32.現実の幼なじみはこんなことしない
<前回のあらすじを30文字以内で説明せよ。>
雄市「ツッコミ不在の恐怖。」
美織「翼と上杉は外で本気の鬼ごっこ開幕してます。」
梓馬「トンカチで頭叩けば記憶無くなるって本当なんすかね?」
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「…………。」
「よっ、お邪魔してまーす。」
我が家に帰って自分の部屋に行くと、馬鹿な幼なじみが俺のベッドを占領して漫画を読んでいた。
馬鹿な幼なじみ……美織に苛つきを覚えた俺は理不尽にベッドに寝転がっている彼女を軽く蹴った。
「今日遅かったけど、何かしてたのかい?」
「ふん、貴様には関係ないだろう。」
カッターシャツを脱ぎ捨てて俺は部屋着に着替える。
普段なら風呂に入るが今日は疲れて入る気力がなかった。
疲れてるにもかかわらずこの馬鹿は話し掛けてくる。
「ははーんさては命子ちゃんとあんなことやそんなことしていたな。隅におけない奴め。」
「そうだなあんなことやこんなことをしたぞ。」
「は? マジで?」
「……今日は疲れているんだあまり話し掛けるではないわ。」
「確かに、目が死んでる。」
そう言うと美織は漫画を置いて俺の頭を優しく撫でた。
この馬鹿に子供扱いされるのは物凄く悔しくて腹立たしいが抵抗するのも面倒くさかった。
俺はそのまま布団に入って寝の体勢に入った。
「うわぁ、ホントに疲れてんね……。ダイジョブ?」
「ふん。貴様に心配される筋合いはない。……上杉と仲直りは出来たのか?」
そう言ってみせると、美織は困ったように笑った。
「してない。明日謝るつもり。」
「まあ、勝手にしておけ。俺には関係ないことだ。」
「いや翼からふってきたじゃんこの話。」
「何かあったのか、美織。」
「……しばらくの間一緒に寝ていい? 最近なんか眠れなくてさ。ひとりが寂しいんだよね。 」
美織は家から持ってきたのだろう、淡い水色の可愛らしい枕を出して俺に見せてみせた。
いやというか既に俺には拒否権ないんかい。
俺が舌打ちをしながらかけ布団を広げてみせると美織は躊躇なく俺の布団に入ってきた。
上杉に合わせる顔がないな全く。
「貴様男の布団に入るんだから少しは躊躇え。」
「何を今更。弟みたいなもんだよ。」
「……ふん。」
「……翼も、命子ちゃんと何かあったの?」
目と鼻の先で美織が心配そうな顔をするのがわかった。
『復讐なんて、するわけない!!』
泣きながらそう叫ぶ命子の姿がふと脳裏に浮かんだ。
最初は本当に美織に復讐しに来たのかと疑うばかりだった。
だが今日の上杉との会話を盗み聞きした時、その疑いは晴れることになった。
あいつが転校してきたのはただ純粋にこいつに会いたかっただけだ。敵意など全くといって持っていなかった。
消えない傷を作った張本人は命子の転校に不安を抱いているがあいつの動機はただただ健気だった。
それなのに俺は勝手に思い走って美織との接触を断たせ続けた。
よりを戻そうとしていたあいつの邪魔しかしていなかった。
自分の卑しさに腹が立った。
「…美織。」
「ん?」
「貴様…命子とよりを戻さないのか。」
「……………………。」
「アイツは、お前を恨んでなんかいない。転校してきたのも、お前とやり直すために来たそうだ。」
「……私だって、より戻したいよ。」
弱そうな小さい声でそう言って美織は俺の服をぎゅっと掴んだ。
その手は震えていた。
「私だってまた……みっちゃんと一緒にいたい。でも駄目なんだ、あの傷をつけたのは紛れもない私なんだ。みっちゃんが私を許してくれても私が許せない。」
「…貴様は本当に自分のことになると不器用だな。」
「ほっとけ。」
そう言って美織は俺の頬に手を当てた。
白くて細いその手は、いつもよりも情けなく感じた。
美織の暖かい視線がくすぐったくなった俺は自分の手でこの馬鹿の目を隠して視界を塞いだ。
「今から言うのは大きい独り言だ、気にとめるな。」
「うぃ。」
「…今まで俺は命子を敵視してた。美織同様に復讐しにきたと思っていたからだ。けど今日、上杉とアイツの会話を盗み聞きした。命子はただ美織とやり直す為に転校してきたと言っていた。美織に避けられてるのはわかっている、と。…俺はアイツを遮断するばかりだった。健気な動機を勝手に自分の中でけなし続けた。」
自分の手と声が震えるのがわかった。
こんなに人情的だったのか、俺は。
「上杉も命子を疑っていた。でもアイツは、命子の本心を聞いたとき躊躇わずに命子を抱き締めて謝っていた。それで俺は言葉を失った。俺にはそんな優しさを振る舞える自信がなかった。」
「……。」
「そのあと命子と二人になったが、上杉のように謝罪をのべようとしたが、出来なかった。」
命子が俺の記憶の中で泣き叫んでいる。
やめろ、泣くんじゃない。それは俺のせいで泣いているのか?
「……どうしたら上杉みたいになれる? 上杉みたいに、優しく素直になれる?」
すると美織が俺の手を振り払った。
視界の中の美織は霞んでいて、あまり見えなかったがとても強い目をしていた気がする。
「大丈夫だよ。翼はもう充分優しい。だから、泣くなよ。」
「泣いてはいないぞ。」
「お互い今日は、眠れそうにないね。」
そう言って困ったように美織は笑った。
俺もつられて「そうだな」と一瞥すると目から熱いものが流れるのを感じた。
目を瞑っても命子の泣き叫ぶ姿がフラッシュバックする。
あの傷を不細工と罵っていた。
だが俺にはあの傷を負った貴様を不細工とは思えなかった。
あの時醜い傷が忌々しいと言っていたが上杉との会話の時に優しく己の傷を撫でた貴様は
「とても綺麗だったぞ。」
「は? 何が翼?」
なんて死んでも口にしないけどな。
そのまま俺は瞳を閉じた。
どうやら美織の言った通り今日は本当に眠れそうにない。




