02
進学し、早二週間。
この日は…友達がみーんな予定があるって。空いてるのは私と…
「どっか寄り道するか?」
この、優深ちゃんだけである。
「優深ちゃんさあ、今彼女持ちじゃん。私みたいな美少女と二人きりって、いいの〜?」
すぐに帰る気にもなれず、教室で雑談をする。
彼と電話はよくするけど…こうした時間を過ごすの、なんか久しぶり。
「いーよ。珠々も…「他の女の子は嫌だけど、ちかちゃんは全然いいわ!」って言ってるし」
「あはは、私ってば信用されてるのね。…………」
優深ちゃんの運命が変わった時から。私は…
「…優深ちゃんさ。前世の私のこと、自分のこと。思い出せる?」
「…………」
教室に僅かに残っていたクラスメイトもいなくなり。完全に2人きりになったところで…告げる。
徐々に、数年掛けて。私の記憶は溶けている。
「…前世は姉弟で。それだけ…俺達は何歳で、なんで死んだのかすら思い出せない」
「………私も」
それ以外のことは、鮮明ではないが覚えている。自分達に関することだけ…靄がかかっているように見えない。
いつか全部、忘れちゃうのかな。
「まあとりあえず…今は前世と比べ物にならない美男美女ってのは確実ね」
「ああ、違いない」
互いに目を見つめ、小さく笑う。
数年前から、考えていたことがある。
私達に前世の記憶があるのは。すうちゃん達を救って…未来を変えるためだったのでは、と。
その漫画の内容も、子供の頃に書いたメモを見ないと思い出せないけど。本来なら私達は、こうして笑い合うこともなかったはず。
「ここは漫画の世界に限りなく近い…はずだけど。前世の私って、腐ってたんだねえ…」
「確かに…」
「「……あははっ!」」
それでいい。私達はこの世界で…幸せだから。
なんか久しぶりにゲーセン行きたい気分!でも一応名門校の制服だから、一旦帰って集合だ。
今はただ、高校生という大事な時間を楽しむぜ!!!
*
「このこの、えいっ!!」
「やったな!!おりゃっ!」
「ぬーーーっ!!」
「ふんっ!くらえー!!」
うおおおおおっ!!!
ガチャガチャガチャッ!と忙しなく手元を操作する。ヤバい、優深ちゃんの必殺技がくる…っ!!
ジャ ジャーン デーテレッテーテー
「あーーーっ!!!」
「っしゃーーー!!!」
画面には K.O LOSE と表示が…!
白熱したバトルは、気付けばギャラリーが多数いて。
優深ちゃんがガッツポーズを決めながら立ち上がると、わーっ!!と歓声と共に惜しみない拍手が送られた。
お次はレースゲーム。
「俺がそのアイテム取ろうと思ってたのにっ!!」
「おーっほっほっほ!!」
勝者、一華!
よし、次は音ゲー!
タンッ タタタンッ タッタンッ♪
「「……!っ……、…っ!!」」
2人共無言で、ひたすら光るパネルを叩く。中々のスコア!
「「ふー…」」
いやー、遊んだわ。高校生になってやっと、付き人無しで外出できるようになったから、はっちゃけすぎた。
「多分だけど、俺達。前もこうやって遊んだんだろうな」
「きっとね」
だって私達、ゲーセン行ったの初めてなのに。
あの騒がしさも、ゲームの遊び方も。魂が覚えてる…って感じだったもの。
コンビニでジュースを買って、迎えを呼ぶ前にのんびり散歩。適当に歩いてたら、土手に出て来た。
「「…………」」
ここまで来たら…やるっきゃねえっ!!!
シュパパンッ!!
「見た!?五回跳ねたわ!!」
川に向かって石を投げる、所謂水切り!平らな石をかき集め、いざ勝負なり!
スパパパパッ!
「お、八回〜」
「うそっ!?ま、負けないわよ…!」
ぎゃー ぎゃあ! あー…
「…ん?」
「十回、今絶対十いったってば!」
「いいえ九回ですーう!数え間違いよ!!」
はあ、はあ…!
