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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
高校編
25/25


 正直俺らみたいな、ただの高校生が。人様のご家庭に口出しするなんざ、思い上がりも甚だしいと理解してはいる。

 虐待されているとか、千那が病んでるとかなら話は別だけど。


 じゃあ、なんで首を突っ込むのかって?そりゃあ………



 コイツが俺のケツを狙う可能性が、僅かでも残ってるからだよ!!!


 義兄さんは大丈夫でも、千那は別の切っ掛けで俺に興味を持つかもしれん。

 自惚れですって?ごめんなさいね。安全圏にいる奴には何も言われたくないがな!


 なので千那の問題を解決して家庭円満、誰かに執着とかしませんよ、な方向に持っていきたい。




「さっきの。俺と珠々が付き合ってるの、なんで気になったんだ?」

「だから、忘れてくれって…」

「やだね。もしかして珠々狙ってた?だったら困るんだけど」

「そ、そういう訳じゃない!」


 ならよかった。そろそろまだるっこしいのはヤメだ、正面から切り込む。



 エレベーターを降りても部屋には戻らず、自販機の横にあるソファーに腰掛ける。千那にも勧めると、躊躇いながらも隣に座った。



「じゃ、なんで?」


 俺の問いに、答えはない。けれど…五分程そうしていたら、か細い声が聞こえた。



「……別に。大橋に、妹を紹介したいな…って、思って…」

「ふうん」


 …不自然すぎる。もしかして妹が、この美少年っぷりに一目惚れしたか?それなら納得しかないが、千那の態度から違うと察する。



 だって今の千那は。

 大橋家と縁続きになりたいが為に、自分の娘や孫を「優深くんの婚約者に」と差し出してきた大人と、同じ目をしている。



「それ、誰に言わされてんの?」

「えっ!?なんで……あっ」


 千那は俯いてしまった。こいつ…誤魔化すの下手だな。いっそ楓よりも。


「妹さん?」

「違う…」

「………お母さん?」

「っ!?」


 千那は弾かれるように顔を上げた。ビンゴか。

 よし、大体分かった。


 これ単にお母さんが妹さんを、俺みたいな好条件のところに嫁がせたいだけだわ。

 ついでにお兄さんには、名家の女性に嫁入りしてほしい、と。



「先に言っとくが、楓は一華が好きだからやめときな。

 拓馬は……絶対やめろ、俺は友達の妹さんが不幸になる姿は見たくない。

 んでユキ先輩も駄目。聖一郎くんも……ちょっと無理。

 つまり、俺周辺は紹介できる男いないぞ」

「沖原は何したの…?」


 そのうち分かるよ。

 否定しないっつーことは、俺の考えは正しそうだな。



「なんでお母さんはお前使って、妹さんのお相手探してんの?」

「…母親が娘の幸せを願うのは、普通のことだろ」


 それは分かるけど、やり方おかしいだろ。なんで千那も言うこと聞いてんだか。

 いっそ妹が大嫌いだから、追い出したくて手当たり次第に声掛けてる、って言われたほうが納得するわ。


「……お母さん厳しい人?」

「まあ…大橋のところは?」

「優しいよ、遅くにできた息子だからかもしれんが。

 俺がいい子に育ったから、厳しくしつけする必要が無かったのかもな〜」

「………いい子…」


 突っ込めよ恥ずかしい。

 自販機で炭酸ジュースを二つ買い、千那に一つ渡す。


「ぷへぇ…まあアレだ。妹さんに、「自分で恋愛しなさい」って言っとけ」

「……………」


 千那は缶を開けず、膝の上でぎゅっと握り締めている。



「……うちの母、さ。オレだけに…異様に厳しいんだ…」



 きた!!!さあ、どんとこい!



「……なんで?」

「簡単な話だよ。まず兄は庵家の跡取りとして、大事に育てられた。

 妹は末っ子で女の子だから。両親や使用人、みんなに可愛がられて育った。

 オレは…ただの、兄のスペアだから。家の役に、兄の役に立ちなさいって言われて育ったんだ」



 千那は缶を開け、ぐいっと呷った。



「本当にそれだけ。衣食住は不自由なく与えられたし、小遣いだって充分貰ってる。

 ……でも、オレ。物心ついた頃から。一度も……両親に褒められた記憶が、無くて」

「…………」

「悪さしても、引っ叩かれて終わり。

 この間ベッドの上から落ちたってやつ。あれも母だよ。

 月見山さんに見合いを断られて…どうしてそこで引いたんだ。彼女も兄と顔を合わせれば、絶対お気に召すはず。って…

 母は兄のこと、世界最高の旦那候補だと思ってるから…」


 すげえ…そんだけ自分の子育てに自信あんのかな。

 でも一華の好きな人、楓だけど。東雲家を敵に回す覚悟はおあり?


