機怪城周辺以外の野営地や予備拠点の要塞化は解除してもらうよ? アペフチのテリトリー付近もだ。向こうが協議の条件に出してきてる。だな? ヴクヴ・カキシュ」
「そうだピョ! あと、向こう特使もこっちに常駐させるって言ってきてるピョ」
「ピロシ、俺は構わないぜ? ま、なるべく話し易いのが来てほしいけどよ」
「うん。特使の件はよろしく頼む」
「ピョ!」
ちょい話が逸れたが、改めて小さなボルケーノに向き直る。椅子の隣に念入りに封じられたとんがり頭部も置かれている。
「······それは構わないが、3つだ。正式に協力するには余から当代『ネジマスター』に条件が3つある」
来たな。ネジマスターではないがっ。
「1つ、6層に帰還できるまで、支配域の縮小は認めない」
強気だが、これは想定範囲。
「2つ、6層帰還を手伝え。『最後に残ってるヤツ』がかなりマズい」
そう、混沌化した6層に1体首魁が残ってるらしい。どんな状況だよ······
「3つ、アペフチから余達を守れ。あのババアは余達を嫌い過ぎる」
「長年突っ掛かり続けたからだろ?」
「自業自得だな」
「ぐっ」
ヴァーリンとフェネクスからのツッコミが厳しいボルケーノ。
「環境改善はするが支配域は当面これでいいよ。まず5層中部は『ザリチュの旧支配域』だったんだろ? そっちはもそっと掛かりそうだしな······」
アペフチにも退いてもらわないといけない。整理がさっぱりつかないぜ。
「3層も大概だったが5層は立て込んでるな。シュウゥッ」
一応降りてきてもらったが、現状特に提案はなさそうで手酌で酒呑んじゃってるリュブリャナ。
「いやしかし、私も人間体変化の練習してみるかな? どうにも乾いてしょうがなくてのぉ」
こっちはこっちで樽で持ち込んだ魔力を込めた水を柄杓でグビグビ飲んでるザトウマージ。
「身体の質を変えてみたらいいよ。ボクは身体は乾燥帯種の植物をベースにしてるんだ。君だと『オアシスの水』とか、『燃える水』とか?」
「んなもんアクセサリーかなんか重ねて付けとけよ。お前らの『水っぽい身体』は効率悪いんだよっ」
「ワタシなんて『大体水分』ですよ? ムフフフ」
「話は変わるけどよっ、俺達オークの作業は砂漠エリアまでだぞ? グリルポークになっちまうからな?」
よし。話が明後日にズレてきたな。戻そ。咳払いしつつ、
「オーク作業はそれでいいよ。えっと、6層はちょい先になるが、最下層まで環境改善する予定だから結果的に協力することになる」
むしろ協力してもらわないと困るワケで。
「最後の隣の支配域のアペフチは······ま、特使も来るし、あんたのとこの環境改善してる間にまずはそっちでも対話してみてくれ。対処はする」
「よし、では!」
スライム椅子の上に立ち、マントを翻すボルケーノ。
「余達、機怪族は『ネジマスター一党』に助力してやろうぞ! ギハハハっっ!!!」
「コイツ、偉そうだな。小突いてやろうか?」
「やめれって」
他人が偉そうなのは嫌いなクリスタルリトーを宥め、一応ボルケーノとの協議は一段落。
まぁキャニスターゴーストとか、配下は微妙だろうけどさ。
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その後の細かい協議の後、ボルケーノはとんがり頭部は限定解除されることになり、指定された作業部屋に向かったから、俺は協議で眠そうにしていたが付いてきてくれたネガジャバウォックと、ロックローズだけ連れてもうちょい話しに行ってみることにした。
扉もない簡素な部屋だ。
「入るぞ?」
「ゾァ? 油臭い」
護衛にキャニスターゴーストが付いていたが、置物みたいに黙ってる。
機械やその部品が雑然と散らばった小部屋だ。小さなボルケーノは機械触手で取り敢えずとんがりに顔を造っていた。どういう自己認識なんだか。
「なんだ? これ以上、余からの譲歩はない」
「いや別に。あれだ。戦ってる時、爺さんのこと言ってたろ? なんて言われたんだ」
少し気になっていた。
「ジェムの使い過ぎで酩酊気味であったがな······そうだな。あれは知った風なことを言うヤツだった。『どこにも行き着かないなら、戦わない機械を造ってみたらどうだ?』等と言ったな。どこにも行き着かないとは、無礼なヤツ。大体戦わない機械とはなんだ? 下等だろう」
「爺さん、結構言うよな。戦わない機械か」
アバドンさんは大元の機神には辛辣だっけな。
「ソフトクリームマシンでしょ? 実際は『資本の戦い』からは逃れられないけどね。ふふん」
混ぜっ返しにきたロックローズ。乗っとくか。
「じゃ、さっそく。資本の戦いに参戦するか?」
「しないわっ。余の頭部の円錐のシルエットだけで言っているな? 勇者よりクドい、安直者めっ!」
安直者って初めて言われたが、取り敢えず今度は電気熱線ブチ込まれたりはしなかったからよしとするか。
ここからしばらく『俺が主に都会で見聞きした便利な戦わない機械』の話になったが、最終的にキャニスターゴーストの機嫌がガチで悪くなったので退散した。
機械式アイロン、機械式洗濯機、機械式乾燥機、機械式洗浄機、機械式掃除機、機械式湯沸かしポット、機械式荷車等々······街には資本の戦いに参戦する勇敢な戦わない機械があった。
それらがどこに行き着くのかは知らないが、戦う方の機械の終着点よりかはたぶんマシな気はする。
といったようなことをもそっと話したかったんだが、そりゃまた今度だな、小さなボルケーノ。