互いに顔を真っ赤にして睨み合う。
そこにふと、視線を感じ。なんとなく振り向くと。土手の上に…
染められた茶髪を風に靡かせ、いつも微笑んでいる庵くんが立っていた。
制服姿で…ここ学校から八駅くらい離れてるんだけど。家この辺なのかな?
どうやら気付かれたのは想定外のようで、躊躇いながら降りてきた。
「こんにちは大橋、月見山さん」
「ああ、こんにちは」
「こんにちは」
直前まで喧嘩していたなど、微塵も思わせない笑顔で答えた。手遅れだけど、一応学校じゃクール&大和撫子キャラなので!!
「えーと…何してるの?」
うん、誤魔化せなかった。庵くんは私達から若干距離を取ったまま訊ねる。
「水切りだよ。今勝負してたんだ」
「水、きり?」
「やったことない?」
「無いかな…」
庵くんは首を傾げて、深優ちゃんの持つ石を眺める。こう持って、こう…投げるっ! 実演してみせると、ほー… と感心した声を出す。
「やるか?」
「いや…下手だろうし…」
「そりゃそうだ、初めてやるんだろ?」
「私達も最初は、一回も跳ねなかったのよ」
「そう…?」
そうそう!
庵くんは興味はあるみたいで、カバンを地面に置いて石を持った。そして構えて…投げたっ!
残念ながらボチャンと落ちてしまったけど。二回目は一回跳ねた!するとちょっと面白くなってきたのか…腕まくりをして気合いを入れている。
数分後。
「あ、六回」
「「なにっ!?」」
庵くん、飲み込み早い…!このままでは追い抜かれてしまう!!
キャラも忘れ、親の敵のように石を投げまくる私達。庵くんは引きつった顔をして、土手の階段に腰掛けた。
そして、控えめに言葉を発した。
「………あのさ、月見山さん。オレの家からきみんちに、お見合いの話が行ってんだけど…聞いてる?」
え。手を止めて、優深ちゃんと一緒に振り返る。庵くんは気まずそうに目を逸らし、頬を指で掻いた。
いや…初耳だな。高校生になった私には、色んなところからお見合い話が来ている。もしやその中に?
帰ったら確認してみよう。そう告げると、庵くんは「分かった」と言い残し去っていった。
変な空気になってしまったので、私達も解散して帰宅。真っ先に、お見合い写真を全部見せてもらった。
上から確認していくと、何冊目かに庵家のものがあった。けれどこれは…千那くんじゃないぞ。名前は『庵秀輔』……だ、誰だ…
庵くんに似ているが、やや年上っぽい…つまり?
部屋に写真を持って行き、お久しぶりの漫画メモに目を通した。ふんふん…
ゆっくんは……嫉妬深く、最後まで拓馬に対抗していた。兄と妹がいるらしいが、漫画には名前も出ていないので詳細不明。
このお兄さんが、私のお見合い相手?
夕飯の席でお父様に話を聞く。そこで庵家は代々続く地主の家系で…お兄さんは跡取り息子だと知った。ふうん…
まあいいや。お兄さん含めて、全員お断りすると両親に伝えた。
二人共驚いてるけど、今後新しく送られてきても、全部いらないともお願いする。
「あ……でも。その…
も、もしも。東雲家から届いたら……教えて」
「「ふうん…?」」
くっ…!両親がニヤニヤと、私の顔を覗き込む。なんか言いたいことでもおありで!?いいじゃん別に!!
***
庵くんには直接言っておこう。朝、教室の後ろのほうに呼び出す。
焦ったような庵くんに「一度会ってみようとかもダメ?」と言われたが…それもお断り。
相手に不満があるとかではないので、どれだけ良い人でも無理。なんというか……その。
前から誰かに告白されたり、お見合い話を持ち掛けられる度に…私は。
どうしても…戦隊ヒーロー大好きな、八重歯が可愛い男の子を思い浮かべてしまう。
なんと言いますかね。最初は彼の片想いだったけど、いつの頃からか。
私も彼に惹かれていると…自覚してしまったんだ。
楓と私が同じ気持ちなのか、本人に確かめた訳ではない。向こうはとっくに冷めていて、私が1人舞い上がっているだけなら哀しいピエロだが…
そんなの恐れていては、恋愛などできぬわ!!
