交換
しばらくして仁様に呼ばれて雲垓様がやってきた。突然牢に呼び出され、初対面の私に困惑する彼に髪飾りを見せる。
「これに見覚えは?」
髪飾りを雲垓様に手渡した。
「これは、私が鈴麗にあげたものだ……」
戸惑いの表情を浮かべていた雲垓様は、ハッとして髪飾りを見つめる。そして、手の中のそれを握りしめ力なく答える。
「鈴麗様からいただきました」
「あなたがこれをもらったということは……そういうことなのでしょうね」
雲垓様は悲しそうに髪飾りを私に返そうとする。しかし、私はそれを受け取らなかった。
「なんでですか? 失礼ですが雲垓様のその様子……鈴麗様の事を嫌いだとは思えません。お互いまだ好きなのでは?」
「その様子ですと、鈴麗様から話を聞いてるみたいですね。私は鈴麗様とは彼女が生まれた時から知っています。鈴麗様のお屋敷で働いていたのが母で、私はそこで鈴麗様と育ちました……しかし、立場は主の娘と雇い主の息子」
「そんな立場なんて聞いていません! あなたの気持ちは? 鈴麗様を女性として見れないのですか?」
私の問いに対し、雲垓様は何も言わず黙り込む。
「それに……鈴麗様はもう後宮の后妃候補……という事は陛下のものです……」
仕方がないんだと自分に言い聞かせるように呟き、拳を握りしめている。
「ああ! じれったいな! あんた男でしょ⁉ しかも武人! あんたの本当の気持ちはどうなのよ! 好きなの嫌いなの⁉」
大の男がグジグジと!
私は我慢出来ずに雲垓様の胸ぐらを掴んだ。
「お、おい……」
仁様が止めようと声をかけるが私の剣幕にたじろぐ。
ここまでやってあきらめきれるか!
「鈴麗様は、これを昨日の今まで大切に取って置いたんですよ! 女官に捨てろと言われても捨てられずに、ボロボロになるまでつけ続けた鈴麗様のあなたへの思いを感じませんか?」
雲垓様は、ハッとして髪飾りを握りしめた。それから苦しげに声を絞り出す。
「好き……です。本当なら待っていて欲しかった。そう思いを込めてこれを贈った」
「雲垓様の気持ちはよくわかりました。その言葉を聞きたかった」
私は掴んでいた胸元から手を離してポンポンと正した。
「気持ちがわかったとして……どうしようもありません……」
「それはどうかな」
後ろで話を来ていた仁様が口をはさんだ。
「え? 仁様……」
雲垓様が驚いて振り返ると、仁様が笑っていた。
「仁様、もしかして協力してくれるんですか?」
「その前に、雲垓。本当に鈴麗と添い遂げたいのだな?」
仁様に見つめられて雲垓様は覚悟を決めたように頷いた。
「わかった、私がどうにかしよう」
仁様が自信ありげに口角をあげる。
私を得て喜びに、雲垓様に笑いかけた。
しかし雲垓様はなぜか引き攣った顔で笑っていた。
「ただ、条件がある。王蘭はなぜ折り紙と言うものを知っているのか、それに先ほどここで書いていた文字はいったい何なのか……お前の隠していること、抱えている事
を包み隠さず話せ」
仁様は牢屋で書いていた落書きが気になっていたようだ。
それに抱えている事? まさか私の秘密を?
顔を見れば興味本位だけでなく心配している顔がみえた。
「わかりました……ですが鈴麗様を本当に後宮から出せるんですか?」
私は少し考えて答えると疑いのまなざしで仁様を見つめる。
南明様は陛下となにかしら関わっているような文官に見えるが、仁様は……
すると、私が疑っているのがわかったのか仁様が口を開いた。
「私は皇帝陛下の側近をしている。陛下に助言をする立場にあるから上手く誘導してみせる。そんな他人の事を好きな女など後宮にいても意味ないしな」
なんか最後の言葉は納得いかないが……この人、皇帝陛下の側近なのか……
改めて仁様をジロジロと見つめる。
見目がかなりいいから側に置いてるのかも。陛下のそばでここにもホイホイ来られる立場なら宦官だろうし……
こんなにモテそうなのに無いとは少し可哀想になる。
「そうですか……では、よろしくお願い致します」
私は少し慈悲の気持ちが芽生え、優しく声をかけて仁様達に頭を下げた。




