Another-7
クリスマス。
外国ではイエス・キリストの誕生を祝う聖なる祭。
日本ではサンタクロースの存在を信じる子供たちが喜ぶ行事でもあり、恋人たちの特別な日である。
そして、私達上杉家にとってはその日は両親の命日でもある。
だから毎年12月25日は弟の綺都と隣町まで行って両親の墓参りをしてそのまま街で夕御飯を食べて綺麗なイルミネーションを見て互いにプレゼントを買って帰る。
いわゆるデートみたいなことを兄弟でしていた。
今年も何も変わることなく弟の綺都とクリスマスを過ごすと思っていたのだ。
だが。
「24日、友達と遊びに行くことになった。」
「え?」
弟の綺都が鮭の切り身をほぐしながら私に聞こえるか聞こえないか程の声量でそう言った。
聞き間違いなのかもしれない。一応確認して(うざいと思うが)もう一度聞いてみた。
「24日、遊びに行くんだ。神崎と後輩の女の子と。」
聞き間違いではないようだ。
驚いた。まさかあの綺都が友達とクリスマスを過ごすなんて。
しかも相手は女の子二人。
高校二年生の私ですら異性と遊びに行ったことなんてないのに三つ年下の弟に先を越されてしまうとは。
黙りこんでいる私に気がついた綺都は心配そうに顔を上げた。
「もしかしてもう24日のケーキ予約した?」
「えっ!? し、してないよしてない大丈夫! 」
そう、毎年24日のクリスマスイブはケーキを買って二人でご馳走を並べて食べていた。
ケーキは毎年予約しているから綺都はきっとそれを心配して聞いたのだろう。
うん此処のところ言わせてみればね、もう買ってしまいました。しかも今年はお金に余裕があったので奮発していつもよりも豪華なものを頼んでしまいました。
だがそれがなんですかとも。
あの綺都が初めて友達とクリスマスを過ごすのですよ(しかも異性)?
これは姉として応援するしかないじゃないですか。
ケーキは25日の朝からにでも食べればいいしなんの問題もありませんよ。
だから綺都そんな顔をしないで。罪悪感にまみれた顔をしないでくださいそうだよねここで私がもっと嘘つくのが上手だったら綺都をそんな顔にさせなかったんだろうね。
「大丈夫だよ綺都。ケーキは朝に食べよう。」
「いやでも…別に遊ぶ日にち変えられるし、夜に姉さん一人家に居させるのはちょっと気が引けるというか……。」
「気にしないでいいって! 楽しんできてね!!」
少し無理矢理だったがそう言うと綺都は「そっか」と渋々了承して再び鮭をほぐし始める。
「それにしても凄いね。女の子と二人で遊びに行くなんて……遊びに行く場所は決まってるの?」
「決まってないかな。…まあ、アイツのことだからそんなマセた所とかは行かないとは思うけど。」
「そうなんだ……楽しんで来なきゃだめだよ?」
「……ん、」
箸をくわえながら照れ臭そうに頷く綺都を見て心の中で私は可愛いいいいいいと悶絶する。
すると不意にケータイの着信音が鳴り響いた。
バイブするケータイを急いでポケットから取り出すと宛先名は親友の紗織ちゃんからだった。
席から立ち上がり廊下に出て通話ボタンを押した。
「はい上杉です。」
『あ、もしもしカスカ? 大丈夫なんかの途中とかだった?』
「ううん大丈夫。どうしたの?」
『24日の事なんだけど、もうチキン頼んじゃったのにうちの妹が急に予定作っちゃってさ。一人なんだよね。よかったらウチでクリスマス一緒にしない? ほら弟くんも連れてさ。』
「あー…実は綺都もその日予定入っちゃって……。私一人でもいいかな? こっちもケーキ頼んじゃったから。」
『全然いいって! なんならそのまま泊まりなよー!』
「え、大丈夫…? 邪魔にならない?」
『全然w なら5時半にそっち迎えに来るから!』
「あ、ケーキ持ってくるね。」
『ありがとう! あ、なるべくオシャレしてきて欲しい!』
「オシャレ?」
普段聞かないそのワードに思わず眉間にシワを寄せた。
オシャレなんて運動の次に苦手なのだが……。
「オシャレはとりあえず頑張ってみます。」
『がんばれww あ、パジャマも忘れずにね。』
「うん。……楽しみにしてる。」
『私も。ならじゃあね!また24日に!』
「うん。バイバイ。」
そう言って通話終了のボタンを押す。
リビングに戻ろうと後ろを振り返ると綺都が腕を組みながら私の目の前に立っていた。
「ケーキ、俺の取っとかなくていいよ。…あと紗織さんによろしく言っておいて。」
「……え、紗織ちゃんと知り合いなの?」
そう言うと綺都は驚いたかのように目を丸くして私を見た。
「どこからどうみても姉妹でしょ…名前も似てるし。」
「そ、そうなの!!?? 驚いた!!」
「逆に姉さんに驚いたよ。……楽しんで来てね。」
綺都は小さく笑って見せると手を振りながらそのまま自分の部屋へと階段を登っていってしまった。
先程並んだ時に自分よりも高かった背丈。
階段を登って行く時の後ろ姿を見て、つくづく成長していってるんだなと感じた。
前よりも少しだけ表情豊かになった気がする。
自分の知らないところで綺都が成長していってるのがどこか嬉しくて、寂しくて。
いつか私の側からいなくなってしまうんじゃないのだろうかと不安になった。
私は目の前にある階段をしばらく見つめ続けていた。




