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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
高校編
22/23

02


 進学し、早二週間。

 この日は…友達がみーんな予定があるって。空いてるのは私と…



「どっか寄り道するか?」



 この、優深ちゃんだけである。




「優深ちゃんさあ、今彼女持ちじゃん。私みたいな美少女と二人きりって、いいの〜?」


 すぐに帰る気にもなれず、教室で雑談をする。

 彼と電話はよくするけど…こうした時間を過ごすの、なんか久しぶり。


「いーよ。珠々も…「他の女の子は嫌だけど、ちかちゃんは全然いいわ!」って言ってるし」

「あはは、私ってば信用されてるのね。…………」




 優深ちゃんの運命が変わった時から。私は…



「…優深ちゃんさ。前世の私のこと、自分のこと。思い出せる?」

「…………」




 教室に僅かに残っていたクラスメイトもいなくなり。完全に2人きりになったところで…告げる。



 徐々に、数年掛けて。私の記憶は溶けている。



「…前世は姉弟で。それだけ…俺達は何歳で、なんで死んだのかすら思い出せない」

「………私も」



 それ以外のことは、鮮明ではないが覚えている。自分達に関することだけ…靄がかかっているように見えない。

 いつか全部、忘れちゃうのかな。



「まあとりあえず…今は前世と比べ物にならない美男美女ってのは確実ね」

「ああ、違いない」


 互いに目を見つめ、小さく笑う。



 数年前から、考えていたことがある。

 私達に前世の記憶があるのは。すうちゃん達を救って…未来を変えるためだったのでは、と。


 その漫画の内容も、子供の頃に書いたメモを見ないと思い出せないけど。本来なら私達は、こうして笑い合うこともなかったはず。



「ここは漫画の世界に限りなく近い…はずだけど。前世の私って、腐ってたんだねえ…」

「確かに…」

「「……あははっ!」」



 それでいい。私達はこの世界で…幸せだから。




 なんか久しぶりにゲーセン行きたい気分!でも一応名門校の制服だから、一旦帰って集合だ。

 今はただ、高校生という大事な時間を楽しむぜ!!!




 *




「このこの、えいっ!!」

「やったな!!おりゃっ!」

「ぬーーーっ!!」

「ふんっ!くらえー!!」


 うおおおおおっ!!!

 ガチャガチャガチャッ!と忙しなく手元を操作する。ヤバい、優深ちゃんの必殺技がくる…っ!!


 ジャ ジャーン デーテレッテーテー


「あーーーっ!!!」

「っしゃーーー!!!」


 画面には K.O LOSE と表示が…!



 白熱したバトルは、気付けばギャラリーが多数いて。

 優深ちゃんがガッツポーズを決めながら立ち上がると、わーっ!!と歓声と共に惜しみない拍手が送られた。



 お次はレースゲーム。


「俺がそのアイテム取ろうと思ってたのにっ!!」

「おーっほっほっほ!!」


 勝者、一華!



 よし、次は音ゲー!


 タンッ タタタンッ タッタンッ♪


「「……!っ……、…っ!!」」


 2人共無言で、ひたすら光るパネルを叩く。中々のスコア!






「「ふー…」」


 いやー、遊んだわ。高校生になってやっと、付き人無しで外出できるようになったから、はっちゃけすぎた。


「多分だけど、俺達。前もこうやって遊んだんだろうな」

「きっとね」


 だって私達、ゲーセン行ったの初めてなのに。

 あの騒がしさも、ゲームの遊び方も。魂が覚えてる…って感じだったもの。


 コンビニでジュースを買って、迎えを呼ぶ前にのんびり散歩。適当に歩いてたら、土手に出て来た。



「「…………」」



 ここまで来たら…やるっきゃねえっ!!!






 シュパパンッ!!


「見た!?五回跳ねたわ!!」


 川に向かって石を投げる、所謂水切り!平らな石をかき集め、いざ勝負なり!



 スパパパパッ!


「お、八回〜」

「うそっ!?ま、負けないわよ…!」




 ぎゃー ぎゃあ! あー…



「…ん?」


「十回、今絶対十いったってば!」

「いいえ九回ですーう!数え間違いよ!!」



 はあ、はあ…!