「と…とにかく。私、好きな人いるから…」
「そっか…わかった、無理言ってごめん」
「ううん!」
お互いに頭をペコペコ下げて、この話はおしまい!
席に座ってカバンの中身を出していたら、後ろから指で突かれた。
そこには栞ちゃんが、目をキラッキラに輝かせていて。鼻息荒く、それでも興奮をどうにか抑え込んでいる様子だ。
「ね、一華!あのさ…好きな人がいるって、マジ!?」
「えっ!!?」
聞こえてた!?一瞬で頭が沸騰しそうに熱くなり、続く言葉が出てこない。
「ウチ今めっちゃ根掘り葉掘り聞きたい気分なんだけど。オッケ?」
ぐ……ここでは、ちょっと。
その後合流したすうちゃんと共に…放課後我が家に集まることとなった…
*
「…だから。好きになった切っ掛けなんて無いのよ。気付いたら、だもの」
「「ひゃあ~~~!!」」
栞ちゃんもすうちゃんも、真っ赤な頬に両手を当てて叫ぶ。もう勘弁してぇ…
「かえちゃんって昔から、ちかちゃんのこと大好きだもんね~」
「そうなの!?なんでコクられてないの?」
それが…その。アホな話ではあるのだが。
彼は私の「楓がいい男になったらね~」という言葉を律儀に守っているらしいのだ。私の馬鹿!!
その為自分磨きに勤しんでいらっしゃる。これは優深ちゃんが「お前は充分いい男だぜ」と言ってくれたお陰で、大分自信を持っているけれど。
問題はそれだけではない!これはレンさん情報なんだが…
「楓は……私が、髭好きだと思ってて…
髭が生えたら、告白するつもりらしい…の…」
沈黙、からの数秒後。
二人は狂ったように大声で笑い転げ…腹を抱えて呼吸困難になっていた……短パン見えてるよ栞ちゃん。
ならば私から告白すればいいのだが。諸事情あり、それも難しい。
なのでどうにか楓から言うように仕向けたい状況なのである。
もう早く告白してくれよお!私もすうちゃんみたいに堂々とイチャイチャしたいよお!!
***
翌朝。
「一華!おはよう!」
「おはよ…楓…」
「珠々も、栞子もおはよう!」
「「おはよう」」
楓の背中を見送る。二人のニヤニヤ顔はスルーする。くっそー、告白ってどうさせればいいんだ…!
ホームルームが始まる直前に、庵くんがギリギリで登校してきた。
「ん?どうした庵、その怪我」
「アハハ…寝ぼけてベッドから落ちてしまいまして」
庵くんは頬に大きなガーゼを貼っている。
先生は「気を付けろよー?」と軽く流し、クラスメイトも「ドジだな」と笑う。
だが私は、なんだか嫌な予感がして。同じ考えだろうか、難しい顔をしている優深ちゃんと頷き合った。
昼休み…私達はけっこうバラバラに過ごしている。沖さんとか、撮影でいないことも多いしね。今日は…
「ごめんねすうちゃん、ちょっと優深ちゃん借りるね」
「はーい!じゃありこちゃん、今日は二人で食べよっ」
「オケー」
ランチバッグを持って学食へ向かう。広い学食はお弁当スペースもあるのだ。
そこには先に優深ちゃんがいた、向かいには…
めっちゃ困惑顔の庵くんもいる。優深ちゃんに誘ってもらいました。
私と庵くんはお弁当、優深ちゃんは学食で買ってきた。ではいただきます。
「今日俺、拓馬達とカラオケ行くんだけど。庵も来ない?」
「オレ?いや…迷惑じゃないか?」
「いや全然、特に楓は大歓迎だと思うぞ。後は二年生が一人いるけど」
「……じゃあ、お邪魔するよ」
何それ、私聞いてない。誘えやコラ。
が…沖さんはSNSに上げる為、女子が映っていると説明が面倒らしい。じゃあいいか。
