28.ボクっ娘(トゥンク…)
<前回のあらすじを30文字以内で説明せよ>
雄市「…何お前廊下に立ってんの? 科学室入らねーの?」
翼 「いや入りたいけどなんか凄い展開だから入れない。」
雄市「お前、シリアス苦手だろ。」
翼 「それを言ってしまってはおしまいぞ。」
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「この傷つけたの、美織ちゃんだから。」
「……っ。」
吐き気を覚えた綺都は口を抑えてその場でしゃがみこんだ。
あの痛々しい傷を、神崎がつけた?
なんで?どうして?どうやって?
だんだんと、綺都の呼吸が荒くなっていく。
あの美織がそんなことをするなんて考えたくもなかった。
綺都のそばにしゃがみこんだ命子は彼女らしくない青色のシンプルなデザインのハンカチを差し出して優しく綺都の背中をさすった。
「見てわかる通り、失明してるよ。もう二度と見えることはない。傷もこう見えて全然痛くないんだよ。」
「……失明って」
「うん。この傷のお陰で色んな人から気持ち悪がられたよ。……それも転校してきた理由の一つかな。」
そう言って命子はにっこりと優しく微笑んだ。
いつもの彼女の笑顔と同じはずなのにその笑顔を見てどうしてか背筋がゾワッとした。
「復讐のためか。……神崎に復讐するためか?」
「さぁ、どうだろうね。」
「やり返しても、何も生まないぞ。」
綺都はもらった青いハンカチを命子に叩き付けた。
それに対して彼女は口を尖らせて「貰い物なのに。このハンカチ。」と不満そうに愚痴りハンカチを拾い上げた。
「喧嘩してる仲の状態でも親友の為にそんな風になれるって凄く良いことだと思う。……うらやましいなぁ。」
「質問に答えてくれ。復讐しに来たのか?」
「……。」
命子は眉間にシワを寄せて押し黙る。
「神崎にその傷と同じような傷をつけるために、やり返すためにウチに来たのか?」
「……」
「もしもそうなら帰ってくれ、みっちゃん。」
「……嫌だ。帰らない。」
「そんな理由で転校してくるのなら、元いた所に戻ったほうがいい。みっちゃん、復讐はさせない。」
命子は聞こえるくらいに歯をギリッ、と食い縛り忌々しそうな瞳で綺都を睨み付けた。
「…綺都くん。君、美織ちゃんのなんなの?」
「友達だよ。…神崎は俺の大切な人だ。」
「……っ!」
「だから守る。恩返しをしなければいけないんだ俺は。」
「うるさい!!!!!!!!!」
すると突然命子は立ち上がって、大きく口を開けて校内中に響き渡るくらいの声量で叫んだ。
あまりの五月蝿さに綺都は鼓膜を塞ぐ。
「なんで!!? なんで私を悪者扱いするの!!! 綺都くんも翼も、なんで私を元いた学校に帰らせようとするの!!?」
両目から水道の蛇口を捻ったかのように涙を出して泣き叫ぶ命子を見て綺都は唖然とする。
「復讐なんて! するわけない!! したいとも思わない!! ボクはただっ、美織ちゃんに会いたかったの!! でも美織ちゃん、ボクのこの傷に大きい責任と罪悪感抱えててボクを避けるの! ボクは全然気にしてないのに……ただ依りもどしたいだけなのに!! なのに二人とも復讐しに来たとか、余計な事するなとか!! もおおおおおおおおおほんとになんでボクを悪者扱いs……」
「わ、わかった! ごめん悪者扱いして!! ホントにごめん!!みっちゃん落ち着いて!!」
次は綺都が優しく命子の背中をさすった。
それでも激しく嗚咽を吐きながら彼女は泣き続ける。
こういうとき、どうしたら良いのだろうか。
アイツなら、どうするのだろうか。
ふと綺都は神崎の言葉を思い出した。
『不安なときとか悲しい時とか抱き締められると落ち着くんだよねー。』
もしも落ち着くのならそれが最良なのならば最善策なのかもしれない。
綺都は命子の正面に座って静かに彼女の頭部を自分の肩に寄せて優しく抱擁してみせた。
抱き締められた命子が驚いて固まったのがわかった。
「……何してんの綺都くん。」
「悲しい時や不安な時、抱き締めたら落ち着くって神崎が教えてくれたから……落ち着く?」
「綺都くんって…天然タラシなんだね。」
そう言って命子は綺都の背中に腕を回す。
綺都は少しだけ緊張して身体をピンと伸ばした。
「落ち着くよ。…ありがとう。」
「ごめん、勝手に決めつけて…ハンカチ叩きつけて。」
「ほんとだよ。……私も美織ちゃんのこと、大好きだもん。綺都くんも、好きなんでしょ美織ちゃんのこと。だから、あの時怒っちゃったんだよね。別の男の子に頼ってたから、ヤキモチ妬いちゃったんでしょ?」
「えっ、ち、ちがう!」
「えー? 顔が赤いよ綺都くーん。」
「何科学室でイチャついとるんだ貴様らあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「「わーーーーーーっ!!!!!?」」
突然勢い良く開く科学室の扉。
扉を開いた張本人、広瀬翼はこの世のものとは思えない形相で抱擁しあっている綺都と命子を見下ろした。
「全く貴様らは! これから部活だというのにいつまで経ってもイチャイチャしゃがって! ずっと外で入るタイミングを逃した俺の気持ちも考えろ!!」
「は!? いつからいたんだよ!!」
「"ごめんみっちゃん、俺昔から嘘つくの苦手なんだ……"辺りからずっとだな。」
「滅茶苦茶前じゃねぇか!入ってこいよ!!」
「俺はシリアスは苦手なんだ!自ら飛び込む気は無い!」
「ずっと盗み聞きしてたとか最低!翼のバカ!スケベ! 」
「貴様命子誰がスケベだ!!というか上杉には別に想い人がいるんだ離れんか! 抱擁なら代わりに俺がしてやる!!オラ!」
「いやああああやだやだやだ!!スケベじゃん!」
「おい広瀬想い人なんていねーよ何言ってんだよ!!」
「るせぇえ!貴様はとっとと帰れこの帰宅部!!」
「なんていう理不尽!!」
背中を無理矢理押されながら綺都は科学室から追い出された。
中からまだ命子の悲鳴が聞こえる。
ため息をつきながらも綺都は帰ろうと決心して鞄を手にとり、科学室をあとにした。
靴を履いて昇降口を出ると、記念碑に腰掛けている人影が見えた。
普通ならば無関係者なので通りすぎるが、綺都は人影の主を見て足を止めた。
「広瀬さん……。」
名前を呼ばれた翼の実兄、広瀬礼は静かに立ち上がった。
「わりぃ綺都。……時間あるか?」
凍える季節となった12月の夕方、雪がチラチラと降り始めた。




