101話
砂漠地帯の古風な巫女服に着替え琵琶のような楽器を携えた人間体のスキュラがザリチュの錆びた王冠が封じられた塔の間に来ていた。
両膝をついて頭を下げるスキュラの背後には酒の甕を担いだ矮小体化したヘルスパルトイと、宝石でできた薔薇の花1輪を持った同じく矮小体化したツルベ火クィーンが控えていた。
尽きぬ甘露水の張られた泉の先の台座の魔女の王冠は気怠げ気配であった。
「ザリチュ様、鍵の主様の命で地上の大きな町の酒店で買いつけた人類用の酒です。イチジクで香りを付けた砂漠麦を原料としたよい品です」
「クピドと一緒に人間に化けて行って、愉快でしたぞ〜? ヒホホッ」
「こちらの花はクピド達とツルベ火クィーン様が造られました。枯れぬ花です」
「ビューティー、ヒィィっ」
(······苦い酒とガラクタね)
悪態をつきつつ、念力で甕と花を引き寄せ、甕は甘露水の泉の縁に置いて蓋を開け、花は台座の側に置くザリチュの王冠。
ゆるゆる酒を吸い込みだす。
(それは、弾くなら弾くといい。つまらなければここで死ね)
「はい。では······この時代のあなたの曲『渇きの君』を」
顔を上げ、座り直して琵琶のような楽器で物悲しい音色を奏でだすスキュラ。
見事な演奏であったが、前奏が終わると『当然』という顔でヘルスパルトイとツルベ火クィーンが曲に合わせて歌いだした。その歌声は、
「「あな恐ろし〜、砂つく風はぁああ〜〜」」
音痴であった。
(歌わなくていいっ! そのつもりで来たなっ? 死霊ども!!)
「ヒホホホッッ!!」
「ヒィ〜っ、ヒィィ〜〜っっ」
首魁2体の横槍と魔女の王冠の激昂にも負けず、滝の汗のスキュラはどうにか数曲、命を失わずに演奏し終えることができたのだった。
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敢えて飛行絨毯で5層のヴァーリン支配域を飛ぶ。
俺、アリッサ籠を背負いケムシーノ達を連れたアバドンさん。ロックローズ、コメリナ、アストロロジーのダークエルフトリオ。あとはゴールドスコップ、スキュラ、しれっと復活してるヘルスパルトイ、ツルベ火クィーンだ。
俺とアバドンさん以外は出所、条件付きの仮出所組さ。
「ピロシ、西部はほぼ完璧ね」
崩壊は止まり、毒気は抜け、上階からの水の落下が正常に機能しているからオアシスが増え、川も目立っていた。気温も少し下がり、砂漠の環境の維持が難しそうなくらいだ。
野良モンスターの過剰繁殖は凶暴化も収まって擬似的なダンジョン内の自然の循環が成立している。
中小の野営地、魔除けの街道も概ね問題無し。放棄されていた2次以降の拠点も再開発も進んでいる様子だった。
「ほぼ完璧ってそこそこだろ?」
「はい揚げ足取り。コメリナ、アストロロジー。これがモテない男の哀しき習性よ。弟みたいなこと言う」
「言い過ぎです」
「さすが土壇場でソフトクリームに変えてやろうか? と言ってのける男は面構えが違う」
「コメリナも言い過ぎっ。ピロシ様、口が軽くても行動が伴えばいつか結果はついてくるものです」
「······了解した」
ダークエルフトリオは連携してトドメ差してくるストロングスタイルなところあんな。
「まぁ、ピロシが元芸人のわりにはパッとしないのは脇に置くとして」
脇に置くジェスチャーをするゴールドスコップ。
「5層なんてほとんどの代で縁はなかったようだけど、ヴァーリン達、平時でこれだけ環境がいいならもっと栄えてもいい気はするね」
「砂漠環境の5層渇きの海は、炎熱環境の6層赫灼倉の熱を受け止める層である。今は混沌に沈んでいるが、6層が正常化すればその熱を改めて受けることになる。今の環境は魔力の濃さを鑑みれば一月もすれば草原に変わりかねないが、これは仮初の潤いに過ぎないのだ」