何故かというと…先日放送されたバラエティ番組で、沖さんは見事な音痴を披露した。ヤラセとかでなく、彼は本当に下手なのだ。
なので「もう歌ヘタとか言わせない、放課後友達とカラオケで特訓でーす」って流れ。
食事も終わり片付け始めたら…庵くんが控えめに口を開いた。
「それで、なんで今日はオレを誘ってくれたんだ?」
「あー…ちょっと、聞きたいことがあって」
優深ちゃんは私にアイコンタクトを送る、頷いて返事した。
「今朝ベッドから落ちたっての、嘘だろ?」
「えっ…」
庵くんは鳩が豆鉄砲を食ったよう。けれどすぐに微笑んだ。
「はは…そんなこと」
「普通、肩や背中とか打つだろ」
「怪我をするほどの勢いで顔から落ちたら、今頃病院だと思うよ」
「……………」
彼は返答に困ったのか、口を閉ざした。
あの怪我は多分…誰かに殴られたものだろう。わかっちゃうんだよねそういうの。
これは単なるお節介。それでも庵くんが拒絶するなら…私達は踏み込まない。
「というか、その。勘違いだったらひっじょ〜に恥ずかしんだけど。
私がお兄さんとのお見合いを断ったの…関係あったり?」
タイミングがよすぎて、それを疑ってしまう…
しかし庵くんは…微笑むばかりで何も答えない。
その無理矢理作ってるような笑顔に、鳥肌が立ってしまった…
庵くんは先に戻ると言って立ち上がり、振り返ることなく学食を後にする。
私達はその後無言で片付けて、遅れて教室へ向かった。
*
今頃男子はカラオケかなーと思いながら、ベッドに仰向けになり漫画メモを顔の上に掲げる。
拓馬は美しい優深に一目惚れし、振り向いてもらおうとがむしゃらにアタックした。
シノ様は優深を女の子と勘違いして、真実を知った後も恋心が消えなかった。
ユキちゃんにとって優深は最初、多くいる相手の一人に過ぎず、次第に飽きて楓の次に離脱した。
さーさんは優深に愛さんを重ね、自分が間違っていると分かっていても止まれなかった。
ゆっくんは優深に執着し、愛を求めていた。
「……よく考えたら、ユキちゃんはともかく。ゆっくんだけは…優深に惚れる『理由』がなくない?最初は本当に、ただのクラスメイトだったし」
言ってしまえば彼は、自分を見てくれる人なら…誰でもよかったのでは?
それは、まるで。
親に放置されて育った子供が。他所のお母さんに母の愛を求めるのと、近い気がする。
「…………いや。全部憶測だし…
そもそも、大きなお世話かもしれないし」
けれど私達は知っている。
突き放されて、目の前が真っ暗になった時。手を差し伸べてくれた人の温かさ、眩しさを。
すっかりくたびれてしまった、メルヘンピンクのマスコットを取り出す。
あの後結局…グリーンは見つからず。メルヘンセブンが揃わないー!!と楓が嘆いていた。ありゃ可愛かったな〜。
しゃーないな。久しぶりに…楓の言う「ヒーローな行い」でもしますか!!
庵くんの家族にはなれないが、友達にはなれると思う。主に優深ちゃんが!
それで誰かに愛されて、まっすぐに愛することを知って欲しい。
その時スマホの通知音が鳴り、確認すると優深ちゃんからメッセージだ。何々……
[楓が千那をメルヘングリーンに任命しました]
………ん?
続いて写真が送られてきた。そこには…
カラオケボックスと思われる部屋で。
死んだ目をしている庵くんと。対照的に満面の笑みで肩を組む、楓の姿があった。
ちょっとずつ仲良くなろうと思ってたのに。爆速で近付きおった…