 と言ってみたら、「やっぱりそうなんだ」と笑った。…始めて見る笑顔だ。

 千那は子供の頃から常に微笑んでたけど、やっぱ作ってたのかな。今のほうが疲れきってるけど、自然に見える。



「オレさ。将来は兄の役に立つよう、議員になれって言われてて」

「へえ…」

「大人になるってそういうもんだって思ってたけど。

 最近は「それでいいのかな」って、わかんなくなって…。でもそれ以外に、オレの将来は無くって…」


 ……それは、俺にはどうにも…

 けど、千那が本気で苦しんで悩んでいるなら…



「両親にとってオレは…息子じゃなくて。家を上手く回す為の歯車……

 道具でしかないんだって、認めるしかないのかな…」

「…………道具……?」



 その言葉に。なんだろう…胸が痛い。

 違う…すごく、熱い?



 胸の奥というか、腹が…ぐつぐつと、煮えたぎっているような。


 どうしてかわからないけど。このままじゃ、いけない。

 姉ちゃん(いちか)も絶対、同じ事を言うだろう。





 急に黙って俯いた俺の肩に、千那が心配そうに手を置いた。

 大丈夫…ちょっと眩暈がしただけ、だから。



 それよりも最後に、確認したい事がある。

 改めて向き合うと、千那は背筋を伸ばして喉を鳴らした。



「千那。例えばの話なんだけど。

 ご両親に「この人と結婚しなさい」って、祖父母世代の女性を紹介されたら。結婚する?」

「…!……………嫌、だけど……多分…する…」



 そうか。うん、分かった。


 これは一度、庵家と話す必要がありそうだな?

 うちは金持ってるし、社会的地位もある。ま、あくまで()()でしかない。

 庵みたいな歴史ある家系に、ただの高校生が口出しなんざ出来ねえ。だけど。


「俺、力になってくれそうな大人知ってるから。ただのガキじゃなくて、立派な大人が!

 だからお前に何かあったら、絶対味方になってやる。分かったな?」

「………なんで、そこまで…」


 千那は目に涙を溜めて、俺を見上げる。



 あ ヤバい。

 このままだと…BLルート行きそう。


 あかん、今の俺スパダリっぽくね?

 身も心もボロボロになった主人公(?)を救うヒーローっぽくね?駄目だ、俺のヒロインは珠々だけだ!!!



「か、勘違いすんなよ!俺は別に、お前のことが好きな訳じゃないんだからなっ!」



 ツンデレかよ!!!千那はポカンとしてる、いっそドン引きしろよ!!!

 背中を冷や汗がダラダラ流れるが、千那は小さく吹き出した。



「……ぷはっ!なんだそれ…何言ってんだお前!

 あは…あはははっ!!」

「ぬう…」


 くっそ、恥ずいわ。でもま、仕方ねえよな。

 俺はいそいそとスマホを取り出し、電話を掛けた先は…



「おはよう義兄さん!!次日本に帰ってくんのいつ!?」

『………まず、優深。こっちは夜中なんだけど…』

「こんばんは。夏樹(※甥)と蘭(※姪)起きちゃった?」

『こんばんは、それは平気』

「よし!で、いつ来れる?」

『………全く、仕方ないなあ。ちょっと待って、スケジュール確認するから』


 やったー。電話の向こうで義兄さんは苦笑気味、頼れる大人ってステキー。

 横で千那が「いいのか!?迷惑じゃないか!?」と小声で言ってるが、手でシッシッと追い払う。



『……もしもし優深?日本に行けるのは、早くて九月だね』

「分かったよろしく!お土産も忘れないでね!」

『君はもう…ははっ』


 ではおやすみなさい。大人確保!



「夏休み明けに、庵家突撃訪問ね」

「えっ!?え、えっ、え?」


 語彙が無くなっとる。でももう決めたから。

 そろそろ他の生徒も起きる時間だ、部屋に戻るか。



 千那は俺と話したそうにしていたが。

 この日はもう、全部笑顔でスルーしました。



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