 互いに顔を真っ赤にして睨み合う。


 そこにふと、視線を感じ。なんとなく振り向くと。土手の上に…

 染められた茶髪を風に靡かせ、いつも微笑んでいる庵くんが立っていた。

 制服姿で…ここ学校から八駅くらい離れてるんだけど。家この辺なのかな?


 どうやら気付かれたのは想定外のようで、躊躇いながら降りてきた。



「こんにちは大橋、月見山さん」

「ああ、こんにちは」

「こんにちは」


 直前まで喧嘩していたなど、微塵も思わせない笑顔で答えた。手遅れだけど、一応学校じゃクール&大和撫子キャラなので!!


「えーと…何してるの?」


 うん、誤魔化せなかった。庵くんは私達から若干距離を取ったまま訊ねる。


「水切りだよ。今勝負してたんだ」

「水、きり?」

「やったことない?」

「無いかな…」


 庵くんは首を傾げて、深優ちゃんの持つ石を眺める。こう持って、こう…投げるっ! 実演してみせると、ほー… と感心した声を出す。



「やるか?」

「いや…下手だろうし…」

「そりゃそうだ、初めてやるんだろ?」

「私達も最初は、一回も跳ねなかったのよ」

「そう…?」


 そうそう!

 庵くんは興味はあるみたいで、カバンを地面に置いて石を持った。そして構えて…投げたっ!


 残念ながらボチャンと落ちてしまったけど。二回目は一回跳ねた!するとちょっと面白くなってきたのか…腕まくりをして気合いを入れている。





 数分後。


「あ、六回」

「「なにっ!?」」


 庵くん、飲み込み早い…!このままでは追い抜かれてしまう!!

 キャラも忘れ、親の敵のように石を投げまくる私達。庵くんは引きつった顔をして、土手の階段に腰掛けた。


 そして、控えめに言葉を発した。



「………あのさ、月見山さん。オレの家からきみんちに、お見合いの話が行ってんだけど…聞いてる?」



 え。手を止めて、優深ちゃんと一緒に振り返る。庵くんは気まずそうに目を逸らし、頬を指で掻いた。


 いや…初耳だな。高校生になった私には、色んなところからお見合い話が来ている。もしやその中に?

 帰ったら確認してみよう。そう告げると、庵くんは「分かった」と言い残し去っていった。



 変な空気になってしまったので、私達も解散して帰宅。真っ先に、お見合い写真を全部見せてもらった。


 上から確認していくと、何冊目かに庵家のものがあった。けれどこれは…千那くんじゃないぞ。名前は『庵秀輔』……だ、誰だ…

 庵くんに似ているが、やや年上っぽい…つまり?



 部屋に写真を持って行き、お久しぶりの漫画メモに目を通した。ふんふん…



 ゆっくんは……嫉妬深く、最後まで拓馬に対抗していた。兄と妹がいるらしいが、漫画には名前も出ていないので詳細不明。


 このお兄さんが、私のお見合い相手?





 夕飯の席でお父様に話を聞く。そこで庵家は代々続く地主の家系で…お兄さんは跡取り息子だと知った。ふうん…


 まあいいや。お兄さん含めて、全員お断りすると両親に伝えた。

 二人共驚いてるけど、今後新しく送られてきても、全部いらないともお願いする。



「あ……でも。その…

 も、もしも。東雲家から届いたら……教えて」

「「ふうん…?」」


 くっ…!両親がニヤニヤと、私の顔を覗き込む。なんか言いたいことでもおありで!?いいじゃん別に!!





 ***





 庵くんには直接言っておこう。朝、教室の後ろのほうに呼び出す。


 焦ったような庵くんに「一度会ってみようとかもダメ?」と言われたが…それもお断り。

 相手に不満があるとかではないので、どれだけ良い人でも無理。なんというか……その。




 前から誰かに告白されたり、お見合い話を持ち掛けられる度に…私は。

 どうしても…戦隊ヒーロー大好きな、八重歯が可愛い男の子を思い浮かべてしまう。



 なんと言いますかね。最初は彼の片想いだったけど、いつの頃からか。

 私も彼に惹かれていると…自覚してしまったんだ。


 楓と私が同じ気持ちなのか、本人に確かめた訳ではない。向こうはとっくに冷めていて、私が1人舞い上がっているだけなら哀しいピエロだが…


 そんなの恐れていては、恋愛などできぬわ!!