なみなみとした水のオアシスの1つで、泳ぎはしゃぎ、こちらに気付いて手を振るワーマシラの一団を見下ろしながらアバドンさんは淡々といった。
「なるほどね」
「あくまで我々は受刑者ですぞ? ヒホっと私は仮出所できていますが!」
「地上楽しっ、ヒィっヒィ〜〜」
アンデッド首魁コンビはお気楽だぜ。
「井戸のお水の美味しいこと」
スキュラも上機嫌。今回の休暇ではザリチュの王冠への謁見を認められ、酒や楽器の演奏等を捧げてきてくれた。
ザリチュの機嫌も気になるところだ。
俺は『今、話すことはない』と面会拒否られてるワケだが······
等と雑談していたが、程なく城壁の復旧の進んでるヴァーリンの都が見えてきた。
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4層で補充したらしい絵札兵達の警備が厳重な宮殿内を全員で進み、目当ての部屋に立ち寄る。
「おや、主殿。お早いお戻りで」
「配置換えしてほしいでしゅ!」
ビッグヘッドと黒玉仙が錬成スキルを習得したゴブリンの助手達と共に、作業をしていた。
ボルケーノ達から回収した大量のマシンジェムとウォージェムの解体と変換再利用をする錬成だ。
まだ技術が甘いらしく結構大掛かりな補助装置が使われていた。
「配置換えはちょっと待ってくれ。お前らの大将はこういう作業やらないし、エビルカーバンクルも細々したのは苦手みたいだからさ」
「でしゅ〜······」
「にしてもすごいな」
ボルケーノ達はある種の彼らの生体機能として使いこなしていたが、それを技術として利用している。
「機怪人達やその拠点を解析して一部技術を拝借しています。覚束ない資料と実物では段違いでしたな。ただ一定の線引きがあるようで、やり過ぎると神の制限で上手く機能しなくなります。加減がありますな」
「へぇ」
「過去の戦いでお前がさっさと討ち取られたのは僥倖であったのである」
「お褒めに預かり」
珍しく芝居掛かってビッグヘッドに一礼されるとアバドンさんは鼻を鳴らした。
「ジェム以外にもなんか生成されてるわね?」
「ウォージェムの方は酷いな」
「溜まってしまうと事故になる、と予見できます」
解体によってガイアジェム、サンダージェム、ダークジェム、ファイアジェムが生成されているが、それと共にランダムらしい諸金属類と未分化な呪いの素材がいくらか発生していた。
「金属と真っ当な属性ジェム以外は、負の生成品。今、ここのビショップ個体やリュブリャナの所のプリースト個体等と協議している。ただ負担は大きい。主殿。たまにここに立ち寄り当面は溜まった呪いの生成品物の大まかな再解体の補助を行って頂けませんかな?」
「そりゃ構わないよ。早速やる。たぶんこの杖、こういうの得意なんだよな?」
要は浄化作業の応用だろ? 俺は杖を構えた。
バシュッ! 5割程度、呪物を浄化して塵やただのガラクタに変え、残りも負の汚染度を大幅に下げた。
「「「お〜」」」
ゴブリン助手達が感嘆し、拍手までされたがちょい気恥ずいな。
「ソフトクリームよりウケたぞ?」
耳打ちしてくるコメリナ。しつこいっ。
「もうここに就職するしかないわね」
反対の耳に耳打ちしてくるロックローズ。得意のエルフ連携だよ。
俺は2人を押し退けつつ、
「上手く俺が来れない時は、アバドンさんクピド達に手伝ってもらえないかな? 直接の攻略じゃないし」
「であるな。ヤツらはガーデンを急拡大し過ぎている、交代で1人はここに降ろすとしよう」
言った側から光の陣でキックエルを召喚するアバドンさん。椅子に座ってココアを飲みながらドーナッツを食べていたキックエルは椅子ごと喚び出されて仰天していた。
「ッスぅーっ??」
「なんだかんだでボルケーノ一味は世話が焼けるもんだねぇ」
「だな〜」
ゴールドスコップに同意せざるを得ない。
でもってこの後、当のボルケーノと協議だよ。どうなることやら。