「と…とにかく。私、好きな人いるから…」

「そっか…わかった、無理言ってごめん」

「ううん!」


 お互いに頭をペコペコ下げて、この話はおしまい!

 席に座ってカバンの中身を出していたら、後ろから指で突かれた。


 そこには栞ちゃんが、目をキラッキラに輝かせていて。鼻息荒く、それでも興奮をどうにか抑え込んでいる様子だ。



「ね、一華!あのさ…好きな人がいるって、マジ!?」

「えっ!!?」


 聞こえてた!?一瞬で頭が沸騰しそうに熱くなり、続く言葉が出てこない。



「ウチ今めっちゃ根掘り葉掘り聞きたい気分なんだけど。オッケ?」



 ぐ……ここでは、ちょっと。

 その後合流したすうちゃんと共に…放課後我が家に集まることとなった…





 *





「…だから。好きになった切っ掛けなんて無いのよ。気付いたら、だもの」

「「ひゃあ~~~!!」」


 栞ちゃんもすうちゃんも、真っ赤な頬に両手を当てて叫ぶ。もう勘弁してぇ…


「かえちゃんって昔から、ちかちゃんのこと大好きだもんね~」

「そうなの!?なんでコクられてないの?」



 それが…その。アホな話ではあるのだが。



 彼は私の「楓がいい男になったらね~」という言葉を律儀に守っているらしいのだ。私の馬鹿!!


 その為自分磨きに勤しんでいらっしゃる。これは優深ちゃんが「お前は充分いい男だぜ」と言ってくれたお陰で、大分自信を持っているけれど。



 問題はそれだけではない!これはレンさん情報なんだが…



「楓は……私が、髭好きだと思ってて…

 髭が生えたら、告白するつもりらしい…の…」



 沈黙、からの数秒後。

 二人は狂ったように大声で笑い転げ…腹を抱えて呼吸困難になっていた……短パン見えてるよ栞ちゃん。




 ならば私から告白すればいいのだが。諸事情あり、それも難しい。

 なのでどうにか楓から言うように仕向けたい状況なのである。



 もう早く告白してくれよお!私もすうちゃんみたいに堂々とイチャイチャしたいよお!!





 ***





 翌朝。


「一華!おはよう!」

「おはよ…楓…」

「珠々も、栞子もおはよう!」

「「おはよう」」


 楓の背中を見送る。二人のニヤニヤ顔はスルーする。くっそー、告白ってどうさせればいいんだ…!




 ホームルームが始まる直前に、庵くんがギリギリで登校してきた。



「ん?どうした庵、その怪我」

「アハハ…寝ぼけてベッドから落ちてしまいまして」


 庵くんは頬に大きなガーゼを貼っている。

 先生は「気を付けろよー?」と軽く流し、クラスメイトも「ドジだな」と笑う。


 だが私は、なんだか嫌な予感がして。同じ考えだろうか、難しい顔をしている優深ちゃんと頷き合った。






 昼休み…私達はけっこうバラバラに過ごしている。沖さんとか、撮影でいないことも多いしね。今日は…



「ごめんねすうちゃん、ちょっと優深ちゃん借りるね」

「はーい!じゃありこちゃん、今日は二人で食べよっ」

「オケー」



 ランチバッグを持って学食へ向かう。広い学食はお弁当スペースもあるのだ。

 そこには先に優深ちゃんがいた、向かいには…


 めっちゃ困惑顔の庵くんもいる。優深ちゃんに誘ってもらいました。



 私と庵くんはお弁当、優深ちゃんは学食で買ってきた。ではいただきます。




「今日俺、拓馬達とカラオケ行くんだけど。庵も来ない?」

「オレ?いや…迷惑じゃないか?」

「いや全然、特に楓は大歓迎だと思うぞ。後は二年生が一人いるけど」

「……じゃあ、お邪魔するよ」



 何それ、私聞いてない。誘えやコラ。

 が…沖さんはSNSに上げる為、女子が映っていると説明が面倒らしい。じゃあいいか。



 何故かというと…先日放送されたバラエティ番組で、沖さんは見事な音痴を披露した。ヤラセとかでなく、彼は本当に下手なのだ。

 なので「もう歌ヘタとか言わせない、放課後友達とカラオケで特訓でーす」って流れ。




 食事も終わり片付け始めたら…庵くんが控えめに口を開いた。



「それで、なんで今日はオレを誘ってくれたんだ?」

「あー…ちょっと、聞きたいことがあって」


 優深ちゃんは私にアイコンタクトを送る、頷いて返事した。




「今朝ベッドから落ちたっての、嘘だろ?」

「えっ…」


 庵くんは鳩が豆鉄砲を食ったよう。けれどすぐに微笑んだ。


「はは…そんなこと」

「普通、肩や背中とか打つだろ」

「怪我をするほどの勢いで顔から落ちたら、今頃病院だと思うよ」

「……………」



 彼は返答に困ったのか、口を閉ざした。

 あの怪我は多分…誰かに殴られたものだろう。わかっちゃうんだよねそういうの。



 これは単なるお節介。それでも庵くんが拒絶するなら…私達は踏み込まない。



「というか、その。勘違いだったらひっじょ〜に恥ずかしんだけど。

 私がお兄さんとのお見合いを断ったの…関係あったり?」



 タイミングがよすぎて、それを疑ってしまう…


 しかし庵くんは…微笑むばかりで何も答えない。

 その無理矢理作ってるような笑顔に、鳥肌が立ってしまった…





 庵くんは先に戻ると言って立ち上がり、振り返ることなく学食を後にする。



 私達はその後無言で片付けて、遅れて教室へ向かった。





 *





 今頃男子はカラオケかなーと思いながら、ベッドに仰向けになり漫画メモを顔の上に掲げる。




 拓馬は美しい優深に一目惚れし、振り向いてもらおうとがむしゃらにアタックした。


 シノ様は優深を女の子と勘違いして、真実を知った後も恋心が消えなかった。


 ユキちゃんにとって優深は最初、多くいる相手の一人に過ぎず、次第に飽きて楓の次に離脱した。


 さーさんは優深に愛さんを重ね、自分が間違っていると分かっていても止まれなかった。


 ゆっくんは優深に執着し、愛を求めていた。




「……よく考えたら、ユキちゃんはともかく。ゆっくんだけは…優深に惚れる『理由』がなくない?最初は本当に、ただのクラスメイトだったし」



 言ってしまえば彼は、自分を見てくれる人なら…誰でもよかったのでは?

 それは、まるで。



 親に放置されて育った子供が。他所のお母さんに母の愛を求めるのと、近い気がする。




「…………いや。全部憶測だし…

 そもそも、大きなお世話かもしれないし」




 けれど私達は知っている。

 突き放されて、目の前が真っ暗になった時。手を差し伸べてくれた人の温かさ、眩しさを。




 すっかりくたびれてしまった、メルヘンピンクのマスコットを取り出す。

 あの後結局…グリーンは見つからず。メルヘンセブンが揃わないー!!と楓が嘆いていた。ありゃ可愛かったな〜。



 しゃーないな。久しぶりに…楓の言う「ヒーローな行い」でもしますか!!

 庵くんの家族にはなれないが、友達にはなれると思う。主に優深ちゃんが!


 それで誰かに愛されて、まっすぐに愛することを知って欲しい。



 その時スマホの通知音が鳴り、確認すると優深ちゃんからメッセージだ。何々……






[楓が千那をメルヘングリーンに任命しました]



 ………ん?

 続いて写真が送られてきた。そこには…



 カラオケボックスと思われる部屋で。

 死んだ目をしている庵くんと。対照的に満面の笑みで肩を組む、楓の姿があった。




 ちょっとずつ仲良くなろうと思ってたのに。爆速で近付きおった…


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